欧州 EU内部でぶつかる各国の利害 それでも結束維持を評価すべきか

欧州 EU内部でぶつかる各国の利害 それでも結束維持を評価すべきか – 孤帆の遠影碧空に尽き
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『【EU内部の対立 ピレネー越えパイプライン ガス価格上限 独仏「すきま風」】
欧州・EU内部の対立は今に始まった話でなく、以前から財政規律をめぐるドイツ・オランダなど北部とギリシャ・イタリアなど南部の南北対立、いわゆる西欧的価値観をめぐるポーランドやハンガリーなど中東欧諸国との東西対立などが対立軸として存在しています。
現在の欧州にとって最大の課題は「脱ロシア」の状況で、この冬に向けていかに天然ガスを確保するかです。(ただし、後述の状況から、現状はだいぶ好転しているようですが・・・)

欧州向け天然ガスパイプラインと言えば、ロシアからドイツに運ぶ「ノルドストリーム1,2」が、供給停止とか爆破とかで何かと話題になりますが、もちろん他にもパイプラインはあります。

そのなかで関係国の「不協和音」を惹起しているのが、一部建設済みで、工事が中断しているスペインからピレネー山脈を超えてフランスに至るもの。

****スペイン提案「ガスパイプ構想」欧州巻き込む議論…フランスは消極姿勢、ドイツは乗り気****

ロシアによるウクライナ侵略を受け、欧州で露産天然ガス供給への不安が高まる中、スペインがフランスに対し、天然ガスパイプライン敷設構想の再開を呼びかけ、他国を巻き込んだ議論となっている。

スペインは、北アフリカなどから輸入したガスを欧州に供給する狙いだが、フランスは否定的で、欧州連合(EU)諸国間の危機対応をめぐる思惑のずれを浮かび上がらせている。

再開構想が出ているのはスペイン北東部からピレネー山脈を越えて仏南東部を結ぶ約190キロ・メートルのパイプラインだ。当初このパイプラインを通じ、スペインがアルジェリアから輸入した天然ガスを欧州各国に供給することが期待されていた。だが、建設コストがかさみ、環境保護団体の反対もあり、2019年に中止された。

ロシアが今年2月、ウクライナを侵略すると、スペインはEU諸国のロシア産天然ガスへの依存度を減らす一環として、構想復活の可能性に言及してきた。スペインは、アルジェリアやカタール、ナイジェリアなどから輸入したガスをEU諸国へ供給することで、域内での存在感を高めたい思惑があるとみられる。

AFP通信によると、仏政府は、「稼働には時間がかかり、現在の危機に対応できないかもしれない」と、消極的な姿勢を示している。

EU諸国の中で、ロシア産天然ガスへの依存度が高いドイツもスペインに加勢した。ショルツ独首相は今月11日の記者会見で構想について、「実現していれば、天然ガス供給の(厳しい)状況に多大な貢献をしていただろう」と述べた。

ロシア国営ガス会社「ガスプロム」は、タービン修理を名目にパイプライン「ノルトストリーム1」のガス供給量を引き下げており、ドイツでは冬場のガス不足を警戒している事情がある。供給源多様化のためにはフランスの協力が欠かせない。

スペインのテレサ・リベラ環境移行相は12日、地元メディアに対し、ショルツ氏の発言を歓迎したうえで、「スペイン側ではパイプラインは8〜9か月で稼働可能だ」と述べ、仏側に対応を迫った。16日にはペドロ・サンチェス首相が「供給網の改善で、欧州諸国の結束をより示せるようになる」とも語った。

フランスは、ロシア産天然ガスへの依存度が低く、ドイツに比べ危機感は薄い。更に一層の自立を図るために、次世代型原子炉6基の建設などに優先的に資金を回す方針で、スペインの構想が実現するかは不透明だ。【8月19日 読売】

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なお、スペイン側はEUがパイプライン建設費を支払うべきだとの考えを繰りかえしています。

一方、天然ガスをめぐって財政余力のあるドイツが「自国第一」で身勝手だとの批判をEU内で浴びています。

****EU首脳会議、独に批判の集中砲火 ガス価格対策で****

欧州連合(EU)は20、21の両日、首脳会議を開いた。天然ガス価格高騰に対応するため、ガス価格への上限設定が焦点となった。ドイツが難色を示し、結論は先送りされた。EUではドイツが単独で巨額の国内支援策を決めたことへの不満も高まっており、「自国優先」という批判が相次いだ。会議では、EUの中国政策も課題になった。

首脳会議の声明は、ガス価格への上限設定には踏み込まず、「過度な価格上昇を制限する」ための一時的な方策を定める方針を明記した。また、加盟国のガス備蓄の15%を共同購入する目標を掲げた。

上限価格の設定は9月末に、イタリアやフランス、スペイン、東欧など15カ国が提案した。ショルツ独首相は20日の首脳会議直前、「政治的に価格に上限を設ければ、欧州へのガス供給を減らす危険がある」と演説。ロシアに代わる供給元を探る中、ガス輸出国との新たな契約が難しくなるとの懸念を示した。

ドイツの国内支援策はガス高騰から企業や消費者を守るため、総額2千億ユーロ(約30兆円)を拠出する内容で、9月末に発表された。EU域内でドイツ企業を優遇することになるという指摘が強く、エストニアのカラス首相は20日、「EU27加盟国が自国のことしか考えなければ、EUは沈没する。このことをドイツは理解してほしい」と主張。ポーランドのモラウィエツキ首相は「ドイツが単独行動をとれば、EU市場が阻害される」と訴えた。(後略)【10月22日 産経】

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また、EUを牽引する立場にあるドイツとフランスの「すきま風」も表面化しています。

*****仏独政府が来週の会合を1月に延期、エネルギーや防衛で食い違い****

フランスとドイツの両国政府は来週パリ郊外で開く予定だった会合を来年1月まで延期した。エネルギー政策や防衛などの課題を巡り両国に食い違いがあるためで、複数の当局者が19日明らかにした。

欧州諸国はロシアによるウクライナ侵攻後、結束の維持が不可欠になっているが、エネルギー危機によって協力関係を保てるかが試されている。

ドイツ政府の報道官は、2国間協議が合意に至るまでに時間を要することなどから、延期は理にかなっていると双方が判断したと述べた。

フランス大統領府の当局者も、エネルギー政策や防衛協力などの課題で合意に達するには「もっと時間が必要だ」と述べた。

フランスの当局者はドイツがフランス政府に事前に知らせることなく、2000億ユーロのエネルギー総合対策など一連の決定を一方的に下したことに不満を募らせている。フランス政府はドイツのショルツ首相とスペインが進めている、ドイツと南欧を結ぶ新たな天然ガスのパイプライン敷設計画にも反対している。

またフランス側はドイツが欧州ではなく米国から防空システムを調達する動きを主導していることに不信感を持っている。

ドイツの消息筋はロイターの取材に、フランスのマクロン大統領は来週予定していた会合で、かなり大胆な合意がまとまるのを望んでいたと述べた。【10月20日 ロイター】

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【対立の背景にある各国の事情】

上記のEU内の「不協和音」はバラバラに見ていても、その様相がイマイチ把握できません。
多くの問題は関連しており、それらををまとめて整理すると以下のように。

自国利益を求める各国の激しい駆け引き・綱引きの状況、各国の事情がよく理解できる記事です。

****EU、輸入ガス価格の上限設定で調整難航 自国優先のドイツに批判も****
欧州連合(EU)の加盟国が域外から購入する天然ガス価格に上限を設定すべきかどうかで調整が難航している。20〜21日のEU首脳会議でも議論されたが、合意には至らなかった。推進派のフランスと反対派のドイツが激しく対立している。

「政治的に価格に上限を設けることで、生産者がガスを他に売ってしまうリスクがある」。ドイツのショルツ首相はドイツ議会で20日、そう演説した。

ドイツが懸念するのは、EUが輸入価格を抑えることで、米国やカタール産の液化天然ガス(LNG)が、より高い価格で購入する国や企業へと輸出され、欧州の必要分を確保できなくなる事態だ。ショルツ氏は、競合相手として日本や韓国の国名を挙げながら、そのリスクを訴えた。

天然ガスの消費量が多く、財政に比較的余裕のあるドイツは、高値でも大量のガスを独自に調達したいのが本音だ。財政状況が比較的良好なオランダやデンマーク、スウェーデンもドイツに同調する。価格の上限設定については、消費者の天然ガス節約の機運を弱めるとの批判もある。

これに対し、フランスやイタリアなどEU加盟国の過半数は、何らかの方法で上限をかけるべきだと主張する。何もしなければEU内の政府や企業間の競争が天然ガスの価格を押し上げ、財力の乏しい加盟国や企業がガスを調達できなくなる恐れがあるからだ。

EUが21日、天然ガスの共同購入の導入で大筋合意したのも、こうしたリスクに対応するためだ。上限設定を主導するフランスは原発大国で、天然ガスの輸入量や消費量がドイツより少ない事情もある。

ドイツの自国優先の姿勢に対しては、EU内の結束を乱すとの批判が出ている。
ドイツは9月、エネルギー価格の高騰対策として最大2000億ユーロ(約29兆円)の巨費を投じ、消費者のために自国内でのガス価格を抑制する計画を発表した。だが、こうした対策を講じることができるのは、財力がある国だけだ。他のEU加盟国は「EU市場内での公平な競争を阻害する」と猛反発している。

フランスは、ドイツを孤立化させ、圧力をかける戦略だ。これまで20年以上にわたって懸案となってきたフランス、スペイン間の天然ガスパイプライン計画を巡り、建設推進を求めるスペイン、ポルトガル、ドイツに対し、フランスは「採算性」を理由に反対し続けてきた。

パイプラインが実現すると、スペインがアルジェリアから地中海の海底パイプラインで輸入する天然ガスが、ドイツを含めた欧州北部に届きやすくなる一方、フランスにとっては自国の原発による電力の輸出と競合するからだ。

そこでフランスは20日、このパイプライン計画を破棄し、代わりに新たな水素用のパイプライン計画を進めることでスペイン、ポルトガルと合意した。

ドイツの新たな天然ガス調達ルートを葬り去るとともに、スペイン、ポルトガルとの結束を深めた形だ。フランスのマクロン大統領はこの日、記者団に「ドイツは孤立した」と述べた。

独仏の対立の深まりから、26日に仏フォンテーヌブローで予定されていた独仏閣僚協議は「2国間の問題で調整が引き続き必要」(独政府報道官)として、来年1月に延期が決まった。一方、独仏両首脳は26日、パリで首脳会談を開き、エネルギー問題などを協議する。【10月24日 毎日】

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各国の事情で駆け引き・綱引き、対立があるのは「当然のこと」でもあります。
そんな対立を抱えながら、EUが曲がりなりにも「結束」維持していることの方が注目に値するかも。

【問題の現在の状況】

最初のピレネー越えパイプラインについては、上記記事にもあるように、「水素用のパイプライン」で話がついたとか。

****パイプライン新設で合意 仏スペイン首脳、水素輸送****

フランスのマクロン大統領は20日、スペインのサンチェス首相、ポルトガルのコスタ首相とブリュッセルで会談し、スペイン北東部バルセロナとフランス南部マルセイユを結ぶ海底パイプラインの新設などのエネルギー網強化で合意した。パイプラインは水素の輸送を主目的とし、天然ガスの輸送は限定的とする方針。

ロシアのウクライナ侵攻後、欧州のガス輸送拠点を目指すスペインは中止していたピレネー山脈を通じてフランスと結ぶパイプライン計画の再開を訴えた。ロシア産ガスへの依存脱却を図るドイツも支持したが、フランスは採算性や環境負荷の観点から反対を貫いた。【10月21日 共同】

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自国利益の話になるとフランスも頑なです。これで話が収まるのかどうかは知りません。
天然ガス価格上限の話は、11月24日に再びこの件に関する臨時会合が開催されます。

****EU、11月にエネ相臨時会合開催へ ガス価格上限設定巡り協議****

欧州連合(EU)はルクセンブルグで25日に開催したエネルギー相会合で、EU全域でのガス価格の上限設定を巡り討議した上で、11月24日に再びこの件に関する臨時会合を開催することで合意した。

EUのエネルギーに関する臨時会合は7月以降で4回目。11月の会合では、欧州委員会が先週提案した、EUのガス共同購入開始に向けた規則など他の緊急措置も採択される見通し。

輪番制のEU議長国であるチェコのヨゼフ・シケラ産業相は「市場パニック時の過度な価格上昇を抑制するダイナミックな電気・ガス価格上限」の導入について閣僚間で幅広い支持を得ていると述べた。

欧州委員会は18日、エネルギー危機で新たな緊急対策を提案した。欧州における天然ガス取引の指標となるオランダTTFに今後一時的な価格上限を設けることなどが盛り込まれた。ただ即時のガス価格上限導入は見送られた。

欧州委のカドリ・シムソン委員(エネルギー担当)は、欧州委がガス価格の上限設定を正式に提案する時期について明示しなかったものの、11月の会合までに「次のステップを準備する」とし、閣僚がEUのガス価格上限案に同意する可能性があるとした。【10月26日 ロイター】

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またフランス・ドイツは延期となった閣僚協議に替えて急遽セッティングされた首脳会談を26日に行っていますが、共同記者会見も行われず、「すきま風」状態は改善されていないようです。

****独仏の溝深く 首脳会談、防衛協力などで対立 共同記者会見は見送り****
ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領は26日昼、パリで昼食を含めて3時間にわたり会談した。

エネルギー問題や防衛協力などを協議したが、両国の立場の隔たりは大きく、予定された共同記者会見は見送られた。欧州連合(EU)の中核である独仏は最近、主要問題で亀裂を深めており、関係修復には時間がかかりそうだ。

首脳会談終了後、ショルツ氏はツイッターで「今日は非常によい重要な議論ができた。独仏は密接に連携し、共に課題に取り組んでいる」と良好な関係をアピールした。ただ、具体的な内容は乏しく、独仏間の溝を感じさせた。

この日は元々フランスで独仏閣僚協議が予定されていた。しかし独仏間の調整が間に合わず来年1月に延期となり、急きょ準備されたのがこの首脳会談だ。

独仏は20〜21日のEU首脳会議でも、域外から購入する天然ガス価格への上限設定を巡り、賛成するフランスと懸念を示すドイツが対立したばかり。

加えて関係悪化の一因となったのがショルツ氏が提唱した共通防空体制だ。

ロシアによるウクライナ全土へのミサイル攻撃を受け、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するドイツや英国など欧州14カ国と、NATO加盟を申請したフィンランドが今月13日、防空体制を強化するため兵器を共同調達する方針で合意した。ただ調達先はイスラエルや米国が有力とされ、自国のミサイル防空体制を周辺国へと拡大しようとしていたフランスは蚊帳の外だった。

ショルツ氏はこの構想を提案した8月のプラハでの演説で「EUが東方に拡大することは私たち全員にとっての利益だ」とも述べ、ドイツが独仏連携から東欧重視路線へと転換したとの指摘もある。フランスはこうしたドイツの対応に不信感を募らせているとみられる。【10月27日 毎日】

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【天然ガス 今年の冬はなんとかなりそう・・・という状況も】
最後に、懸念されてきた欧州の天然ガス状況。大方の懸念とはかなり異なる様相になっているようです。

****ガス不足懸念の欧州、暖冬の影響で供給過剰へ?****

天然ガス価格は8月下旬の高値から70%以上下落した

欧州では急速に天然ガスの供給がだぶついている。これを受けてガス価格は下落。欧州大陸がロシアへのエネルギー依存から抜け出そうとする中、冬の燃料不足と配給の懸念は和らいだ。

ほんの数カ月前には、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧州がロシアのガスから軸足を移し、ロシアが制裁の報復として輸出を制限したため、政府当局者や企業幹部、アナリストは欧州大陸が冬の間に必要な燃料を十分に確保できないのではないかと懸念していた。

政府は消費者や企業に燃料の節約を促し、そうしなければ強制的に配給すると警告し、米国やカタールなどが出荷したガスを大量に買い入れた。

こうした対策と、最近の季節外れの暖かい気候のため、陸上や沖合に浮かぶタンカーに大量のガスが貯蔵されることになった。

「供給は順調だ」と、欧州最大の銅生産者で大口のエネルギー利用企業である独アウルビスのローランド・ハリングス最高経営責任者(CEO)は述べた。「もう終わったと言うつもりはない。だが、2カ月前の状態よりはずっと良さそうだ」

欧州の港の沖には何十隻もの液化天然ガス(LNG)タンカーが浮かんでいる。極低温に冷却されたLNGの貨物を受け入れることができる貯蔵スペースや係留場所が不足している中、一部のLNG取引業者は、荷揚げする前に価格が改善することを願ってガスを船内にとどめている。これは市場環境の劇的な好転を象徴している。(中略)

欧州のこの快適な状況は一時的なものかもしれない。来週からは、冬の天候が貯蔵にどんな影響を与えるかを季節予報である程度正確に示すことができるようになる。(中略) 
それでも、欧州の天然ガス価格は8月下旬の史上最高値から70%以上急落している。
最近の穏やかな天候は、欧州の人々が家屋やオフィスを暖めるために満杯のガス備蓄をフルに利用し始める時期を遅らせている。

ロシアのガス供給から軸足を移すための大規模な取り組みにより、欧州各国はロシア政府が最初に輸出を削減したときに懸念されたよりも強い立場になった。欧州連合(EU)と各国政府は、企業や消費者に需要の削減を促す一方で、ガス備蓄を義務化した。EU全域のタンクなど貯蔵庫は94%埋まっている。

政府や企業の関係者は、価格下落を安堵(あんど)の表情で迎えている。アナリストによれば、冬が特別に寒いか、ロシア以外の供給源からのパイプラインが大きなダメージを受けない限り、欧州が危険なほどガス不足に陥る可能性は低い。(後略)【10月28日 WSJ】

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もちろん「しかし、まだ危機を脱したわけではない。ロシアからの供給が減り続けているため、2023年の冬はさらに厳しいものになる」とのことですが、来年の冬の話は誰もわかりません。』