台湾有事―直面する危機に日本はどう備えるか

台湾有事―直面する危機に日本はどう備えるか
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 ※ 「専守防衛」とは、「こちらから、手だしすることなく、向こうが攻撃してきたのを受けて、反撃する。」という戦略だ…。

 ※ つまり、「一定の犠牲者が出て、初めて、反撃を行う」という策だ…。

 ※ しかし、その「敵からの一撃」が、「とてつもない犠牲者が出るようなもの」だった場合は、どうするのか…。

 ※ その場合でも、その「一撃」を待つのか…。

 ※ それが、「致命的な損害」となるようなもので、日本国が「二度と、復活できないほど」のものだった場合、どうするのか…。

 ※ そういうことを、「専守防衛」論者が、考えているとは、到底思えんな…。

『政治・外交 2022.11.10

兼原 信克 【Profile】
習近平総書記一人に権力が集中した中国共産党指導部。筆者は、台湾併合は歴史に名を残したい習氏の「夢」で、台湾有事のシナリオは現実化しつつあると分析。侵攻により、日本に及ぶ損害の程度は「日本側の備えによる」として、抜本的な防衛強化の必要性を指摘する。

第20回中国共産党大会が終わった。習近平主席は思惑通り、個人崇拝排除、集団指導体制確立という鄧小平の遺訓を破り、異例の3期目の続投を決めた。習近平政権の顔触れは、世界を驚かせた。李克強、汪洋、故春華といった共産主義青年団(共青団)の重鎮はことごとく排除された。党大会のひな壇から若い職員に連れ去られる胡錦涛の老いた姿は共青団のたそがれを象徴した。一方で、李強上海共産党委員会書記、蔡奇北京市長などが抜てきされた。国民不在、冥府魔道の権力闘争の結果である。

第3期政権の顔触れが示唆するのは、習近平への忠誠心だけで登用された、力の政治を信奉し、イデオロギー的傾斜の強い側近で固めたということである。「習近平組」である。
台湾併合は習近平の夢

習近平は、特殊な指導者である。建国の立役者でありながら失脚した習仲勲を父に持ち、文化大革命の中で家族離散、下放の憂き目に遭い、教育の機会を奪われ、何度もいじめ殺されると怯えた。生き延びるために爪を隠し、牙を隠し、毛沢東を思慕する善良な農民になりきった。父の復権と共に許されて北京に戻った。

その後、福建省に赴任したが、密輸で腐敗しきった酒池肉林の俗吏とは距離を置いた。賢明にも、収賄はいつか自分の弱点になる、清廉は武器になると思ったのであろう。党総書記に選出されると、習近平は徹底的な腐敗排除を口実にして、政敵を全て排除していった。徹底した力の信奉、自分の仲間しか信頼しない狭隘さ、強いイデオロギー的傾斜は、彼の壮絶な人生を通じて魂に刻み込まれてきたのである。

戦争など、普通の指導者は考えない。愚かな指導者が「うまくやれば短期間で勝てるんじゃないか」と誤算した時に起きる。2022年2月のプーチン・ロシア大統領によるウクライナ侵攻がよい例である。経済制裁や、ビジネスへの悪影響や、国民生活の窮乏など、とりあえず視界から消える。独裁国家では、長期にわたり政権を維持した指導者に諫言する者が絶えていなくなる。だから間違える。独裁者の怖さは、その優秀さにあるのではない。その平凡さ、愚かさにあるのである。

台湾併合は習近平の夢である。何度もそれを口にしてきた。教育の機会を奪われ、愛も、神も、自由も、民主主義も、法の支配も理解できない。弱肉強食、適者生存、階級闘争、個人崇拝と共産党独裁。習近平の思い描く世界は19世紀のままである。20世紀を通じて人類社会が到達した自由主義的国際秩序など、共産党独裁を脅かす邪宗に過ぎない。毛沢東のやり残した偉業を達成して歴史に残る。習近平からは、そんな狭い野望しか伝わってこない。

有事なら日本は「前線国家」に

米国政府からは、習近平の台湾進攻の予定はどんどん早まっているという見解が聞こえてくるようになった。日本はようやく75年の太平の眠りから覚めたばかりである。米国もプーチン大統領のウクライナ戦争にかかりきりで、インド太平洋正面の備えには手が回らない。中国は、少子高齢化、政府の過剰介入により引き起こされた不動産業の不振、ロックダウンによる経済的悪影響、米国によるハイテク製品の対中輸出規制など、先行きは決して明るくない。習近平に残された時間は少ない。あと2期やるとして10年。そうなれば年齢は70歳代後半である。老いが身にしみるころである。「やるなら今だ」と習近平が考えるかもしれない。台湾有事のリアルは、どんどん現実化しつつある。

中国は、グレーゾーンから仕掛けてくるであろう。サイバー攻撃、海底ケーブル切断によって台湾の電気と通信を遮断する。総統ほかの要人を暗殺し、混乱の中で傀儡(かいらい)政権を打ち立てて、中国の来援を要請させる。内から壊して外からするりと入り込むのは共産革命輸出工作の伝統であろう。その後、本格的な着上陸侵攻が始まる。日本は一気に巻き込まれる。

現在の中国軍の力では、着上陸させられる兵力はほぼ2万人と言われる。半分は台湾海峡で沈むとすれば、残り1万の兵力が台湾の地を踏む。彼らの補給を絶ち、殲(せん)滅できるかが勝負の分かれ目になる。米国が介入すれば中国は負けるだろうが、それまでに前線国家である日本と台湾がどれほどの損害を被るかが問題である。日本が受ける損害の程度は、日本側の備えによる。

「応分の負担」が必要な防衛費

年末の国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛計画策定に向かって急ピッチで作業が進んでいる。防衛費の増額、弾薬の補充など、反撃力の整備、統合司令部設置などが行われると報じられている。論点は多岐にわたるので、ここでは、いくつかの基本的な論点に絞って提言してみたい。

第一に、防衛費の増額である。安倍晋三元首相は在任時、消費税収を倍増させた。税率を1%上げると、消費次第であるが2兆円ほどの増収になる。安倍政権で税率は5%から8%、さらに10%に上昇した。毎年10兆円ほど歳入が増えることになる。将来の子供たちの肩の上に積み上がる膨大な借金を軽減させようとすれば、消費税増税が王道である。財務省の友人は、安倍氏は財政均衡に気を配った首相だったという。防衛費も、防衛費だけを取り上げるのではなく、他の支出も含めて財政の大きなバランスに配慮しながら、その増額を議論するべきである。防衛費は、第二次安倍政権の8年間で補正予算を入れて約1兆円増額された。

それでも米国の80兆円、中国の25兆円には遠く及ばない。また、NATOのGDP(国内総生産)2%や、韓国の2.7%にも及ばない。日本としては、日米同盟で中国を抑止できればよく、強大な米軍や中国軍に追い付く必要はない。それでも日本は同盟国として応分の負担を負わねばならない。米国はGDP2%、すなわち10兆円の防衛予算をフェアと考える。

そもそも、冷戦中のGDP1%防衛枠が想定していたシナリオは既に時代遅れである。冷戦中は、北海道で陸上自衛隊、航空自衛隊がソ連軍に殲滅される前に、海上自衛隊が米第7艦隊と共に米陸軍・海兵隊を日本に連れ帰るというの戦略であった。あとは米国にお任せという無責任な防衛態勢だった。今日話題となっている台湾有事を想定した場合、日本の被害を最小限にしようと思えば10兆円でも足りない。特に、弾薬の欠乏はひどい状況で、このままでは戦えない。予算を倍増して、兵站(へいたん)面での足腰の弱さを早急に克服する必要がある。

第二に、反撃力である。日本は長く冷戦が続く中、戦略的な思考能力を失ってきた。専守防衛と言いながら、誰からどうやって自分を守るのかという国民的議論がなかった。気が付けば、中国は日本を壊滅させるだけの核・非核の中距離・短距離ミサイルを装備している。INF条約は破棄され、ロシアも中距離ミサイルを保持し始めている。

何より、核武装した北朝鮮が日本を射程に収めた中距離弾道ミサイルを保持している。ロシアの技術を導入した不規則軌道ミサイルや、ロフテッド型打ち上げのミサイルは、日本のミサイル防衛では歯が立たない。韓国も台湾も、中距離弾道・巡航ミサイルを保持している。日本だけが中距離ミサイルを持たなかった。

安倍政権は射程1000キロの空対地ミサイル(JASSM)の導入に踏み切ったが、政府はいまだに敵領土には撃ち込まないという愚かな立場である。敵から雨あられとミサイルを撃ち込まれ、国民が殺されても、敵が日本領土に上陸するまで一切反撃しないというのがおかしいことは小学生でも分かる。それでは抑止にならない。国民を犠牲にして守る平和主義などありえない。そんな平和主義は真の平和主義ではない。「撃ったら撃ち返すぞ」と言わなければ抑止にならないし、国民を守れない。敵基地に届く反撃力の獲得は急務であり、さらなる中距離ミサイルの導入、具体的にはトマホークの導入、12式ミサイルの延伸などを可及的速やかに進めるべきである。

現行の「サイバー法制」は欠陥

第三に、サイバー防衛能力の向上である。日本は、不正アクセス防止法や不正指令電磁的記録罪を、平時の自衛隊に適用しているので、自衛隊のサイバー部隊が平時に活動できない仕組みになっている。これは戦後最大の日本法制の欠陥と言ってよい。

サイバー防衛とは積極防衛である。アトリビューション(発信源特定)、ハックバック(逆侵入)による警告が主であり、それは互いの暗号を日々解き合っている軍の仕事である。不正アクセス防止法などを改正して自衛隊に平時から権限を与えることが必要である。また、サイバー防衛は自衛隊のみならず、民間重要インフラ、政府全体を防護対象にせねばならない。日本政府にはその司令塔がない。内閣官房にサイバーセキュリティ局を作り、その下にサイバー情報センターという1万人規模の実働部隊を作り、自衛隊のサイバー部隊を兼務させればよい。日本では、憲法が保障する通信の秘密を侵すという議論が強いが、時代遅れも甚だしい議論である。通信の秘密は守られる。サイバー防衛は、サイバー空間における通信の安全と安心を守るいう話である。

第四に、基地の抗堪化(ハードニング)が焦眉の急である。戦うことを忘れた戦後の75年間、自衛隊は装備の更新にこそ熱心であったが、本当に戦火を交えたらどうなるのかということはあまり考えたことがない。映画『トップガン・マーヴェリック』の一シーンのように、飛行場はミサイルで壊滅させられる。滑走路はまだ修復できるが、青空の下に並んだ高価な戦闘機はことごとく破壊されるであろう。

太平洋戦争におけるミッドウェー作戦での日本の空母艦載機のように、おびただしい数の戦闘機が舞い上がる前に叩きつぶされる。地上の作戦機を防護する掩体(えんたい)が整備されていないからである。また、指揮通信機能を有する基地は、地下化することが必要である。

バナー写真:陸上自衛隊与那国駐屯地で訓示する浜田靖一防衛相=2022年9月21日、沖縄県・与那国島(共同)

兼原 信克 KANEHARA Nobukatsu 経歴・執筆一覧を見る https://www.nippon.com/ja/authordata/kanehara-nobukatsu/ 

同志社大学特別客員教授。専門は国際政治学、安全保障論、外交史。1959年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。外務省に入り、同省国際法局長、内閣官房副長官補、国家安全保障局次長などを歴任し、2019年に退官。20年から現職。』