米・サウジ、石油価格で対立 すれ違う「安定化」の意味

米・サウジ、石油価格で対立 すれ違う「安定化」の意味
客員編集委員 脇祐三
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD048F00U2A101C2000000/

『米国とサウジアラビアの石油をめぐる対立が続いている。石油輸出国機構(OPEC)にロシアなどが加わったOPECプラスの減産について、米バイデン政権は「サウジがロシアを助ける政治的決定」と非難、サウジは経済的理由による決定だと反論する。原油価格の下落を望む米国と、供給余力を重視するサウジの議論はかみ合わず、中国やロシアに対する立場の隔たりもあって、対立解消は簡単ではない。

OPECプラスが10月5日に「日量200万バレル」の大幅減産を決めると、ホワイトハウスは「バイデン大統領は減産という目先のことしか見ていない決定に失望している」との声明を発表し、ジャンピエール大統領報道官は「ロシアと足並みをそろえたもの」と減産決定を批判した。大統領自身は「彼らがしたことに対して、何らかの結果があるだろう」と語り、懲罰的措置の可能性まで示唆した。

OPECプラス会合後、記者会見するサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相(左から2人目)ら(10月5日、ウィーン)=ゲッティ共同

バイデン政権がここまで激しく反応した一因は、インフレへの国民の不満が強く、11月の中間選挙で与党・民主党の苦戦が予想されることだ。米議会の民主党議員からは、米国のサウジとの協力の全面的な凍結や、米国のサウジ向け武器輸出の全面凍結を求める声も出た。米国でインフレが加速した理由として、財政支出の拡大や、人手不足に伴う賃金上昇圧力も指摘される。だが、政権としては、「悪いのはウクライナ侵攻で混乱を引き起こしたロシア。サウジがロシア側についたのも一因」と理屈を単純にして、責任を外に転嫁するほうが、政治的な逆風をしのぎやすい。

石油政策の「政治化」を互いに批判

ロシアがウクライナ侵攻を始めた後、バイデン政権が力を入れた石油政策は、米国内のガソリン価格下落につながる原油価格の低め誘導の試みである。10月にOPECプラスの減産決定に対抗して、原油の戦略備蓄の追加放出を発表したのは、その典型だろう。備蓄放出の理由説明も含め、米政府当局者は「石油市場の安定化」というキーワードを繰り返す。この場合に「安定化」を、価格水準の引き下げと同じ意味で使っている。

一方、サウジ側も石油政策の変更や調整のたびに、「石油市場の安定化が目的」という説明を繰り返す。サウジの言う「安定化」は、意味がまったく異なる。

(1)現物の原油の需給状況の変化と比べて、先物が主導する原油価格の変動が大きすぎる(2)価格の変動が過大になっている主因は、世界的にスペアキャパシティー(増産余力)が乏しいこと(3)増産余力が乏しいのは、サウジやアラブ首長国連邦(UAE)以外の開発投資が低迷しているためだ――という基本認識に基づき、ある程度高めの価格水準を保って開発投資を促すことが市場の安定につながるというのが、サウジのロジックだ。

10月の減産決定の際に、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は、石油生産への長期的な投資を導く狙いがあると説明した。「脱炭素化」に向けたエネルギーの転換は重要だが、これからかなりの期間は石油の供給も世界に欠かせない。だから、新たな開発投資が出てくるような価格水準が望ましい、とサウジは考える。

目先しか見ていないのはどちらか

10月下旬にリヤドで開かれた国際投資会議で、国営石油会社サウジアラムコのアミン・ナセル最高経営責任者(CEO)は「西側諸国はエネルギー供給の問題を彼らの視点だけで考え、その立場に合わせるよう世界各国に求める。そういうやり方でいいのか」と問題を提起した。

アブドルアジズ・エネルギー相は、供給の途絶や中断といった緊急時の備えである戦略備蓄を、価格引き下げを目的に放出するのは、政府の介入による市場操作ではないかと、米政権を批判した。バイデン政権は原油価格の下落を避けようとするサウジを「目先のことしか見ていない」「政治的」と批判する。だが、サウジの視点に立てば、選挙を意識してガソリン価格、原油価格の低下をもっぱら期待するバイデン政権のほうが「目先のことしか見ていない」「政治的」と見えるだろう。

リヤドで開かれた国際投資会議で発言するサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相(10月25日)=ロイター

3月の国連総会でのロシア軍のウクライナからの即時撤退を求める決議や、10月のロシアによるウクライナ4州の一方的な併合を非難する決議で、サウジは棄権ではなく賛成した。ロシアと政治的な立場は同じではない、石油政策は経済的な要因に基づいて決めているという、サウジの意思表示である。

それでも米国で「サウジがロシア側についた」という非難が強い一因は、OPECプラスが減産に転じた結果、米国が主導する主要7カ国(G7)の石油に関する対ロシア追加制裁では、価格が再び高騰するのを避けるため、ロシアから世界市場への輸出量を保つ必要があり、制裁の枠組み設計の技術的な難しさが増したことだ。

サウジの政策をロシア寄りと批判するのは、世界を「民主主義と専制主義の対立」と図式化するバイデン政権の外交路線とも関係している。7月にサウジを訪問したバイデン大統領は、サウジをはじめとする湾岸協力会議(GCC)諸国やヨルダン、エジプトなどの首脳との会議で、「米国は中東への関与を続ける。米国が退いた空白を、ロシアや中国が埋めるようなことは認めない」という趣旨の演説をした。これが中東側には全く受けなかった。演説後にサウジの有力者は、「われわれは、そのようなゼロサムで物事を考えない」と語った。

バイデン米大統領㊧をグータッチで迎えたムハンマド皇太子(7月、ジッダ)=サウジ王室提供・ロイター

もともと、米国とサウジの「同盟関係」は、北大西洋条約機構(NATO)や日米同盟のような明文化された条約に基づくものではない。米国がサウジの石油資源を得る見返りに、サウジに安全保障を提供してきた歴史は、「シェール革命」で米国の石油生産量が大幅に増え、サウジの資源への依存度が低下した結果、曲がり角を迎えていた。

米国に代わり中国、インドが重要顧客に

米国にはサウジアラムコ系の石油精製会社もあるから、サウジから米国への原油輸出がゼロになることはないが、サウジという供給者にとって米国は最重要の顧客ではなくなっていることも、認識する必要がある。サウジなど湾岸産油国の原油輸出の大半はアジア向け。最大の顧客は中国であり、インドも今や日本を上回る原油輸入国になっている。石油政策では、ロシアと連携したOPECプラスの成功体験が、サウジにとってきわめて重要だ。そういう変化を無視して、サウジを米国の従属的なパートナーとみなすと、摩擦が生じやすい。

サウジアラビアにとって、米国は石油の最重要の顧客ではなくなっている(サウジアラムコの石油精製施設)=ロイター

米国にとってもサウジは、かつてのような死活的な重要性はなくなりつつある。だから、人権問題などにからんでサウジへの批判が強まりやすい。それでも、サウジは戦略的に重要だ。バイデン大統領は10月にサウジへの懲罰的な措置をにおわせたが、実際に何かの措置を発動したわけではない。ワシントン・ポスト紙の報道によると、最近、サウジに対するイランのミサイルやドローンによる攻撃のリスクが差し迫っているとの情報に基づいて、湾岸地域に駐留する米軍機がイランに向けてスクランブル発進したという。

米国にとって戦略的になお重要

2019年9月には、サウジ東部の最も重要な石油施設が攻撃を受け、原油価格が短期間とはいえ急騰した。その攻撃はイランと連携するイエメンの武装組織によるものだが、米国はイランからの攻撃もあったと断じた。米国のサウジへの直接の依存度は低下しても、サウジに異変が起きると、石油価格は確実に上がる。インフレ抑制が重要な課題である以上、バイデン政権もサウジを軽視するわけにはいかない。

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