無党派層が遠ざけたトランプ氏 米民主党「健闘」の先は

無党派層が遠ざけたトランプ氏 米民主党「健闘」の先は
編集委員 菅野幹雄
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK105KR0Q2A111C2000000/

 ※ 2024年の大統領選挙、トランプ氏が候補者となった場合、バイデン氏が出馬するという可能性は、あり…、だろう…。

 ※ そうでなく、ペンス氏、ニッキー・ヘイリー氏、デサンティス氏などが候補者となった場合、バイデン氏以外となる可能性の方が高いだろう…。

 ※ そうなった場合は、「知名度が低い者同士の戦い」となり、勝敗の行方は「混沌」となるのか…。

『若者、女性、そしてトランプ前大統領。8日の米中間選挙を動かした要因は、この3つだろう。直前まで劣勢が予想された米与党・民主党は12月のジョージア州決選投票を待たずに連邦議会上院で多数派を維持し、下院でも先行する野党・共和党に「218議席」の過半数確保をなお許さず僅差に迫っている。最終結果はともかく、民主党の「健闘」だったことは確かだ。この意味を、我々はどう受け止めたらいいか。

終盤で目覚めた無党派層

各種の米世論調査は激戦州で、投票日を目前にした共和党候補の「上げ潮」を鮮明に示していた。政治サイト、リアル・クリア・ポリティクスの集計では、激戦州といわれた東部ペンシルベニア、西部アリゾナ、ネバダ各州の上院選で共和候補の支持率がいずれも民主候補を最後の2週間で追い上げ、投票日直前には逆転ないしは同率に追いついていた。赤をカラーとする共和党の「レッドウエーブ」の予感も自然だった。

ところが、ふたを開ければ、トランプ前大統領の推薦を受け、2020年の大統領選挙が不正だったとの主張に同調する3州の候補は軒並み敗れた。バイデン大統領は「とても満足している」と上院の戦いを自画自賛した。米メディアによると、トランプ氏はペンシルベニア州の候補敗北が伝わった夜、フロリダ州パームビーチの邸宅「マール・ア・ラーゴ」でメラニア夫人ら周囲に当たり散らしたという。

サプライズはなぜ起きたのか。AP通信の出口調査と米フロリダ大学「選挙プロジェクト」のデータでは、ペンシルベニア、アリゾナ、ニューハンプシャーなど民主党が勝った接戦の州で投票率が前回18年を3~4ポイント上回った。全体では前回を下回りそうだが、選挙の「熱量」は上がっていた。

タフツ大学の「サークル」による投票行動の分析によると、18~29歳の若者の63%が民主党に、35%が共和党に投票した。その差28ポイント。民主主義の将来や気候変動といった次世代がかかわる問題への関心の高さと危機感が民主党に向いたようだ。

人工妊娠中絶を巡る問題も選挙戦を左右した(中絶の権利擁護派を支援する民主党のニューサム・カリフォルニア州知事㊨)=AP

女性票の動向も見逃せない。米ABCの出口調査では有権者が投票にあたり最重視したテーマとして、インフレが32%、人工妊娠中絶27%だった。かねて群を抜いて高かったインフレによる生活苦の問題に、女性の権利を左右する中絶問題への関心が肉薄した感がある。米主要テレビ局などによる調査では、18~29歳の女性の44%が中絶問題を最重要と答え、インフレと答えた人の2倍近かったとの数字もある。

トランプ時代「たそがれ」の始まり?

多くの無党派層が、投票日を前に民主党側の支持に流れた可能性がある。AP通信などの調査では無党派層の39%が民主党、35%が共和党にそれぞれ票を投じ、共和党優位の時代と構図が逆転しているという。

動因には、トランプ氏の振る舞いに関する拒否反応があるはずだ。共和党の優勢が展望された終盤、自らが推す候補の応援演説に通い、投票日の直前に大統領選出馬の意向を強くにじませたトランプ氏。民主党だけでなく、共和党のサイドでも、その行動を批判的にとらえる発言や動きが起きている。これは、24年の次の米大統領選挙に向け、かなり重要な意味を持つのではないか。

「(壁を作れなかった)ドンが落っこちた――再び共和党を結束できるのか?」。保守系の米大衆紙「ニューヨーク・ポスト」は10日の表紙に、子ども向けキャラクターの「ハンプティ・ダンプティ」にトランプ氏の顔を組み合わせ「トランプティ・ダンプティ」が壁の上で手を広げて怒る様子の戯画を載せた。同紙はトランプ氏に友好的だったメディア王のルパート・マードック氏が所有する。

筆者も取材したトランプ氏の集会では、前大統領への熱烈な支持を訴える人々が何時間も前から会場を埋め、主役の登場を楽しそうに待つ。岩盤の支持層はいまだに健在だ。だが、無党派層を確保する力がなければ、民主党を相手にした戦いに勝てない。中間選挙で共和党が圧勝していれば目立たなかった現実がみえてきた。

共和党は「自分探し」の局面に

再選を懸けた州知事選で圧勝し「トランプ後」の最右翼となったデサンティス・フロリダ州知事㊧(8日、タンパでの勝利集会)=AP

ふたつの方向性があろう。一つは共和党内で新たなリーダーを模索する流れだ。南部フロリダ州の知事選挙で圧勝の末に再選したロン・デサンティス氏は、その筆頭格だ。40歳代の若さで押し出しが強く、フロリダに共和党の牙城を築いた。20年の選挙結果の認定を巡りトランプ氏と対立したペンス前副大統領、女性のヘイリー元国連大使など、潜在的な候補がトランプ氏の勢力の浮沈を見守っている。

もう一つの展開は、議会内で共和党のトランプ派が一段と結束力と発言力をつけ、トランプ氏の権勢を守ろうとする動きだ。仮に共和党が下院で過半数を獲得しても、リードは僅差でしかない。議会で多数を形成するには、トランプ派の強硬な意見を無視することができない。下院議長の候補として、トランプ氏を支える「フリーダム・コーカス」の有力者を担ぎ出そうとする動きも伝えられる。

トランプ氏は現地時間の15日に、24年大統領選への出馬を表明する見通しだ。だが当初想定した中間選挙圧勝の立役者としての「凱旋」のシナリオは不発となった。再び挑戦となっても、16年の大統領選勝利のように、無党派層が「未知数の候補」だったトランプ氏に託そうとする流れは期待できない。相手をこき下ろすだけでなく、自らが実際にどんな政策で何をもたらすのか、無党派層にも訴えることが不可欠になる。

「圧勝」を念頭に大統領選出馬をにおわせたが……(8日、フロリダ州パームビーチの邸宅で人々と話すトランプ前米大統領)=AP

共和党にとって悩ましいのは、どちらに進んでも党の結束が一段と弱まってしまうことだ。トランプ支持者らによる連邦議会議事堂の占拠事件後などが共和党の方向性を巡る議論を深めるきっかけになるはずだったが、空回りした。自分たちはどの方向に進むのか。ずっと先送りしてきた共和党の「自分探し」が、本格化することになる。

投票所での混乱は不発だったが

幸いなことに、中間選挙を前に懸念された暴力的な投票妨害や投票を巡る混乱の例はこれまでのところ伝えられていない。民主党と共和党が極めて僅差で拮抗する構図となったのは、米有権者によるバランス感覚と民主主義の復元力を示す材料になった。

激戦のアリゾナ州では開票になお時間がかかっている(13日、同州マリコパ郡の施設で作業にあたる職員)=ロイター

だが、油断はできない。トランプ氏はアリゾナ州で自ら推薦した上院議員候補が敗北した後、さっそく「選挙不正があった」と自身のSNS(交流サイト)に投稿した。「ハイヒールをはいたトランプ」の異名を持つアリゾナ州知事候補のキャリ・レーク氏は、たとえ敗れても不正を訴えて結果を認めない姿勢をほのめかしている。

こうした動きは、トランプ氏やその周辺を大いに突き動かすだろう。だが、根拠のない訴えで民主主義の根幹である選挙をないがしろにする動きに、無党派層はうんざりしているのではないか。

指導力の維持にひとまず安堵

今月20日に80歳となるバイデン氏。中間選挙の大敗北でレームダック(死に体)になる展開も覚悟していた世界にとっては、ひとまずは安堵の材料になった。20カ国・地域首脳会議(G20サミット)などアジアで開催中の国際会議でも、バイデン氏の発言に一定の説得力が加わったことは確かだろう。ロシアのウクライナ侵攻、中国の台湾に対する脅威など、国際情勢で世界最強の国の指導力がなんとか保たれたことは前向きな展開といえる。

カナダのトルドー首相㊨らと東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の夕食会で談笑するバイデン米大統領(左から2番目、12日、プノンペンで)=AP

とはいえ、どんな僅差であっても、負けは負けだ。民主党に決定的な勢いがあるわけでは、全くない。最終的に民主党が下院の優位を奪われ「ねじれ議会」が4年ぶりに到来すれば、バイデン氏の政策の選択肢は大いに制約される。米大統領選まで残り2年、米国の内外でどんな困難が待ち構えているかも定かではない。米国の深い分断の構図も何ら変わらない。

バイデン大統領は再選を目指すのか、それとも民主党は新たな候補に先を託すのか。トランプ氏の威光はなお健在なのか、若い勢力が土台を崩すのか。民主党の予想外の健闘が、24年の決戦に向けた混迷の構図をより複雑にしたのは間違いない。

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多様な観点からニュースを考える

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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説

中間選挙の結果は、多くの事前予想とのギャップが大きく興味深い内容だった。事前の世論調査では無党派層も若者も高齢者も年齢に関係なく、経済政策をまかせられる政党として共和党を選ぶ人が多かった。その一方で、米国では毎年山火事やハリケーンの大型化やかんばつで大きな被害がでているのに気候変動を含むESGに対して対抗姿勢をむき出しにし、選挙の結果や司法制度を軽視し暴力をつかう姿勢は非常に懸念されていた。インフレ率が少しずつ低下しており先行きも低下するとの見通しがたっていることも影響したと思うが、経済問題より中絶問題、民主主義・環境問題などを重視した投票者が多かったことがサプライズの結果をもたらした。
2022年11月15日 7:07 (2022年11月15日 7:48更新)

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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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今後の展望

ひとまず、マーケット撹乱要因にならなかったことは確かだ。ニュースに現れるバイデン大統領は上機嫌。COP27にもケチがつかない、など、穏便な面もある。しかし、記事指摘のように、ねじれ議会が残る。今後の影響はどうか。まずは、債務上限問題を解決しなければならない。インフレ法案は通過しているが、財政出動が続けば、債務上限問題につき、クレジット市場は気にしなければならなくなる。米国みたいな大国のデフォルトはあるわけないと知りながらも、政治的対立から債務引き上げに時間がかかれば、米国債の格付けや価格には重しとなりかねないことを、シナリオのリスク要因の一つには入れるべきだろう。
2022年11月15日 9:40

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

ペロシ米下院議長は11月13日、24年大統領選でバイデン氏が2期目を目指すべきかを問われ、再選出馬を支持する考えを示した。仮に、中間選挙で民主党が下院で大敗する、上院で過半数を失うなど「負け方」が大きかった場合、バイデン氏の再選出馬は難しいという雰囲気が強まり、近く80歳と高齢の大統領に代わって有力な候補者になり得る人物を探す動きが強まっていただろう。しかし実際は、下院で大健闘、上院は多数派維持になった。こうなるとバイデン大統領は、もはや引っ込みがつかない状況に置かれる。9日の記者会見ではジル夫人が見守る中、「われわれの意図は再出馬することであり、それはずっと変わっていない」と述べていた。
2022年11月15日 8:13』