中国離れ、止まらぬ中・東欧 ロシア擁護に反発と怒り

中国離れ、止まらぬ中・東欧 ロシア擁護に反発と怒り
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD269A00W2A021C2000000/

『中・東欧諸国で中国離れの動きが勢いづいている。中国がロシアのウクライナ侵略を非難せず、かばうような言動を続けていることが大きな原因だ。

2010年代前半、中・東欧は経済協力への期待から中国に接近した。しかし「中国熱」は冷め、今後は欧州連合(EU)の対中政策を厳しい方向に引っ張る存在になるかもしれない。

中国と中・東欧16カ国は12年、経済協力を話し合うため、「16プラス1」という枠組みを設けた。ポーランドやハンガリー、ルーマニアなど域内の大半の国々が名を連ねた。19年にギリシャも加わり、「17プラス1」になった。

中国はこの枠組みでほぼ毎年、首脳会合を開き、インフラや技術協力などを材料に中・東欧諸国を取り込もうとしてきた。これに対し、ドイツやフランスは、EUが中国によって分断されてしまうと危惧した。「17プラス1」に深入りしないよう各国に求めてきた。

ウクライナ侵略に「不信感」

しかし、ここにきて構図は様変わりしつつある。発端は21年5月、リトアニアがこの枠組みから脱退し、中国との決別に動いたことだ。22年8月にはラトビア、エストニアも離脱を宣言し、「17プラス1」だった枠組みは「14プラス1」に縮んでしまった。

これにチェコも追随する兆しがある。同年5月半ば、チェコ下院の外交委員会が政府に対し、脱退を求める決議を採択した。

なぜ、今年に入って中国離れが勢いづいているのか。いちばんの理由は、2月24日のロシアによるウクライナ侵略だ。

地理的にロシアに近い中・東欧は、ロシアの脅威に極めて敏感だ。米ソ冷戦中、ソ連の共産圏に組み込まれ、影響下に置かれたトラウマもある。

このためウクライナ侵略を中国が非難せず、プーチン政権といまだに良好な関係を保っていることに多くの中・東欧諸国が怒っているのだ。ポーランドの東方研究所(OSW)で、中国問題を研究するヤクブ・ヤコボウスキ氏はこう話す。

「侵略国であるロシアを中国が擁護していることに、多くの中・東欧諸国が反発と不信感を深めている。中・東欧はソ連時代の苦しい経験からもともと、共産党体制へのアレルギーが強い。中国離れは止まらないだろう」

焦りを募らせた習近平(シー・ジンピン)政権は4~5月、中・東欧の主要8カ国に政府特使を送り、「ウクライナ危機での中国の立場」を釈明して回った。

だが、中・東欧の当局者らにたずねると、中国への視線はなお冷たい。特に中国特使に冷淡だったのが、ポーランドだ。現地の外交筋によると、首都ワルシャワを訪れた中国特使に外相はおろか、外務省首脳も面会を拒んだ。

ポーランドは第2次世界大戦でソ連とドイツに侵攻されるなど、長年、ロシアの脅威を味わってきた。それだけに中国のロシア擁護への憤りはひときわ強い。

掛け声と裏腹に投資進まず

こうした対中不信は、経済交流にも影を落としつつある。現地報道によると、ルーマニア政府は中国企業による同国内でのインフラ事業などを、厳しく制限する方針を固めた。20年には、中国企業と大筋合意していた原発建設プロジェクトを凍結し、米企業と契約し直した。中国への警戒感が一因とみられている。

そもそも、中・東欧の中国熱は、ロシアの侵略前から息切れの兆しが出ていた。中国政府の掛け声とは裏腹に、同地域への投資が進んでいないからだ。

ドイツのメルカトル中国研究所によると、20年の中国の対欧州直接投資のうち、中・東欧向けは約3%にすぎない。しかも、投資はハンガリーやポーランドといった有力国に集中し、他の国々には恩恵が乏しい。

筆者が18年春に中・東欧を訪れた際には、すでに中国からの投資停滞に失望が広がっていた。例えば、チェコでは「中国からは全然、製造業などへの投資が来ない。総輸出に占める対中国は約1%にすぎない」(同国の経済学者)との不満が聞かれた。

米中対立の激化も、中国離れの要因だ。17年に発足したトランプ前米政権は中・東欧諸国に、ハイテク分野からの中国排除に協力するよう迫った。対米関係の悪化を避けたいポーランドやチェコ、ルーマニア、エストニアは米側の要請を受け入れ、19~20年、当時の次世代通信規格「5G」から中国通信大手、華為技術(ファーウェイ)を排除する方向に動いた。

むろん、ハンガリーや、EU加盟国でないセルビアなど、依然として中国寄りと目される国も残る。ただ、これら例外を除けば、中・東欧は中国から離反する方向に踏み出したといえる。

途上国の離反招く可能性も

この潮流が続くとすれば、国際政治にも少なからぬ影響がおよぶだろう。第1に、中・東欧の対応は、欧州全体の対中政策にも変化をもたらす。ヤクブ・ヤコボウスキ氏は「中・東欧の対中姿勢が厳しくなることで、EU全体の中国政策はより強硬な方向に傾いていく」と予測する。

第2に、中・東欧の動きは中国に対し、ロシアを擁護することが中国の外交上、いかにマイナスであるかを教えている。

ウクライナ侵略によって引き起こされた食料危機は、アフリカや中東の諸国を直撃している。中国がロシア寄りの立場をとり続ければ、こうした途上国の怒りを買い、離反を招く可能性もある。

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秋田 浩之

長年、外交・安全保障を取材してきた。東京を拠点とし、北京とワシントンの駐在経験も。北京では鄧小平氏死去、ワシントンではイラク戦争などに遭遇した。著書に「暗流 米中日外交三国志」「乱流 米中日安全保障三国志」。

中国離れ、止まらぬ中・東欧 ロシア擁護に反発と怒り(10:00)
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