[FT]混乱続くハイチ、治安悪化で近隣諸国は介入も検討

[FT]混乱続くハイチ、治安悪化で近隣諸国は介入も検討
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『カリブ海の島国ハイチの首都ポルトープランスで10月、防弾車で走行中だった著名な政治家、エリック・ジャン・バティスト氏が、護衛とともにギャングに殺害された。市内の別の一角にある警察署の前では抗議活動が行われ、目撃者によると、警察官の発射した催涙弾がラジオ局記者、ロメルソン・ビルサン氏の頭部に当たって致命傷となった。

アンリ首相退陣を求めて首都ポルトープランスでデモ行進するハイチ国民=ロイター

これら2つの暴力的な事件の間に直接の関連はないものの、ハイチ国内で続いている混乱が広がりをみせ、近隣諸国が力を合わせて対応に乗り出そうとしている現状を浮き彫りにしている。

米国とカナダが政治家に制裁

米国とカナダは4日、ハイチの政治的エリートに位置付けられるジョセフ・ランベール上院議長とユーリ・ラトルトゥ元上院議員に制裁を科した。違法薬物の取引に関与し、暴力で国を揺るがすギャング団と関係を持つとされたが、両者ともSNS(交流サイト)で否定した。

ネルソン米財務次官(テロ・金融情報担当)は「違法薬物の取引を助長し、汚職を可能にし、ハイチの不安定化で利得を得ようとする人物に対し、米国は国際的なパートナーとともに行動を起こし続ける」とコメントした。

カナダのジョリー外相は「ギャングや、彼らを手助けする者がハイチの市民を恐怖に陥れる間、手をこまねいているつもりはない」との声明を発表した。数週間後には追加の制裁が科される見通しだ。

ハイチは政治的および人道的な危機に見舞われている。2021年7月にモイーズ大統領が自宅で暗殺されてから事態がエスカレートした。暗殺事件の全容は明らかになっていない。大統領ポストが空席になったことで起きた権力闘争の末、アンリ首相が実権を握ったとはいえ、大規模な抗議活動はやまず、首相就任の正統性を疑問視する声も根強い。

ハイチで暴行を繰り返すギャング団の一部は、政治家の後ろ盾を得ていると言われる。ギャング同士が縄張りを巡って対立し、市民が巻き添えになる事件が相次ぐようになり、治安の悪化が進んだ。

ポルトープランス住民の1人は、報復を恐れて匿名でフィナンシャル・タイムズ(FT)の取材に応じ、「毎日誰かが死ぬのを目にしている」と語った。「外を出歩くのが安全ではない。こんなことは初めてだ」

人口の半数が深刻な飢餓に

国連によると、ハイチで住まいを追われた国民の数は9万6000人に達し、ここ5カ月間で3倍に増加した。しかも、人口の半分近くにあたる470万人が深刻な飢餓にあえぐという過去最悪の状況を迎えている。

コレラも再び流行しつつある。世界保健機関(WHO)の米州事務局である汎米保健機構(PAHO)は、感染の疑いがある患者が10月に6県で3429人見つかったと明らかにした。国連平和維持活動(PKO)部隊がコレラ菌を持ち込んだと考えられる前回の流行時には、10~19年にかけて1万人近くが命を落とした。

こうした中で米国は、ギャング団による道路封鎖を解いて支援物資の輸送を可能にするための国際的な介入について、近隣諸国から支持を取りつけようとしている。

アンリ氏は介入を求めているものの、必要な部隊を統率しようという国はなかなか名乗り出ない。バハマだけは、要請があれば軍隊か警察を派遣する意向を明らかにした。米政府は、部隊の動員に必要な決議を国連の安全保障理事会で取りつけられると自信を見せている。

ブリンケン米国務長官はカナダの首都オタワを訪問した際、「まだ取り組み中の課題であり、引き続き追求していく」と記者団に語り、「参加への関心と意欲を見極めるために(米国とカナダが)さまざまな国に打診している」と説明した。

過去に行われたハイチへの国際介入では、むしろ同国の苦悩が増したこともある。10年のハイチ地震後に派遣された国連PKO部隊は、コレラの感染源となっただけにとどまらず、性的暴行や虐待に及んだと非難されている。

シンクタンクの国際危機グループ(ICG)で中南米・カリブ海諸国担当副ディレクターを務めるレナータ・セグラ氏は、今回の部隊派遣で「人道回廊」が開かれる可能性がある半面、困難も伴うとの見方を示した。

国際介入で混乱が悪化する恐れも

「『選挙で選ばれていないアンリ氏の権力基盤を固めるための部隊だ』という受け止め方がハイチで多くなりかねない。人道的な危機を和らげつつも、政治的な危機を悪化させてしまう恐れがある」

ハイチの警察当局は3日、ポルトープランスにあるバルー燃料貯蔵施設を制圧したと発表した。これにより、大きな勢力を誇るギャング団連合「G9」によって何週間も続いた封鎖がようやく解かれた。

アンリ氏に対する抗議活動が全国的に巻き起こる中、G9は同氏が首相の座を降りるまで同施設から立ち退かない考えを表明し、燃料の供給に支障を来していた。ハイチでは人口の大半が燃料発電機を使って自家発電しながら生活や事業を営んでいる。

封鎖が終わったにもかかわらず、複数の人道支援関係者は4日、燃料はまだ供給されていないとFTに語った。10月開かれた国連安保理では、G9を率いるジミー・シェリジエ氏への制裁が満場一致で可決されていた。同氏は6日、G9が封鎖を解除したという投稿をSNSに流した。

ハイチで平和構築の取り組みを長年主導してきたルイアンリ・マルス氏は、国内外にいるギャングの資金源を取り締まらなければ制裁の意味が極めて薄いと指摘する。

「現地の人々を悪者扱いする一方で、人命を奪う暴挙に使われる銃や武器の販売で甘い汁を吸う連中に対してはまだ見て見ぬふりをし続けている」

By Joe Parkin Daniels

(2022年11月7日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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