ウクライナ侵攻「外交解決難しい」 NATO前事務総長

ウクライナ侵攻「外交解決難しい」 NATO前事務総長
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR31DG10R31C22A0000000/

『【コペンハーゲン=竹内康雄】北大西洋条約機構(NATO)のアナス・フォー・ラスムセン前事務総長は、ロシアによるウクライナ侵攻について外交的・政治的な解決は難しいとの見解を示した。ウクライナの勝利まで西側諸国は支援を続けるべきだと呼びかけた。中国が台湾に侵攻する事態に備え、民主主義国が一段と協力を深めるよう促した。

コペンハーゲン市内で日本経済新聞のインタビューに答えた。

ウクライナ情勢を巡り、ラスムセン氏は「政治的な解決を信じていない」と述べたうえで、結果を決めるのは「戦場での立場だろう」と語った。ウクライナはロシア軍が領土内にとどまる限りは「決して譲歩しない」一方、ロシアのプーチン大統領が外交的な解決を望んでいないのは明らかだからだという。

ロシアとの対話には、プーチン氏は「嘘をつく」と否定的な考えを示し、「時間の無駄だ」と言い切った。

プーチン氏の足元の狙いはウクライナを「不安定で弱いままにしておくことだ」とした上で、ロシアの戦略は既に占領したウクライナ領を守ることに移りつつあると分析。紛争が長期化する可能性が高いと予想した。

ラスムセン氏は「何が勝利か定義するのはウクライナのゼレンスキー大統領と同国政府だけだ」として「我々がロシアに譲歩するようウクライナに圧力をかけることはできない」と語った。ゼレンスキー氏はロシアが9月に一方的に併合を宣言した東・南部4州に加え、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島の奪還に意欲を示している。

エネルギー価格高騰に直面し、欧米ではウクライナへの「支援疲れ」も見える。ラスムセン氏はウクライナで成果を上げれば「プーチン氏は止まらない」と警鐘を鳴らした。モルドバやジョージア、リトアニアが次の標的になる可能性に触れ、「支援しなければ、(次は)我々自身が苦しむことになる」と力説した。

中国がロシア寄りの立場を取ることには「中国の利益がある」との見方を示した。侵攻で弱体化したロシアは「中国の衛星国になるだろう」と予想した。

ロシアがウクライナ侵攻で成功すれば、中国が台湾を攻撃する可能性に言及した。実際に攻撃すれば、「西側諸国の指導者は中国指導部に(経済制裁などで)ロシアと同じ扱いを受けると伝えることが重要だ」と訴えた。

中国の経済規模はロシアの10倍あり、西側が制裁すれば世界経済への打撃は大きい。ラスムセン氏は民主主義国が協力すれば世界経済の60%を占めるとして、中国に頼らない体制づくりを急ぐべきだとの考えを示唆した。

北大西洋条約の5条は一つの加盟国に対する攻撃をNATO全体への攻撃とみなし、加盟国は攻撃された国の防衛義務を負う集団的自衛権を定める。ラスムセン氏は中国から貿易で嫌がらせを受けるオーストラリアやリトアニアの事例を挙げ、「経済版5条」をつくるよう提唱した。

ラスムセン氏は9月、ウクライナのイエルマーク大統領府長官と共同で「キーウ安全保障協定」案をまとめ、ゼレンスキー氏に提出した。ウクライナの中立化を否定し、NATOに加盟するまでの間、米欧などがウクライナの防衛力強化を支援する内容だ。ロシアが再び攻撃できない防衛体制を築く狙いがある。

ウクライナ支援は米国が7割を占め、欧州は3割に満たないと説明し、ウクライナに隣接する地域として、欧州側が主導的な役割を果たす重要性を説いた。ラスムセン氏はゼレンスキー氏が同協定案に「満足していた」と明かし、実現に向けて関係国と協議を進めているという。

Anders Fogh Rasmussen 1953年生まれ。デンマークの税制や経済問題の閣僚を歴任した後、2001年に同国首相。2009年にNATO事務総長に就き、14年まで務めた。同年、シンクタンク「ラスムセン・グローバル」を創設した。 』