3期目に入った習近平指導部の台湾侵攻シナリオとは 防衛研究所の門間理良・地域研究部長に聞く

3期目に入った習近平指導部の台湾侵攻シナリオとは 防衛研究所の門間理良・地域研究部長に聞く
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『 3期目に入った習近平指導部の台湾侵攻シナリオとは 防衛研究所の門間理良・地域研究部長に聞く

政治・外交 国際・海外 安保・防衛 2022.11.26

谷田 邦一 【Profile】

中国共産党は10月の党大会で、最高規則にあたる党規約に「台湾独立に断固反対し抑え込む」との強い決意を盛り込んだ。3期目に入った習近平指導部は、どのような台湾有事の侵攻シナリオを描くのか。また軍事的圧力を強める中国に対し、隣国日本はどう向き合えばいいのか。台湾研究が専門の門間理良・防衛研究所地域研究部長に聞いた。

門間 理良 MOMMA Rira

防衛省防衛研究所地域研究部長。筑波大学博士課程単位取得満期退学。南開大学、北京大学に留学。台北と北京での専門調査員、文科省教科書調査官を経て2012年防衛研究所入所。2020年より現職。学術月刊誌『東亜』で「台湾の動向」を連載中。

「実戦派」を起用

─中国の新指導部の顔ぶれが決まりました。今回の布陣のもとで、台湾をめぐる中国の安全保障政策はどのように変わるとお考えですか。

人事で注目すべきは、共産党の中央政治局常務委員会と軍の中央軍事委員会の2つです。私は栗戦書と韓正が引退し、後継候補を常務委員会に入れない5人体制を予想しましたがはずれてしまいました。常務委員は習氏の地方勤務時代の部下などが起用され、すがすがしいまでのお友達人事でした。習氏は台湾問題については、自分こそが最も理解しているとの思いのまま突っ走るところがあって、やりたいようにやっていくと見ています。

一方、軍事委員会の制服トップの副主席にも、父親同士が戦友でもあった張又俠上将と、台湾正面を担当とする東部戦区司令員を務めた何衛東上将を起用しました。共通するのは「実戦派」だということ。張氏は1979年の中越戦争の時に連隊長を務めましたし、何氏も西部戦区の副司令員兼陸軍司令員として中印紛争を経験したとされています。つまり2人とも「リアル・ウォー(現実の戦争)」を知る立場にあるということです。もっとも、中越戦争の経験は現代の戦争に役には立たないでしょうが。

私自身は台湾侵攻が数年以内に起きるとは考えていません。しかし、この布陣を考えると頻繁に演習を繰り返すなど、台湾に対して強い軍事的圧力をかけ続けるようになると読むことができそうです。

─党規約には「一国二制度による平和統一」という表記は残ったものの、「台湾独立に断固として反対して抑え込む」との文言が入りました。どんな変化が起きるのでしょうか。

歴史的な経緯で言うと、中国共産党にとって台湾はいまだ解放されていない地域です。そこは絶対に奪回するという強い決意の表れでしょう。中国では領土を奪われる皇帝は無能というレッテルを貼られました。習氏個人としては、奪回することで毛沢東と並ぶ存在になれるということ。共産党としても、およそ9000万人いる党員の中で統治の正統性を主張するために、台湾統一は避けて通れない道なのです。また、党大会政治活動報告で5年前にはなかった「武力使用の放棄を約束しない」という文言を今回入れたことで、大きな変化が読み取れます。5年前はまだ一緒にやっていけるというニュアンスがありましたから。

台湾問題を語るとき、注目すべきは中国が今年8月に発表した「台湾白書」です。22年前に出した白書との違いが3つあります。1つは米国との対決姿勢が色濃く出ていること。もう1つは、統一後の台湾の政治的地位が今の香港並みに制限されていることです。最後は、統一する過程で、民進党を必ず排除しなければならないとしていることです。台湾に対しては非常に厳しい内容になっています。

台湾有事のシナリオを考える

─中国軍による8月の大規模演習を分析して、最も興味をもったのはどこですか。

人民解放軍が設定した海空域の場所です。台湾本島を取り囲むように設定された箇所は、主なものが6つありました。実際に侵攻する際、こうした海空域を使うのではと予想させるものです。例えば、台湾東部の海域は、人民解放軍の艦艇を集結させたい場所と見られますが、そこにミサイルを撃ち込んだのは米空母機動部隊をけん制する目的でしょう。また本島北部の2カ所と南部の高雄沖の1カ所は、中国軍の上陸最適地ととみなされている場所です。さらに言えば、バシー海峡にも設定されていたのは、米海空軍を寄せ付けさせないためと考えられます。

─日本の排他的経済水域を含む海域にまで演習域を拡大したのはなぜなのでしょうか。

台湾有事になって米軍が介入した場合、日本は後方支援をする可能性があります。日本が深入りすれば、すぐそばの海空域までが戦域に入ることになる、という警告の意味合いでしょう。今回の演習を見て、改めて日本はしっかりと準備しなければならないと思いました。このたびの緊張を、私自身は「第4次台湾海峡危機」と呼んでいます。中国側は今後も同じように大規模演習を通じて軍事的なプレッシャーをかけ続け、第5次、第6次危機といった具合に危険が高まるのでしょう。引き続き第7次、第8次と演習が続くと思わせておいて、突然、実際の軍事侵攻に切り替えるといったことが起きそうです。

─現時点で、中国共産党の侵攻シナリオをどう読んでいますか。いつごろ、どんな形で、どこまで踏み込むとみられるのでしょうか。

私は台湾本島に対する本格的な侵攻は、現在のところ起きえないと考えています。しかし東沙諸島など遠方の離島部は別で、2、3日で落とせると見ています。台湾軍も増援を送ったとしても損害が増えるだけなので、奪還を諦めるでしょう。台湾が自分で取り返さない島を米軍が取り返してくれるはずもありません。しかし、本島を狙う作戦は失敗のリスクが大きい。それは習近平政権の失脚のみならず、共産党支配の屋台骨を揺さぶりかねません。取る、取ると言い続けて軍事的・経済的なプレッシャーをかけ続ける方が、中国にとっては得策であるのは明らかです。

侵攻能力においても疑問が付きまといます。ロシア・ウクライナ戦争でも分かったように、ロシアのウクライナ侵攻が停滞した要因の一つは、ウクライナの防空システムを完全に破壊しきれなかったためです。中台関係でいえば、台湾側は中国のミサイルやサイバーによる攻撃を予期して以前から周到な準備をしています。航空優勢をとるのは困難でしょう。台湾側には優れた地対艦・空対艦ミサイルがありますから、海上優勢も難しい。何よりも上陸部隊を運ぶ艦船が少ない。民間船を徴発したとしても、初回の輸送で送りこめる兵力は10~15万人程度と思われます。台湾側の兵員は実員が20万弱ですが、予備役の一部を動員するだけで数十万の大兵力になります。これだけ戦力差があると上陸作戦は困難を極めるでしょう。また、上陸のために台湾本島に向かった中国の船は何割かが撃沈されますから、第2陣、第3陣の輸送力は着実に減少します。兵員の輸送のみならず先に上陸した部隊への武器・弾薬・燃料・食糧・医薬品の補給や、負傷者や戦死者の遺体の後送も絶えず行わなければならないため、着上陸作戦を実行するにも、中国側は相当な覚悟が必要です。

ウクライナ侵攻で中国の台湾戦略も変化

─ウクライナ戦争から中国は何を学んだと思いますか。台湾統一の動きに与える影響はありますか。

人民解放軍は今、戦況の推移を詳細に観察し、教訓事項を分析している最中だと思います。恐らく後方支援の重要性を改めて認識しているでしょう。当初、ロシア軍は強いと思われていたのに、燃料や弾薬がきちんと前線に届かず惨憺(さんたん)たるありさまです。陸上で国境を接しているウクライナでさえそうなのに、中国と台湾の間は100数十キロの海で隔てられています。果たして台湾本島に、数十万の兵力を送り込めるのか。送り込んでも、1カ月、2カ月と活動できるのか。仮に勝ったとしたところで、台湾を安定的に統治する必要があります。そんなことを考えると、容易には台湾侵攻はできない。逆に言えば、そういった問題を解決できるという確信を得た時には、中国は侵攻に踏み切る可能性があるのだと思います。

─台湾侵攻に失敗すると共産党政権の崩壊につながるとよく言われますが、どんな事態になると考えられますか。

中国の民衆の突き上げでしょうね。そういうものが必ず出てくると思います。人民警察や武装警察、そしてサイバーポリスがいたとしても、戦争継続中に中国国内から反対の声が湧き上がってくればとても抑え込めません。香港や新彊ウイグルと漢民族とでは人口の桁が違います。中国の歴史を見ても、民衆の反乱が政権を転覆させた例はたくさんあります。

─中国共産党大会の結果を、台湾側はどう受け止めていますか。蔡英文政権の対応に今後、どのような変化があるのでしょうか。

台湾側も党大会や台湾白書に対しては、一つひとつ反論はしています。でも短期で見るとあまり大きな変化がないように映るのですが、ここ1年とか長いスパンで見ると中国に対する反発は着実に大きくなっています。中国の軍事的脅威の大きさを理解しているので、国防費も来年は13%増額される見通しです。

─日本としては、台湾有事にどう対応すべきでしょうか。日中間の軍事的衝突を回避するにはどうすればいいとお考えですか。

やはり隙を見せないことが日本にとってとても重要です。自衛隊の能力向上や日米同盟の強化が大切です。要は、抑止力を高め、中国に「こいつと戦うと痛い目に遭うぞ」と思わせることです。中国からすれば、米軍が出てくるかどうかが一番のポイントです。日米が協力し合って台湾を見ているし、日本が攻撃されたら戦う覚悟があるという姿勢を見せなければなりません。

核の脅しというカードを切ってくるかもしれません。でも核を使って脅すことと、実際に使うことの間にはかなりの違いあります。軽々に「ひるんじゃいけない」とは言いづらいですが、脅せばすぐに腰砕けになると見透かされるようではいけません。そこまで持っていかせないようにすることが最も重要です。

バナー写真:2022年10月16日、中国・北京の人民大会堂で開幕した中国共産党大会で政治報告を読み上げる習近平総書記(手前、国家主席)

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ジャーナリスト、シンクタンク研究員。元朝日新聞編集委員。1959年生まれ。90年に朝日新聞社入社。東京社会部、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て、2021年5月に退社。現在は、ジャーナリスト、未来工学研究所(東京)のシニア研究員(非常勤)。主要国の防衛政策から基地問題、軍用技術まで幅広く外交・防衛問題全般が専門。防衛大学校や防衛研究所で習得した知見を生かし、新しい時代にふさわしい安全保障問題のアプローチ方法を切り開きたいと考えている。共著に『自衛隊 知られざる変容』『海を渡った自衛隊』(朝日新聞社)など。』