米中間選挙、政敵たたきに賭けたバイデン氏 再選に望み

米中間選挙、政敵たたきに賭けたバイデン氏 再選に望み
編集委員 永沢 毅
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD095G80Z01C22A1000000/

『バイデン米大統領の命運を左右する中間選挙は与党・民主党が事前の予想を上回る善戦を演じた。大敗を免れたバイデン氏は2024年大統領選の再選に望みをつなぎ、復権に影が差す共和党のトランプ前大統領と明暗を分けた。

「米国、そして民主主義にとって良い日だった」。投開票から一夜明けた9日、バイデン氏は記者会見で笑顔をみせながらこう語った。事実上の勝利宣言のような光景だった。

バイデン氏が高揚するのもムリはない。連邦議会の下院は野党の共和党が多数派の奪還に向けてリードするが、民主党の議席減は限定的にとどまる公算が大きい。上院は多数派を維持し、12月の南部ジョージア州の決選投票しだいでは議席を増やす可能性すらある。

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赤い波押し返したバイデン氏の方針転換

世論調査にあった共和党が大勝する「赤い波」はおきなかった。赤は共和党のシンボルカラーで、民主党の青と対比される。

米ライス大の歴史家、ダグラス・ブリンクリー氏は中間選挙について「下院だけでなく、上院まで失えば『バイデンおろし』がおきかねない。上院で多数派を維持できれば、再選への足場を固めることができる」とみていた。

4年に1度の大統領選の合間の年にある中間選挙は現職の大統領の実績を問う信任投票になりやすい。政権への批判票が集まり、与党にとって厳しい結果になるのが通例だ。1934年以降の平均でみると、下院(任期2年、全435議席が改選)はおおむね28議席、上院(任期6年、全100議席の3分の1が改選)では4議席ほどを失っている。

下院は就任後に初の中間選挙に臨んだ民主党のクリントン、オバマ両大統領の52議席減、63議席減と比べると打撃は小さい。

善戦となった一因にはバイデン氏の方針転換がある。「この選挙は根本的に異なる2つの米国のビジョンを巡る選択だ」。選挙戦で同氏はこう訴え、自らの信任投票ではなく民主党と共和党のどちらが望ましいかを有権者に問う選挙に位置づけようとした。

この一環で、大統領に就任後は封印に努めてきたトランプ氏への名指しの批判を繰り広げた。「トランプ氏やその支持者の考え方は半ばファシズムのようだ」。こんな表現でトランプ氏らを断じたこともある。20年大統領選の結果を否定し、民主主義に危機をもたらしかねない存在とみなした。

中間選挙でバイデン氏は事前の民主党の劣勢をはねのけた(10日、ワシントンDC)=AP

高インフレなどで支持率低迷にあえいでいたバイデン氏にとってこの戦略は賭けといえる。というのも、同氏は米国の分断の解消を掲げて大統領に就いた経緯があるためだ。実際、共和党からは分断をあおっているとの批判が噴出し、民主党内にも「大ざっぱに言いすぎている」(ハッサン上院議員)と懸念する声があった。

9日の会見では「共和党とも協力する用意がある」と語った。バイデン氏は36年に及ぶ上院議員の任期で超党派で政策を実現してきた経験を持つが、就任後の2年弱で分断の深さを痛感したフシもある。

「この国を結束させると言ってきたし、かつてはできたはずだった。もはやあらゆることがすっかり変わってしまった」。9月中旬の党会合では、共和党がトランプ氏に支配されて協力の余地がほとんどなくなっていると嘆いてみせた。

バイデン、トランプ両氏に待つ難路

バイデン氏が公約違反ともいえる政敵たたきを解禁したのは、中間選挙対策からだけではない。

「残念ながら彼は(政策の実現に)大胆ではないし、人々を鼓舞する存在でもない」――。民主党の急進左派グループ「ルーツ・アクション」はバイデン氏の24年大統領選への出馬阻止に向けた運動を始めた。穏健派のバイデン氏では学生ローンの帳消しなど左派が求める政策の実現に壁があるとみているためだ。

米メディアの出口調査によると、3分の2以上の有権者がバイデン氏の再選出馬を望んでいない。トランプ氏との対決構図を打ち出したのは、党内にある「バイデン離れ」の動きに危機感を強めたバイデン氏が24年を視野に求心力を維持しようとする苦肉の策でもある。
民主党には連邦最高裁が妊娠中絶の権利を認めた過去の判決を覆したのも結果的には追い風となった。出口調査によると、有権者が選ぶ「最も重要な政策」は妊娠中絶(27%)がインフレ(31%)とほぼ同水準の2位だった。

40年ぶりの高インフレは政権への逆風となっていたが、妊娠中絶を巡る問題は女性の権利保護を優先する民主党支持層の票の掘り起こしにつながったとみられる。

バイデン氏の側近、クレイン大統領首席補佐官は善戦の理由を米CNNのインタビューでこう自賛した。「大統領は今回の選挙を信任投票ではなく、選択と位置づけた。民主党が支持している政策と、経済を破壊し中絶の権利を撤回しようとする共和党を比べたら、有権者は民主党の候補に票を投じるだろう」

民主党の善戦はバイデンおろしの広がりを封じる効果を生み、「バイデン氏はひとまず賭けに勝った」(民主党の議会スタッフ)といえる。ただ、下院を失えば政権運営は厳しくなる。

共和党の低調な戦いぶりで割を食ったのはトランプ氏だ。推薦した候補の8割ほどを当選させ、影響力を示した。しかし、大統領選でカギを握る東部ペンシルベニア州で敗北するなど穏健派の取り込みに課題が浮き彫りになった。

共和党の予想外の低調な選挙結果は、トランプ氏の次期大統領選への出馬に影を落とす(8日、米フロリダ州のトランプ氏の邸宅マールアラーゴ)=AP

トランプ氏は15日にも再選出馬を表明すると示唆していたが、米メディアによると側近が12月のジョージア州の決選投票まで延期するよう助言しているという。民主党内ではトランプ氏が大統領選に出馬する場合、対抗馬はバイデン氏しかいないとの見方が支配的だ。2年後に向けてはバイデン、トランプ両氏ともに難路が待つ。

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[日経ヴェリタス2022年11月13日号より抜粋]

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