[FT]中国富裕層、国外脱出加速 習近平氏続投に警戒強く

[FT]中国富裕層、国外脱出加速 習近平氏続投に警戒強く
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『20代後半の中国人ビジネスコンサルタントのアイザックさんにとって、中国の習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)が10月の共産党大会で驚くほど権力を自身に集中させたことは、最後の決定的な一撃になった。

アイザックさんは北京の一流大学出身で、中東で仕事を探している。当局による報復を恐れ、それ以上の情報を明かさないよう求めた。同世代の大半の人たちと同じく一人っ子だ。両親は同伴するには「年齢的に厳しい」が、アイザックさんが夏の終わりに国を離れたことに満足しているという。

アイザックさんは「(習氏の任期後に)変化の望みがあるなら、帰国を検討する」と語った。「それまでは他の国でチャンスを探す」

アイザックさんは習氏が共産党総書記として異例の3期目入りをしたのと相前後して、国外に移住した多くの富裕層の一人だ。ビジネス環境の厳しさを理由に挙げる者もいれば、政府の政策の方向性を懸念したとする者もいた。

家族や資産の安全な行き先を探している中国人富裕層の間では、シンガポールの人気が高まっている。

国外に脱出する中国人富裕層を顧客に抱える弁護士や移住専門家、コンサルタントへのインタビューによると、10月の共産党大会を機に中国のエリート層の国の将来に対する見方が変わった。
移住先でも中国当局による監視の目

だが中国政府は出入国と資本流出を厳しく規制しており、国外脱出には個人的にも金銭的にも非常に大きなリスクがある。海外暮らしにこぎ着けても、習政権が違法に設けた警察の出先機関の監視にさらされる。

欧州に拠点を置く弁護士で、中国を脱出する富裕層を支援するデービッド・レスペランス氏は「中国では、海外移住はいちかばちかの勝負だ。実行に移して失敗すれば、一巻の終わりとなる。出国を禁止され、財産を没収され、資金は消えうせる」と話す。

中国のネット通販最大手アリババ集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏など多くが香港で家を購入しているように、香港は何世代にもわたって中国人富裕層の活動拠点になってきた。だが中国政府の弾圧により、うわべだけの安全も崩れた。

中国内陸部の四川省成都市に住む美術品収集家で投資家のワン・ジュエさん(35)は、一族の資産管理を担うプライベートバンク「ファミリーオフィス」を通じて資産の一部を香港からシンガポールに移している。

中国と香港はここ3年、新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙う厳しい規制が足かせになってきたが、シンガポールは政治と経済が安定し、資金移動も容易なため「アジアに出て行く上で最適な拠点」だという。

シンガポールには「街頭の暴動」もないとも述べ、2019年の香港での反政府デモに言及した。
シンガポールに資産管理のファミリーオフィス

シンガポールの資産運用会社プライムアジア・アセット・マネジメントでディレクターを務めるカミラ・ジャン氏は、この1年ですでに中国人のファミリーオフィスを7つ設立したと話す。シンガポールは人口の約4分の3を中国系が占めており、文化的な魅力も人気の一因だと指摘する。

ジャン氏は「ある顧客は1年で3カ所に住んだ末、人口構成からシンガポールを選んだ。社会の一員になれると思ったようだ」と話す。

多くの富裕層は共産党大会の前からすでに、習氏による独裁体制の強化と中国のビジネス環境を一変させる広範な取り締まりに備えていた。

弁護士や移住専門家は、脱出計画をすでに実行に移している富裕層もいると話す。自らや家族のために新たな市民権を手配したり、資金や資産を他の国・地域に移したりしているという。

最富裕層は一部の国で提供されている超富裕層向けの投資移民制度も利用できる。ただし、このプロセスには数年かかる。

習政権下での環境変化の速さを見誤った者にとって、今や何より重要なのはスピードだ。
英国での不動産購入も話題に

シンガポールの移住コンサルティング会社ECホールディングスのフィリップ・メイ最高経営責任者(CEO)は、中国からの要望で最も多いのは「2つ目のパスポートを早急に手配して欲しい」というものだと話す。

メイ氏は「早急といっても2~3カ月かかる。心理的な問題だ」と説明する。

こうした顧客にはセントクリストファー・ネビスやドミニカ、アンティグア・バーブーダなどカリブ海諸国でのパスポート取得を紹介することが多い。

中国の富裕層は長年にわたり海外の優良資産を買いあさってきたが、英不動産仲介大手ストラット・パーカーのロンドン新築住宅販売部門を統括するキール・ワデル氏は、中国人の買い手が英国に押し寄せていると「市場で話題になっている」と話す。

「中国人の関心が高いのは(500万ポンド=約8億円=以上の)高級市場と(1000万ポンド以上)の超高級市場だ」と述べ、「ポンド安」も海外の買い手を引き付けている一因だと説明する。

もっとも、中国国外への資金持ち出しも政府の資本逃避規制に直面している。

9月に米国に移住したある中国人テック起業家は「今は中国からなかなか資金を持ち出せないとみんな言っている。銀行が多額の海外送金に慎重だからだ」と話す。

「私も中国の銀行口座に資金があるが、送金の審査に時間がかかっている」とも述べた。この人物も安全上の懸念から身元を明らかにしないよう求めた。

海外脱出は在外中国人の法的保護という暗部もあぶり出している。習政権下で中国の監視機関や治安機関は海外にも手を伸ばすようになり、米国など各国はこうした出先機関が異国の地で中国人を抑圧、強制送還、拉致していると主張する。

中国の状況に詳しい米シートンホール大学のマーガレット・ルイス教授(法学)は、中国政府による中国人や資産を戻すようにとの圧力は外国政府にとって「厄介な問題だ」との見方を示す。

「これには大きな疑問がある。(中国で)法と呼ばれる文書に文言があるというだけで、誰が送還しなくてはならないのか。誰かを送還する必要があるのか」

By Edward White, Mercedes Ruehl and Arjun Neil Alim

(2022年11月12日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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