イランの反政府抗議デモの都市と地方の格差

イランの反政府抗議デモの都市と地方の格差
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/28390

『イランでは、若い女性アミーニさんの不審死をきっかけに抗議デモが始まり、イスラム革命体制打倒に転化した全国的な抗議デモが続いている。フィナンシャル・タイムズ紙の10月12日付け社説‘Iran’s youthful protests rattle an aging regime’は、イランを支配する保守強硬派が大きな譲歩をするとは思えないが、長い間苦しんでいる国民のために、イスラム革命体制は若いイラン人達の怒りの声に耳を傾けるべきであると論じている。主要点は次の通り。
Kachura Oleg / iStock / Getty Images Plus

・ほぼ1カ月の間、イランの若者達はイスラム共和国の治安部隊に抵抗し、抗議活動を続けている。女性たちの抵抗に対して全国的に支援の輪が広がり、さまざまなグループを団結させている。

・イスラム革命体制とその高齢化しつつある保守強硬派の指導者達は、その抑圧的な体制に対するかつて無い怒りに揺さぶられている。しかし、イスラム革命体制側は、これまで幾多の危機を乗り越え、情け容赦なく反対運動を抑圧して来た。

・抗議活動は、アミーニさんの死を超えて、より民主的な、かつ、世俗的な制度を求めている。

・イランでは、体制側が抑圧と支配の体制を有しているにもかかわらず健全な抗議活動の文化が存在しているが、現在の大規模な抗議活動は、1979年のイラン・イスラム革命以来の最初の大規模な抗議活動となっている。

・イスラム革命体制は生き残りにかけてはしたたかであるが、この抗議を蹴散らしても民衆の怒りと体制への幻滅は続くであろう。この抗議活動は、神権政治体制と多くの人々、特に人口の半分を占める40歳以下の若い世代との間に存在する深い不信を明確に示している。

・イスラム革命体制は、抗議活動に対する暴力を停止しなければならない。2021年のライシ大統領の当選以来、国家のあらゆる機構を支配下に置いた保守強硬派が大きな譲歩をするとは思えない。しかし、この閉塞した国家と長い間苦しんでいる国民のために、イスラム革命体制は、命を賭けて街に繰り出している若いイラン人達の怒りの声に耳を傾けるべきである。

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 イランの抗議デモは1カ月以上続いており、かつ、日本のメディアも取り上げる等、国際的に大きな関心事となっている。しかし、このデモが大きく取り上げられているのは、欧米のメディアのイラン嫌いが大きな理由ではないかと思われる。

 確かに、上記の社説が指摘するように、今回のデモは1979年のイラン・イスラム革命以来の大規模なデモに拡大している。しかし、「国民に愛されるイスラム革命体制」であることを諦めて、世俗化や経済の不振に対する国民の不満を抑え込んでイスラム革命体制を護持するために強引に三権を掌握した保守強硬派が、最後はデモを力ずくでねじ伏せてしまうのではないかと考えられる。』

『さらに、田舎の状況についての情報が無いので断言出来ないもののデモの映像は全て都市部で撮影されており、恐らく田舎ではデモが起きていないと思われることからイスラム革命体制の地盤である田舎は、依然としてイスラム革命体制に忠誠を誓っていると想像される。79年にイランでイスラム革命が成功したのは、当時のパーレヴィ朝が、白色革命と呼ばれる工業化、農地改革等の強引に近代化(世俗化・西欧化)を進めて宗教界を怒らせたことが大きな理由の一つだと言われている。
遠のく米国との核合意の再開

 白色革命は、イスラム教の信仰を弱めるだけでなく、大土地所有者でもあった宗教界の既得権も脅かしたのであり、宗教界はパーレヴィ朝を看過出来なかった。そして、田舎に行けば行くほど、人々は信心深くなる傾向があり、宗教指導者の影響力は強い。

 こうしてパーレヴィ朝に対する抗議は、宗教界を敵に回したために都市部だけでは無く、宗教の影響が強い田舎でも広まったと考えられる。他方、今回のデモが都市部に止まっているとすれば、それは、イスラム革命体制で特権を享受している宗教界がイスラム革命体制を打倒して世俗化しようとする訳が無く、他方、デモ隊側は田舎にまでアウトリーチする術が無いからではないか。

 最後に、今回のデモで、バイデン大統領自らがデモ隊を支持する発言をしている(来月に中間選挙を控える同大統領としては政治的に止むを得なかったのだろう)が、これにより、イラン核合意の再開は、ますます遠のいたと考えるべきである。しかし、既にイランは、濃度60%で核爆弾1個分の濃縮ウランを備蓄し、時間が経てば経つほど、備蓄量は増えていく。

 米国は一体、どうやってイランの核武装を阻止するつもりなのであろうか。イラン側は、ハメネイ最高指導者が、ファトワ(権威ある聖職者による決定)で核武装を禁止していると主張しているが、どう考えても核兵器にしか使い道の無い60%もの高濃度の濃縮ウランを大量に備蓄しようとし、執拗に核爆弾製造に必要な金属ウランの製造実験に対するIAEAの調査を阻止しようとする態度には疑いを持たざるを得ない。』