アジアー欧州の貨物輸送に代替ルート

アジアー欧州の貨物輸送に代替ルート 侵攻のロシア回避
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『アジアと欧州や中東を結ぶ貨物輸送で、ロシアを避けてカスピ海を経由する新たなルートが拡大している。通過国のカザフスタンなどでは同ルートの1~8月の貨物量が前年同期比で3割増となった。アゼルバイジャンも貿易港の拡充や経済特区の新設で、取扱量を大幅に増やす計画だ。ウクライナ侵攻を続けるロシアを迂回する動きで、中国も後押しする。

カスピ海を経由する貨物ルートは「中央回廊」と呼ばれ、通過国のカザフとアゼルバイジャン、ジョージアの3カ国が主体となり輸送網の整備を進める。カスピ海は貨物船などで渡り、陸路でジョージアやトルコと結び、欧州に至るルートだ。

カザフ国営鉄道のグループ会社、KTZエクスプレスのタパロフ副社長は日本経済新聞の取材に対し「地政学的な影響で輸送ルートに変化が生じている」と指摘した。中央回廊全体の1~8月の輸送量は20フィートコンテナ(TEU)換算で前年同期比3割超の2万個に増えたと明らかにした。

中国からは機械設備や食品の輸送が増え、カザフからもロシア産に代わる鉄や穀物などがコンテナで欧州方面に輸送されているという。アゼルバイジャンの国営鉄道の子会社でコンテナ輸送を担うADYコンテナも、首都近郊にあるバクー港とカザフを経由するルートの取扱量が1~9月に前年同期比で54%増えたと明らかにした。

バクー港幹部によると、上海―トルコ・イスタンブール間の輸送日数は30~40日程度と海運とほぼ同じだという。

中央回廊は中国の広域経済圏構想「一帯一路」の一部でもある。中国はこれまでに、カザフ国境に自由貿易特区を設置したり、イスタンブールの港湾を買収したりするなど投資を進めてきた。

習近平(シー・ジンピン)国家主席は9月、新型コロナウイルスの感染拡大後、初の外遊先としてカザフを訪れ、「一帯一路の枠内での協力」が進んでいると強調した。

中国―欧州間の貨物輸送はコスト面で優位な海運が9割を占め、陸上はロシア極東経由やシベリア鉄道を利用する「北回廊」が大半を占めてきた。だが、国営ロシア鉄道が欧州連合(EU)から制裁を科された影響などから、中央回廊に注目が集まっている。

中国と欧州間の鉄道輸送量を調査するERAIによると、1~6月のシベリア鉄道経由などの輸送量はコンテナ換算で前年同期比9%減少。トランジット貨物は26%減と大幅に落ち込んだ。

中央回廊の利用拡大は、アゼルバイジャンが2018年に国際貿易を担うバクー港を開いたことが貢献している。22年末までに隣接地域に800ヘクタール以上の広さの自由経済特区もオープンする。

各国は輸送能力の拡大を急ぐ。カザフはカスピ海のアクタウ港などでコンテナ輸送の拠点整備に着手し、25年までに従来の2.5倍の年10万個の取り扱いを可能にする。バクー港も取扱量を21年の年4万4千個から30年に24万5千個へと約6倍に増やしたい考えだ。

地域紛争が解決に向かっていることも追い風となる。アゼルバイジャンは20年秋のナゴルノカラバフ紛争で隣国アルメニア側に占領されていた地域の多くを解放した。17年にバクーからジョージアを経由してトルコ東部に至る鉄道を開通したのに続き、バクーとトルコやイランと直結する道路の建設が可能になった。

新型コロナ禍による海上輸送の混乱で、シベリア鉄道の利用を増やしていた日本企業も少なくない。コンテナ輸送でロシアを迂回する選択肢は海運しかなく、日本企業も中央回廊への関心を高めている。10月19~25日には、初の官民調査団がカザフとアゼルバイジャンを訪れた。

NIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD)は、5月から中央回廊の使用を開始した。中国―欧州間の生活雑貨などの輸送で利用され、荷主の日系企業からの問い合わせも相次ぐ。「選ぶ荷主は一部だが、リスクを避けたい需要がある」とみる。

課題も浮上している。NXHDによると、遅延や滞留の現象が発生し、従来のロシア経由よりも2倍以上の輸送日数がかかることもある。日系の中堅国際物流企業の担当者は「ユーザーからは『鉄道の連絡がうまくいかないなど安定性が欠ける』いった話を耳にする」と明かす。

中央回廊は港湾、輸送船、鉄道、道路などのインフラ整備は途上段階にある。国境を越える際の通関手続きの電子化や簡素化では多国間の協力深化が欠かせない。海上輸送の運賃は足元で下落している。割高な運賃でも荷主に選ばれるよう、関係国は10日程度の輸送日数短縮も目指している。

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