ウクライナ軍が人類史上初の水上ドローンで対艦攻撃

ウクライナ軍が人類史上初の水上ドローンで対艦攻撃
中国軍自爆ドローンによる海上自衛隊無力化の恐れも

部谷直亮(※「(ひだに・なおあき)」とお読みするらしい…。) (慶應義塾大学SFC研究所上席所員)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/28402

 ※ 今日は、こんなところで…。

『ウクライナ軍は2022年10月29日にロシア海軍の黒海艦隊に対し、海戦史上の画期となる軍事革命を象徴する攻撃を行った。

 攻撃を受けたロシア国防省の発表によれば、8機のドローンと7隻の自爆水上ドローン(以下、自爆USV)がセヴァストポリ港を本拠とする黒海艦隊に空と海からの対艦攻撃を仕掛けたという。攻撃をしたウクライナ側もUSVからの映像と共に攻撃を発表した。

 これは人類史上初のドローンによる対艦スウォーム攻撃であり、無視できない軍事革命となる可能性が高い。航空機が戦艦を初めて撃沈したタラント空襲(1940)や日本海軍による真珠湾攻撃(1941)に匹敵する契機になりそうな見込みだ。

ウクライナ軍が使用した自爆水上ドローンの正体

 そもそも今回の攻撃はどのようなものだったのだろうか。両軍の発表や既に報じられた分析を相互比較して論じてみよう。

 まずロシア軍側としては複数のドローンと自爆USVの攻撃が行われたとしているが、両軍ともに水上ドローンの映像しか出ていないので、複数の自爆USVによる停泊する艦隊への攻撃が行われたというのが現時点の確定した事実だろう。

 この自爆USVとは、何が使用されたのか? そのヒントになるのが9月にセヴァストポリに漂着し、ロシア軍に回収された謎のUSVだ。

セヴァストポリ港に漂着した自爆水上ドローン(OSINT (Uri)のツイッター)

 この謎のUSVは、衛星通信用のスターリンクアンテナと思しきものを装備し、胴体中央に潜望鏡のようなカメラと船首に爆薬を積載した偵察や自爆、それにおそらくは通信の中継も可能なタイプと目されており、ドローンの高い汎用性を象徴する機体だ。最高速度は時速110 キロメートルと目されている。

 一説には米国が供与したとされるUSVはこれではないかとも囁かれている。他方で民生部品を集合させただけの非常に簡素なつくりなのでウクライナ軍が作ったとする説もある。

 今回、ウクライナ軍が公開した自爆USVからの映像を見ると船首の形状や船首上部のセンサーがそっくりであり、既に複数の海外の専門家も指摘するようにこれと同一とみて間違いないだろう。』

『ロシア海軍に衝撃を与えた戦果

 それではこの人類史上初の対艦ドローン攻撃は、どのような戦果を生み出したのだろうか。やや早計でもあるが現時点での情報から分かる最低限のことを導き出してみよう。

 ロシア軍は9機のドローンと7隻の自爆USVが攻撃に参加したとし、すべて撃破したとしている。損害は小さな掃海艇1隻が損傷しただけだとしている。全機撃破と損害軽微の証拠は示されていない。

 しかしウクライナ軍が公開した映像からはロシア軍の〝大本営発表〟は疑わしく思える。例えば以下の映像では、巡洋艦モスクワ撃沈後に黒海艦隊旗艦を引き継いだ最新鋭フリゲート艦アドミラル・マカロフに向かって突撃を敢行する様子が見て取れる。

ウクライナ軍が公開した映像の一部

 ここで重要なのは自爆USVがヘリやマカロフからの激しい銃撃や砲撃をものともせずに高速で突撃している様子や易々と港に接近している姿が伺えることだ。本当にこの攻撃を回避できたか疑わしい状況だ。

 またSNSでは黒煙を上げるセヴァストポリ港の画像や爆発する映像も出ており、なんらかの被害があったことは間違いないだろう。攻撃前後の衛星画像を比較して港で黒く焦げた部分があったという指摘もある。他方、翌日の別の衛星画像とされるものではマカロフは上から見る限りでは損傷を確認できない。

SNS上では、セヴァストポリ港で黒煙を上げる映像も散見される

 少なくとも在泊艦艇なり港湾設備に自爆USVが何らかの打撃を与えたことは間違いないだろう。事実、ウクライナ政府高官は、ニューヨークタイムズに対し、ロシア軍の掃海艇は深刻な被害―大本営発表とは裏腹に―を受けており、おそらく修理不可能だと語っている。

 少なくともロシア軍に与えた心理的打撃は大きい。これはロシア軍の反応からもよく分かる。ロシア軍は「敵機全機撃墜、わが方の損害軽微なり」としながらも、この攻撃への報復として国際合意を破棄し、ウクライナ産の農産物輸出を一時停止するとした。大本営発表が事実なら一方的な大勝利を収めたはずなのに奇妙なことだ。

 物理的な被害に関わらずロシアをしてトルコが仲介してまで結実した国際合意を破棄させるほどの衝撃を与えたことは間違いない。

 無理からぬことだ。海軍力が皆無に等しいウクライナ軍によって、黒海では最強のはずの艦隊を持つロシア海軍が安価なドローン戦力によって翻弄―少なくとも映像では防御できていたようには見えない―され、母港ですら安全ではないと世界に証明されてしまったのだから。』

『現代版大艦巨砲主義の終わりの始まり

 それでは今回の攻撃が意味するものとは何か。

 それは海軍史上の画期となる可能性が高く、現代版の大艦巨砲主義を終わらせる号砲だということだ。少なくとも過去に回収された自爆USVと今回の攻撃が同一ならば、おそろしく低コストな無人兵器によって、人間という高コストなアセットを積載した高コストな艦艇が襲撃され、損傷もしくはその危機に瀕したことになる。

 これまで海軍力を整備する際は、艦艇が保有するVLS(垂直発射システム)の個艦における数とその艦艇数が重視されてきた。あたかも第二次大戦以前において戦艦の主砲の大きさと数が問題とされてきたように。

 しかし第二次大戦以前の価値観が航空母艦というゲームチェンジャーの登場によって破壊されたように、今回の事例は将来的にUSVのコスト低下と性能向上によって同じことが起きる可能性を示したものと評せる。

 長年の訓練によって練磨した乗組員を積載し、長期的な建艦計画に基づいて配備された高価な艦艇が、四次産業革命を背景とする民生品の寄せ集めの安価な無人兵器によって損傷させられた上に、怯えなければならなくなっていることはどうみても軍事史の転換点だろう。

 空を飛ぶドローンの軍事的有用性は―自衛隊とその奇妙な応援団が拒否してきたが―2020年のナゴルノカラバフ紛争や2022年のロシア・ウクライナ戦争によって証明された。ポーツマス大学のピーター・リー教授が指摘するように「もはやドローンが無ければ、戦争を遂行することは出来ない」のだ。

 それが今、海戦でも起きようとしている。筆者らは今年8月の共著論文で、サイバー空間と一体化した低空・水上・浅海域がドローンによって新しい戦闘領域になっており、無人兵器とそれに付随する兵器の独壇場になりつつあると予見したが、それが現実によって証明された形だ。

「新しい戦い方」への転換迫られる日本の防衛力整備

 もう一つは日本の防衛力整備も見直す必要があるということだ。

 現在、日本では今後10年の国家安全保障及び国防態勢を定める戦略3文書とされる国家安全保障戦略・防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画の策定が年末の公開を目指して進んでいるが、これは最後のチャンスでもある。

 ようやくドローン前提軍へと舵を切り始めた自衛隊だが、あくまでも職種ごとの発想や調達に縛られてしまっている。なによりも問題なのはこれまでの兵器や人間を置き換える、つまり少子高齢化問題を解決する省人化の発想にとらわれていることだ。

 つまりドローン等を活かした新しい戦い方を志向するのではなく、ロシア軍のように古い戦い方の道具にしようとしているのだ。実際、電波法や航空法の縛りで現場部隊はロクにドローンを運用できず、せっかく調達した小型ドローンも目視可能な距離で弱風の際にのみ運用する自撮り棒状態となっている。

 残念ながら海自のドローン対策も進んでいない。

 2012年に米海軍大学院はシミュレーションの結果、8機のドローンがイージス艦に対艦攻撃した場合、3.82機のドローンがイージス艦への突入に成功するとしている。本研究は東京湾のようなエリアのために主砲やミサイルを使わない想定だが、仮に洋上戦闘だとしても艦隊戦の前に安価なドローンに高価で補充できない対空ミサイルを射耗することは致命的だ。

 そして「イージス艦の戦闘システムは高速、レーダー断面の大きい目標と交戦することに特化しており、UAVのような低速、レーダー断面の小さい目標に対しては脆弱である」「レーザーは連射が効かないことから自爆UAVが複数襲来する状況では問題になる」とも指摘し、米海軍は最近でも自爆ドローンのスウォーム攻撃に備える実験を繰り返している。2021年4月には、米海軍はドローンの群れによる対艦攻撃演習も実施している。米海軍は艦隊戦においてドローン攻撃を目指し、また備えつつあるのだ。

 一方で、中国軍はスウォーム攻撃する自爆ドローンによって、以下の図のように日米の艦隊をせん滅する構想を示しているほか、最近でもAIで駆動する無人水上艦の実験に成功もしている。
中国軍が軍事博物館の展示で示した偵察ドローン、電子戦ドローン、自爆ドローンのそれぞれのスウォームで米空母を撃沈する構想図(米空軍研究所より引用)

 電子妨害による援護と同時に対艦攻撃するスウォームドローンに対する防空演習も繰り返しており、ドローンの運用やドローンのAIの学習も進んでいると思われる。特に厄介なのは、中国軍はドローンからの電波妨害を重視していることだ。WZ-7翔竜のように敵艦隊の通信妨害に特化した機体もあり、今年9月にも台湾の防空識別圏へ侵入もさせている。

 しかし海自の護衛艦は無防備なままで、ほとんど対策もしていない。中東の武装集団ヒズボラはドローン保有数が2000機だとされるが、自衛隊は今夏の岸信夫防衛相(当時)の説明によれば家電量販店で売っているドローンを含めて1000機しか保有していない。自衛隊はヒズボラよりもドローンに関しては軍事的に劣後しているのだ。

 このような「周回遅れ」を重ねた状況で中国海軍と戦えば海自は壊滅しかねない。』

『例えばドローンと自爆USVを組み合わせたスウォーム攻撃を台湾有事直前にされれば、戦わずして無力化されるだろう。今回使用されたのは、自爆タイプなので接触しなければならないが、電子妨害や小型ミサイルを発射できるタイプならば一定の距離に近づくだけで十分だ。

無人アセットなくして戦争遂行、日米同盟維持できない

 少なくともUSVに投資をしている中国が今回の戦いからどのような戦訓を導き出し、更なる投資を行うかは論じるまでもない。火を見るより明らかだ。

 よしんば海自艦隊が中国艦隊との艦隊決戦にたどり着けても、電子妨害ドローンによってレーダーも通信も妨害される中、無数の自爆ドローンによって損傷なり、貴重な対空ミサイルやCIWSの弾薬を射耗してしまうだろう。あとは中国艦隊が発射する対艦ミサイルによって殲滅される〝結果〟だけが待っていることになりかねない。

 そして、その悲惨な様子はドローンの4K映像によって、今回のように世界中にSNSを通じて配信され、日本の戦意は消失し、米国内を含む国際世論は中立化しかねない。

 もう一つの恐ろしいシナリオは米海軍は先述したようにドローンによる攻撃も対策も重視している。それなのに自衛隊がこの分野で遅れたままでは共同作戦能力を欠いているとみなされ、同盟にヒビが入りかねない。

 そうであってはならない。

 むしろ陸海空自衛隊は、在来型兵器と空中・水上・水中におけるドローンを組み合わせて東シナ海の低空域と浅海域―浅い大陸棚はまさしく水上及び水中ドローンの恰好の場だ―の〝空地中間領域〟を支配し、中国軍の侵入を拒絶するコンセプトとドクトリンに移行するべきだ。

 例えば日本側としては、日中なり中台の開戦劈頭に大量の安価な空中・水上・水中ドローンを南西諸島の無数の島々や護衛艦や航空機から発進させ、偵察、電子妨害やデコイによるかく乱、中国軍の戦力を東シナ海上で消耗させつつ時間を稼ぐ。その間に有人アセットは、国民を南西諸島から避難させつつ本土からの戦力を南西諸島に展開させる。そして最終的に消耗しきった中国側を叩くということもできるだろう。

 また平時に日本側のドローンアセットが収集した中国海軍のデータやこの波高く強風の多い地域におけるドローン運用のノウハウは、米軍にとっても益が多く同盟強化の材料になる。

 もはやウクライナの戦場では無人アセットなくして戦争に勝つどころか、まともに戦争すら遂行できないことが明らかになっている。日本としても新技術を古い仕事の穴埋めに使うのではなく、〝新しい戦い方〟のために使い、その為に必要な制度改革と予算の確保に全力を尽くべきだ。』

https://note.com/wedge_op/m/mad2667b9289f