第3次世界大戦 起きるリスクは?

第3次世界大戦 起きるリスクは?
本社コメンテーター 秋田浩之 ~「日本の論点2023」から
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD0731B0X01C22A1000000/

『2023年はどんな年になるのか。日本経済新聞のコメンテーターや編集委員がさまざまな分野から2023年を展望し、分析するための視座をこのほど出版した「これからの日本の論点2023 日経大予測」(日本経済新聞出版)から紹介する。

国際社会はまもなく、第3次世界大戦に向かってしまうのだろうか。想像したくないことだが、そのようなシナリオは完全には拭いきれない。少なくとも、そう思わざるを得ない3つのリスクがある。

第1に、ロシアによるウクライナ侵攻によって、1945年以降、大戦の再発を防いできた「核のタブー」が揺らいでいる。

第2に、台湾海峡で戦争が起きる危険が高まりつつある。

第3に、長年の平和を支えてきた米国主導の秩序が、名実ともに崩れ去ってしまった。世界はいま、「西側陣営」「中立パワー」「中ロ陣営」の3つに割れている。

この3つのリスクについて、個別にみてみよう。

「核のタブー」が崩れ去る日

1945年以降、第3次世界大戦が起きるのを防いできた最大の歯止めは、核兵器の恐怖である。米国とソ連は冷戦中、世界を破滅させかねないほどの核兵器をため込んだ。良くも悪くも、この核の恐怖が米ソに自制を促し、直接戦争を避けることができた。

ところが、ウクライナでの侵攻がこのまま長引けば、ロシアが「核のタブー」を破り、小型核を使う危険が高まる。ロシアは軍事ドクトリンで、一定の条件にもとづく核使用を定めている。ロシア軍にくわしい専門家によれば、ロシア側の戦況がいちじるしく不利になった場合がそのひとつだ。核使用によって相手を強く威嚇し、戦闘がさらにエスカレートするのを防ぐ――。そんな発想が軍事ドクトリンには盛り込まれているという。同専門家はこう指摘する。

「このまま戦争が長引けば、ロシア軍は体力を消耗し、侵略地域を広げられない膠着状態に陥るだろう。米欧から供与された兵器でウクライナ軍が反攻を強めており、さらにロシア軍を押し返す展開も考えられる。そうなれば、プーチン・ロシア大統領はウクライナを威嚇し、戦況を好転させるため、小型核を使いかねない。ロシアの支配下にあるクリミアがウクライナの攻撃にさらされた場合にも、プーチン氏は核使用に踏み切る可能性がある」

もし、ロシアがウクライナへの核攻撃に踏み切れば、1945年以降、大戦勃発を封じ込めてきた「核のタブー」は崩れてしまう。米国および北大西洋条約機構(NATO)としても座視することは難しいだろう。バイデン政権がウクライナへの介入を避けているのは、核戦争を避けるためだ。ロシアが一方的に核攻撃に出れば、米欧の世論が強く反発し、ロシアへの報復を求める声も強まるに違いない。その結果、ウクライナでNATOとロシアがぶつかり、第3次世界大戦が始まる――。こうしたシナリオは絵空事とは言い切れない。

台湾海峡、高まる米中の戦争リスク

さらに、第3次世界大戦の危険を帯びているのが、台湾海峡の情勢だ。民主党のペロシ米下院議長が2022年8月2~3日に台湾を訪れたことに中国が激しく怒り、緊張は新しい段階に入った。中国軍は、台湾を包囲するように周辺の6カ所で大がかりな軍事演習に踏み切った。

2022年に入り、米国からは超党派の議員団やポンペオ前国務長官、エスパー前国防長官らの訪台が相次いでいる。同年9月までに7回、バイデン政権は台湾への武器の供与を決めた。さらに、バイデン政権は同年2月に初となるインド太平洋戦略を発表し、台湾の自衛力の向上を助けるとともに、台湾海峡での侵攻を防ぐとも約束した。

米国による台湾へのてこ入れは決して一過性ではなく、2023年以降も加速していくとみられる。内政では激しく敵対する共和党と民主党だが、台湾支援では一致している。台湾への関与を急ぐ立場では、米政府、米軍も一枚岩である。仮に、2024年秋の米大統領選で共和党候補が勝ったとしても、米台の接近は続くに違いない。

米国が一丸となって、台湾てこ入れに躍起になるのはなぜか。中国による香港弾圧をきっかけに、台湾の民主主義を守ろうという熱意が強まっている。中国の圧力に台湾の民主主義が屈したら、東南アジアや南太平洋でも似たような強権ドミノが起きかねないという危機感がワシントンにはある。

世界で半導体の不足が深刻になるなか、ハイテク拠点としての台湾の価値も増している。台湾は半導体の受託生産で、世界の半分以上(売上高ベース)のシェアを誇っている。

しかし、米国が台湾に関与を深めるいちばんの理由は、もっと切実なものだ。ここで台湾を支えなければ、中国による台湾侵攻が現実になり、米国などを巻き込んだ大戦に発展しかねない。こんな切迫感が、ワシントンでは高まっているのである。

世界秩序、危ない3極体制に

米国の影響力が衰え、中国の国力が急速に強まるにつれ、米国主導の世界は終わった。

代わりに表れてきたのは、第2次世界大戦前の1930年代のような危ない秩序だ。それは一部識者が予測したような「Gゼロ(無極化)」ではなく、3極化された秩序だ。3つの異なる勢力がせめぎ合う世界である。

第1の勢力は、米国や欧州連合(EU)、日本、韓国、オーストラリア、英国、カナダといった民主主義を中心とする「西側陣営」だ。

第2は、中国とロシアを中心とする「強権勢力」である。イランや北朝鮮、キューバなどが加わる。

そして第3は、どちらにもくみしないインドや南アフリカ、インドネシア、トルコ、ブラジルといった「中立パワー」だ。

今後、3極の分断がさらに深まり、世界の緊張が高まっていくとみられる。

▼発売中の「これからの日本の論点2023 日経大予測」の一部を抜粋、加筆・再構成した。同書の詳しい内容はこちらから。https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/22/09/20/00396/

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福井健策
骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
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分析・考察

『第三次世界大戦はもう始まっている』という本が売れるくらいです。記事の懸念は多くの人が共有していますね。
歴史家カーは第二次世界大戦中に、「相手(この場合は日独伊)が愚かで邪悪なために正しい原理に従えないのではなく、原理(当時の世界秩序)そのものが適用の難しいものだった」という趣旨のことを述べています。これは契約交渉から国際政治に至るまで、常に念頭に置いておくべきことでしょう。
もちろん軍事侵攻のような蛮行には断固とした対処が必要です。しかし同時に、なぜ世界は分極化してしまうのか、これまでの西側の原理のどこが制度疲労を起こしているのか。軽信せずに考え続けることもまた、平和への努力ですね。
2022年11月14日 8:06 (2022年11月14日 8:11更新)

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

局所的な戦争が起きるが、世界大戦が起きる可能性は高くない。目下、一番心配されている台湾有事についてリスクに備える必要があろうが、実際に戦争になる可能性はそれほど高くない。人を咬む犬は吠えない。逆に吠える犬は人を咬まない、威嚇するだけ。中国は台湾に侵攻するとすれば、武力行使を辞さないなどといわない。いきなり攻撃して取ってしまう。しかし、台湾海峡を渡る難しさ、台湾軍が反撃してくるため、台湾を攻略できる勝算が高くない。だからいつも言葉で警告するだけ。それは国際社会に向けたメッセージというよりも、中国国内に向けたメッセージとみるべきである

2022年11月14日 7:45

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

米国とソ連の冷戦構造が崩壊した後、「平和の配当」ということがよく言われた。冷戦が実際の戦争に転じるリスクを警戒して投じてきた多額の軍事費が、不要になる。軍隊の規模が縮小されれば、より多くの若者が経済活動に従事するようになり、経済成長に貢献する。軍事利用を前提に生み出されてきたさまざまなテクノロジーが国民生活に身近な分野へと転用されるようになり、経済の成長力が高まる。「平和の配当」は、政治・軍事面やイデオロギーの対立から世界が分断されていないこと、地域紛争はあっても多くの地域では平和が保たれていることが前提だった。だが2022年には、そうした前提が決定的に崩れた。流れは反対の方向に向いている。
2022年11月14日 7:30 』