追い込まれたプーチン氏 欧州が占う政変4つのシナリオ

追い込まれたプーチン氏 欧州が占う政変4つのシナリオ
欧州総局長 赤川省吾
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR250NL0V21C22A0000000/

『なりふり構わぬやり方でウクライナの攻勢を押しとどめようとするロシア。核の脅しというカードまで振りかざすが、プーチン政権はいずれ行き詰まるとの見方が欧州政界で強まってきた。取材をすると4つのシナリオが浮かぶ。

核の脅しに屈せず

ウクライナを支える欧米諸国を核兵器でけん制するロシア。「ロシア軍の位置に大きな変化はない」(北大西洋条約機構=NATO=のストルテンベルグ事務総長)、「プーチン氏は(核保有国としての)責任をわかっている」(マクロン仏大統領)。欧州の要人から「核を使う可能性は低い」とのコメントがここにきて相次いでいる。

ドイツのガウク前大統領は「(ロシア軍の動きを)調べもせずに逃げるのはよくない。立ち向かわなければ」と日本経済新聞の取材で強調した。ウクライナが戦争で負ければ、モルドバなどが次の標的になる。欧州連合(EU)は「加盟国候補」を見捨てた、と見なされかねない。だから核の脅しには屈すべきではないとの認識が欧州政界に広がる。

もっとも、最悪の事態に備えた検討はしているようだ。仮に核兵器が使われたらどうなるのか。

ロシアが核を使った場合、欧米諸国はウクライナ領に展開するロシア軍に対し、反撃する可能性が高い(これまでの戦闘で破壊されたロシア軍車両)=ロイター

米国が巡航ミサイルなどでウクライナ領内のロシア軍を攻撃。独仏英なども加わり、ロシアの黒海艦隊と戦車群を壊滅させる――。表向きは沈黙を守る欧州の外交・安保関係者に話を聞くと、そんな展開が想定される。核では反撃せず、あくまでも通常兵器でウクライナ軍を支援するのがポイントだという。

第3次世界大戦につながりかねない恐ろしい想定だが、「核を使用してしまえば『核を使うぞ』という脅しも効果がなくなり、いよいよロシアは追い詰められる」と政治評論家セルゲイ・スムレニー氏(元ロシア反体制派ジャーナリスト)は言う。

プーチン政権が崩壊するとしたら、どんな道筋が考えられるのか。欧州の当局者は、大きくわけて4つのシナリオを想定する。

1つ目はクーデター。プーチン体制を支える治安・軍要員(シロビキ)の一部が離反し、政権中枢部を拘束するという展開だ。「反乱を起こすとしたら悲惨な前線を知る佐官など現場指揮官クラスではないか」(スムレニー氏)。ソーシャルメディアでは9月、プーチン氏の爆殺未遂事件があったとの噂が流れた。

1989年のルーマニア革命では武装蜂起した市民と、独裁政権に忠誠を誓う治安部隊の間で激しい戦闘になった=ロイター

2つ目は民衆蜂起。モスクワなど大都市で大規模な抗議デモが連日のように続き、最終的には軍の一部が市民側に合流して武装蜂起のような形になる。1989年、ルーマニアで独裁者チャウシェスクを倒したような「革命」のロシア版だ。

3つ目は国民の大量亡命だ。東ドイツは1989年、市民の西ドイツへの大量流出と、政権への抗議デモのダブルパンチで共産独裁政権を放棄せざるを得なかった。

4つ目は地方の離反。広範な自治権がある共和国などが「独立」あるいは「ウクライナ戦争からの離脱」を一方的に宣言するケースだ。いまウクライナ戦線で手いっぱいのロシア軍は地方の反乱を鎮圧する余裕はない、とされる。

プーチン氏失脚ならベラルーシに波及も

クーデターか、ルーマニアのような革命か、東独のような大量亡命か、ソ連崩壊時のような地方の離反か――。プーチン氏が失脚となれば、ドミノ倒しのようにベラルーシの独裁者ルカシェンコ大統領らも権力の座を追われるかもしれない。欧州、そして世界秩序は大きく変わる。

ただ、すぐに「ロシア政変」とはなりそうにない。プーチン氏は1985~1990年にソ連国家保安委員会(KGB)の職員として東ドイツに駐在し、ソ連・東欧ブロックの崩壊を自ら経験した。「その再来をなんとか防ごうと手立てを講じるはず」と欧州の外交関係者は口をそろえる。反体制派を徹底的に弾圧してクーデターや民衆蜂起の芽を摘む一方で、国民のあいだで不満が鬱積するのを防ぐため、ある程度の経済水準は保とうとするという見立てだ。

ロシアから出国する人は増えているが、現時点では体制を揺るがすほどの規模ではない(22年9月、フィンランド国境)=ロイター

実際、ロシア国民のあいだで際立った経済的な困窮があるわけではなく、ルーマニアのように軍と市民が一体になって武装蜂起する気配はない。徴兵などから逃れるため、数百万人がカザフスタンやジョージアに出国したとされるが、これは人口1億4000万人の数%にすぎない。冷戦期に国民の5人に1人が西側に亡命した東ドイツの水準を大きく下回る。

足元では劣勢のロシア軍が態勢を立て直し、路面が凍結する年明けに攻勢に出るとの観測もある。プーチン政権が倒れるまでウクライナの苦しみは続く。来年、主要7カ国(G7)議長国となる日本が、エネルギーの禁輸を含めた厳しいロシア制裁を講じるべきなのは言うまでもない。

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