プーチン後のロシアは中国にとってどんな国になるのか?

プーチン後のロシアは中国にとってどんな国になるのか?
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/28118

 ※ 一旦は、「民主国家ロシア」という認定だったのでは…。

 ※ それが、いつから「変更された」のか…。

 ※ やはり、「クリミアの併合」(2014年)辺りからか…。

『2022年11月15日(火)
西村六善 (日本国際問題研究所客員研究員)

西村六善 (にしむら・むつよし)

日本国際問題研究所客員研究員

1940年札幌市生まれ。元外務省欧亜局長。99年の経済協力開発機構(OECD)大使時代より気候変動問題に関与、2005年気候変動担当大使、07年内閣官房参与(地球温暖化問題担当)などを歴任。

ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席は9月15日、ウズベキスタンのサマルカンドで会談し、プーチン大統領はウクライナ情勢を巡る中国側の疑問や懸念を理解していると述べた。習国家主席はプーチン大統領に対して懸念を示していたのだ。
(代表撮影/AP/アフロ)

 その4日後、ロシアのニコライ・パトルシェフ連邦安全保障会議書記が中国外交担当トップの楊潔篪共産党政治局員に会っている。戦争している最中に中国が同盟国に「懸念」を表明するのは少しばかりおかしい。どんな懸念だったのか?

 あえて推測してみると、中国側にはこの戦争がユーラシア地政学を大きく変えるのではないかと心配している筈だ。原因はロシアの不安定化だ。ロシア軍事作戦が難航し、国際的な経済制裁で苦境にある市民生活が更に脅かされている。ロシア国内の不安材料は増えるばかりだ。

 9月21日、プーチン政権は30万人の予備役動員を決めたが、案の定、国内では反発とデモが噴き出ている。兵役を避ける為、ロシア人が大挙して国外に逃げている。その映像は世界に拡散した。

 およそ戦争をやれるような国とは思えない現実だ。戦況が悪化しているので、プーチン大統領はもっと大量の兵力を動員したかったに違いない。ギリギリの数値で「30万人の予備役」と決定した筈だが、それでも国民の支持が無いことが明らかになった。

 これが中国が懸念を強めている理由だ。今のところロシア政府は強権で自国民を押さえつけているが、本当に大丈夫か? どれ程手荒な弾圧で抑え込むのか? 世界世論の批判との関係は? そして一体、本当にウクライナで勝てるのか? 明敏な中国の政策当局者はロシア危機の帰趨を徹底して研究している筈だ。
プーチン政権は世界秩序を揺るがす戦いをしている

 そもそも、ロシアはいささか壮大なビジョンの下でこの戦争を始めたのだ。プーチン政権とその背後にいるロシアのエリート集団は「ソ連終焉後、過去30年にわたる西側の傲慢さへの復讐として世界秩序を揺るがすことを目指している」とカーネギー国際平和基金のタチアナ・スタノバ―ヤ研究員は述べている。 

 しかし、それにしては戦場で小国ウクライナを相手に後退を余儀なくされている。ロシア国内は混乱し、弾圧は強化され、規模の大きな流血の惨事が起きる可能性は排除できない。要するにロシアは世界秩序を揺るがす戦争をしている割には、苦戦し、ロシアの秩序を揺るがしている。

 その上、プーチン政権は強化されるのではなく、むしろ弱体化している。このまま行けばロシア国内で何らかの政治的危機に発展してもおかしくない。悪くすると政権の交代もあり得る。』

『中国が懸念する地殻変動

 中国にとって、最大の関心事はプーチン政権の屋台骨が揺がないかどうかだ。ロシアとは「無制限のパートナーシップ」を約束したのだから心配して当然だ。

 ロシア側は中国側に「大丈夫だ」と強く保証をしているだろう。しかし、実際のところはどうか……。北京の心配は高まる。 そうでなければ習主席国家主席が「懸念」を表明する筈がない。 

 現政権と同様に強権的なプーチン亜流政権が確実に生まれるなら中国は安心してみていられる。しかし、万一、そうならなければ、つまり多少なりとも西側に友好的な政権が生まれれば、心配は募る。今度は西側諸国がロシア支援に乗り出すからだ。

 対露経済制裁は中止され、ロシアは次第に欧米民主主義の懐に取り込まれていく。西側は必ずその方向で動くだろう。 正にこれが中国の心配なのだ。 

 中国はこの過程で影響力を行使しなければならない。元々ロシアは「中国の召使」だとされていて、中国の国益に奉仕する存在だが、中国はそう云う「貴重なロシア」を失う危険がある。 それだけではない。 どうやら中国が「召使」を失う程度の話では済まない筈だ。

 まず、ロシアが幾分かでも親西欧の方向に動けば、強硬独裁を一枚看板とする「露中2国間同盟」は事実上崩壊し、中国は孤立する。4000キロメートルに及ぶ中露国境線は俄然その性格を変える。 

 その上、ロシア自身が北大西洋条約機構(NATO)の敵国ではなくなる。その結果、在欧米軍はアジア太平洋地域へ移動することも可能になる。ここが重要な点だ。

 欧米、そして当然日本も新生ロシアと経済や最新技術の移転などに向けて新しい協力関係に入る。長年指令型経済の下で停滞してきたロシア経済は欧米、日本などの支援を得て今までとは全く違う持続成長に向かう。 

 国際政治にも大きな影響を与える。新しいロシアは国連安全保障理事会常任理事国として今までとは別の行動様式をとるだろう。その結果、安保理の風景は一変する。

 国際法の遵守、国際協調、人権や平等の尊重、多数決制度、多文化主義、地球環境をはじめあらゆる地球的問題に関してロシアは概ね国際協調主義に基づいて行動するだろう。地政学的な新時代が到来する可能性がある。化石燃料の大生産国であるロシアが国際法の遵守、契約尊重や透明性ある商事行動を取り始めれば国際経済でも新しい展開となる。』
『ロシアが親西欧政権になる素地はあるのか? 

そもそもロシアは民主化できるし、民主化するべきだという議論は多数存在している。西欧民主主義政党と親近性のある政権がロシアに出現することは決して異常事態ではない。たしかに、プーチン政権が全ての民主化の芽を強烈な弾圧で抑え込んでいる今日、政権の変更は不可能だ。 しかしプーチン政権は弱体化しながら、いずれ必ず終焉を迎える。その過程で不測の事態が起きる可能性がある。   

 いうまでもなく、これは中国にとっては全く歓迎できない事態だ。地政学上の負の転換だ。 しかもグローバルな規模となる。

 この転換を大国中国は食い止めることが出来なかったということになれば、政治的な問題になる。ウズベキスタンで習氏がプーチン大統領に示した「懸念」は相当深い意味があったということになる。 

 それに中国自身も将来に向けて選択を迫られる。国民が黙っていないだろう。世界で唯一の強硬独裁政権で行くのか? それとも何らかの別の道を選ぶのか?

 もちろん万事単純な筋書きの通りには行かない。でも、歴史的な局面が到来する可能性はある。日本自体も備えておくべきだ。』