ロシアが壊したG20 もはや国連の二の舞い

ロシアが壊したG20 もはや国連の二の舞い
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『主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が15日からインドネシア・バリ島で始まる。ロシアによるウクライナ侵攻以降では初のサミットだ。世界には物価高と景気停滞の足音が同時に迫る。かつての金融危機下で生まれた協調の枠組みにはほころびや溝ばかりが目立つ。

サミットを巡ってロシアのプーチン大統領は開催直前のいまも出席の可否を明言していない。オンラインでの参加が取り沙汰される。世界を混乱させた当事者に面と向かって注文ひとつできない。これが今回のG20にあたって最大の欠落といえる。

招待を受けたウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアのリーダーが出席するなら参加しない」との立場を示している。このためロシアとウクライナのどちらかが欠席する可能性が高くなる。

G20に協調や結束を示すことができた歴史はある。

2008年のリーマン・ショックを受けた金融危機の後、中国は4兆元の巨額財政出動を発表した。ギリシャをはじめ10年代のユーロ圏の信用危機の際には欧州中央銀行(ECB)が無制限の国債買い入れに動いた。

21年秋にローマで開いたG20サミットは首脳宣言を採択できた。世界経済の回復は「国ごとにばらつきがある」との認識を共有し、各中央銀行が物価動向を注意深く監視していくと確認した。

1年ほどが過ぎ、世界の安全保障環境と経済情勢はともに様変わりした。

ロシアは主権国への侵攻を8カ月以上続ける。世界経済に関しても各国で物価上昇が記録的な勢いで加速し、監視では済まない事態に陥った。米欧の中銀が大幅な金利引き上げを進める。

バイデン米大統領はそれでも「ドル高を懸念していない」と断言し、「問題は他国の成長と健全な政策が不足していることだ」とまで強調する。新興国はドル高の裏側で進む自国通貨安と金利上昇に悩み、さらにその先の債務危機へ不安を募らせる。

ウクライナ侵攻後の今年の4月、7月、10月と3回開いたG20財務相・中央銀行総裁会議はすべて共同声明の発出を見送った。肝の世界経済の現状認識で溝が埋まらない現実を前に、日本の外務省幹部は「今回は首脳宣言をまとめるのは困難だ」と話す。

もはや機能不全に近い状況は国連に似る。国連安全保障理事会は2月、ロシアのウクライナ侵攻を巡り「国連憲章違反であり、最も強い言葉で遺憾の意を表する」との決議案さえ採択できなかった。常任理事国のロシアが拒否権を発動したためだ。

弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮への対応も同様だ。安保理が緊急会合を開いても中ロが「緊張を高めているのは米国だ」と主張し、非難声明はいつも宙に浮く。G20サミットで首脳宣言が採択できなければ08年の立ち上げ以降で初めての事態だ。

議長国のインドネシアは議長声明をまとめて公表する姿勢を示す。「首脳宣言なきサミット」が現実味を帯びているからにほかならず、匿名でも各国の立場を並べるとかえって亀裂が目立つ状況になりかねない。

合意できそうな項目はないわけではない。少なくともインドネシアはエネルギーや食料問題で可能だとみる。

ロシアは首脳会議の場でどう主張するか。「G7主導の対ロ制裁が価格上昇を招いている」と繰り返すはずで、途上国にはその言い分に理解を示す所もある。一筋縄ではいかず、機能不全の汚名返上の題材にもなりにくい。

G20メンバーである中国には別の狙いがありそうだ。

米国が主導する国際秩序づくりに対抗する意味合いもあって、中国は経済協力や気候変動といった地球規模の課題について話し合うG20の場を重視してきた経緯がある。

中国からは習近平(シー・ジンピン)国家主席らが現地入りする見込みだ。

現状では米中首脳会談をはじめむしろG20の枠組みの「外」のほうが世界の関心度が高い。中間選挙を終えたバイデン氏が中国への圧力を一段と強めるのか。中国共産党の総書記として3期目入りしたばかりの習氏はどう対峙するか。ここでも協調より亀裂の深さがキーワードになる。

「G7の御用聞き」脱皮の時(大庭三枝・神奈川大教授)

神奈川大の大庭三枝教授(政治学)

ロシアによるウクライナ侵攻後、日米欧とロシアによって世界が2つの陣営に分断・分裂しつつあるという印象を持つ人がいる。現実は異なる。世界はもっと多様で複雑だ。

主要7カ国(G7)とロシアの中間に位置する新興国・途上国が多く存在し、彼らがどちらにも全面的に寄らない外交を展開しているからだ。

主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は国際的な緊張が高まるなかで先進国と途上国の代表が顔を合わせる。各国が公に発言できる場であることに意味がある。

今回の会談で首脳宣言が出せなくとも、それぞれの参加国が相互の意見に耳を傾けて互いを理解し、歩み寄る努力が今こそ欠かせない。

議長国を務めるインドネシアは、国内向けに外交的成果を示す意図はあるものの「ロシアを国際社会から排除することが外交の解ではない」と本気で考えているはずだ。

同国を含む東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は米中を含む主要な域外国それぞれとの関係の維持に努めている。ASEANは中国への依存度も下げたいが米国への不信感も強い。外交的なリスクを回避して独自の地位を築いてきた。

新しい秩序、日本主導で探れるか

ASEANに限らず大国の狭間で地位を確保しようとする国、対ロシア制裁で経済的打撃を被る国など立場は様々だ。G7の主張に全面的に賛同しないのには相応の理由がある。

日本はこれまでアジア各国と対話を重ねてきた。途上国の考え方も理解できる。

もはや途上国との協力なしに、国際社会で外交力を発揮することなどできない。G20サミットの場で「G7の御用聞き」に徹するのではなく、途上国の利益も包含するような「新たな秩序像」を打ち出して存在感を示す時が来ている。

記者の目 外交は内政の延長線

「世界経済の課題解決に最も適した枠組みだ」。主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の準備会合を終えた2008年、議長国ブラジルのマンテガ財務相はこう話した。当時の麻生太郎首相も「後世、歴史的なものといわれる」と見通した。

リーマン・ショックで傷ついた世界は各国の協調で救われた面がある。少なくとも立場の異なる国・地域が同じテーブルにつき対応を練った。目下のロシア発の危機への打開策はすぐには見つからない。

物価高が家計を直撃し各国首脳の目は自国に向く。外交は内政の延長線上にあり、国内で支持が揺らげば外交力は低下する。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題に手間取る岸田文雄首相も同じだろう。政権基盤の品評会だとみれば今回のG20の捉え方も変わる。(今井秀和)

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