日米フィリピン、海上警備の合同訓練 中国に対応

日米フィリピン、海上警備の合同訓練 中国に対応
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM242EJ0U2A021C2000000/

『【マニラ=志賀優一】フィリピン沿岸警備隊(PCG)が、日本の海上保安庁と米沿岸警備隊(USCG)の支援のもと、海洋警備能力を向上させる訓練に取り組む。28日には日本が供与した巡視船を活用したえい航訓練をマニラ湾で実施した。南シナ海の領有権を巡り対立する中国が海洋進出を継続するなか、警備能力の強化が急務だ。

日米両機関が海上保安に共同で取り組む枠組み「サファイア」のもと、PCGへの能力向上支援が23日、フィリピンで始まった。6月に続き今回が2回目の実施で、11月5日まで続く。同枠組みで日米が外国の海上保安機関を支援するのは現在フィリピンのみだ。

28日、日本経済新聞など報道陣に訓練が初めて公開された。新造船として日本がPCGに供与し、すでに南シナ海のパトロールに使われている全長97メートルの巡視船メルチョラ・アキノを使い、同44メートルの船をけん引するえい航訓練をマニラ湾で実施した。合計5時間以上に及んだ訓練にはPCGから約100人、日米を含め全体で110人超が参加した。
えい航訓練は操船技術の向上にもつながる(28日、巡視船メルチョラ・アキノの操縦室にあたる船橋)

巡視船が衝突や故障で操船できないことを想定した船の横に接近すると、船の後部からバンという大きな音とともにけん引に使う強度の強いロープが装置から発射された。受け取ったロープはけん引される船の船首に固定され、約220メートルの距離を保ちけん引した。

ロープを発射したPCGの船員アルドリン・ポンフィリアス氏は「とてもいい経験だった。偶発的な事故などが起きたときのため救助の備えができる」と語った。指導に当たった海保の松尾秀昭・上席派遣協力官は「ロープを船から外す際に、より適切な張り具合にするなど改善の余地がある」と指摘した。

巡視船からもう一方の船にロープを発射してけん引する(28日、マニラ湾)

同日の訓練時は海の状況が落ち着いていたものの、荒れた状態でも同様の作業ができるよう能力を上げるべきだとの指摘もあった。えい航では通常よりも巡視船の操船が困難になるため、操船能力そのものを向上するための訓練としても効果があるという。

約2週間に及ぶ期間中には搭載されているボートの揚げ降ろしや操船、船上での消火・消防訓練、逮捕術を使った制圧訓練、船の立ち入り検査訓練なども実施する。日米は今後もPCGに対して年3~4回のペースで訓練を実施する見通しだ。フィリピンを皮切りに日米連携で他の国への能力向上支援を実施することも視野に入れる。USCGのブレンディ・ランドルフ氏は「日米の違いは言語だけ。どこの国の海上保安機関も能力を高め海上の安全を確保する必要がある」と語った。

ボートの揚げ降ろしや操船も訓練した(28日、マニラ湾)

PCGが日米の協力を得ながら訓練を実施する背景にあるのが、南シナ海における中国の海洋進出だ。

フィリピンやベトナムなど南シナ海に面する東南アジア各国は、中国と南シナ海の領有権を巡り対立する。PCGは6日、フィリピンが領有権を主張しながらも中国が実効支配するスカボロー礁(中国名・黄岩島)に中国海警局の船舶4隻が確認されたと発表。2021年には南沙(英語名スプラトリー)諸島の周辺に多数の中国船が停泊を続けたうえ、中国海警局の船がフィリピン船に放水銃を撃つ事案も起きた。

中国は南シナ海のほぼ全域に主権が及ぶ「九段線」を主張する。16年に国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所が中国の主張を否定する判決を下したが海洋進出を続けているのが実情だ。

■マルコス氏、中国に強い姿勢 日米との連携カギ

6月末に就任したマルコス大統領は中国を念頭に「領有権は外国の圧力によって寸分たりとも譲るつもりはない」と主張し強い姿勢で臨んでいる。19日には「PCGの近代化に向けた努力を支援することを約束する」とも明言した。ドゥテルテ前大統領は領有権問題で対立しながらも通商面での関係を優先し中国に対して融和的な姿勢を打ち出していたが、マルコス政権はその対中姿勢を修正している。

マルコス氏は20日、「重量物運搬用ヘリコプターを調達するロシアとの取引があったが(破棄し)、代替として米国から供給を受けることになった」とも話した。フィリピンにとって軍事同盟国である米国と、4月に外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を初めて実施した日本と協力する意義は大きい。

日本にとってはマルコス新政権と協力関係を構築し、南シナ海・東シナ海における対中国対策で連携することが重要だ。米国にもフィリピンは南シナ海の軍事的要衝の役割を果たし、台湾有事も視野に入れた連携となっている。』