米国も武器逼迫 軍需企業は冷戦期の1割、抑止力に影

米国も武器逼迫 軍需企業は冷戦期の1割、抑止力に影
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『ウクライナ紛争の長期化による兵器不足はロシアだけでなく、ウクライナに軍事支援を続ける米国も直面する課題になってきた。冷戦終結に伴う軍事費抑制で米国防総省の主要取引先が1990年の10分の1に縮んだ構造要因が背景にある。武器の供給制約は米国の抑止力に直結し、中国や北朝鮮など世界の脅威に隙を与えかねない。

「自国の安全保障上のニーズを満たしながら、ウクライナ防衛のシステム生産を加速するために我々の産業基盤を活性化させる」。オースティン米国防長官は12日、ベルギーの首都ブリュッセルで欧州など約50カ国の国防相らが出席した会合後の記者会見で語った。

ウクライナに兵器を供与する米欧などの西側諸国は在庫の補充に向けて各国の産業界と生産拡大の検討に入った。オースティン氏の発言は将来的な在庫不足への懸念から各国が生産体制を増強する必要があるとの危機感を映す。
オースティン氏は防衛産業の再構築を掲げる=AP

ロシアの侵攻が始まった2月24日以降、米国がウクライナに約束した安全保障に関する支援額は176億ドル(2兆6000億円)規模に達するが、数年後に到着する兵器も含む。長い期間にわたってウクライナ支援を続ける姿勢を示す一方、ただちに兵器を送れない事情もある。

米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン上級顧問は「米国の武器在庫の中には戦争計画や訓練に必要な最低限の水準に落ち込んでいる兵器もある」と指摘。ウクライナ以外で紛争が起きた場合の米軍の戦力に影響をおよぼすおそれがあると分析する。

例えば、ウクライナ紛争の序盤に首都キーウ(キエフ)へのロシアの進軍を阻んだ対戦車砲「ジャベリン」。米国が保有するうちの3分の1程度を譲渡した。在庫量を紛争前の水準に戻すには数年かかるもようだ。りゅう弾砲の弾薬も「自国の戦闘能力を損なわずに提供できる限界に近い」(カンシアン氏)水準にある。

射程が80キロメートルほどある高機動ロケット砲「ハイマース」も足りなくなってきた。激戦地の南・東部を中心にウクライナ軍による抵抗を支える主要な装備品だ。米政府はこれまで40基ほどのハイマースを送ると発表しているものの、現地に届いたのは半分ほど。「残りは数年先になる」(政府高官)公算が大きい。

米メディアによると、ジャベリンとハイマースを製造する米防衛大手ロッキード・マーチンのジェームズ・テイクレット最高経営責任者(CEO)は18日の投資家向けの説明会で、ハイマースを増産すると明かした。計画する生産能力を現在の年60基から96基に引き上げるまでに年単位を要する可能性がある。

バイデン政権が12日に公表した安全保障政策の指針「米国家安全保障戦略」で「防衛計画のあらゆる段階で同盟国やパートナーを取り込むのは有意義な協力関係を築く上で極めて重要だ」と記した。米国製の武器を台湾と共同生産する案を検討しているのも台湾有事に備え、共同で生産能力を高めたいという同じ文脈にある。

兵器供給が逼迫するのは冷戦の終焉(しゅうえん)を受けた米政府による国防予算の縮減が一因だ。世界銀行によると、米国の国防費は旧ソ連との軍拡競争が激しかった1960年代に国内総生産(GDP)比9%台、冷戦が終結した90年は5%台だったが、2020年は3%台に低下した。

市場環境の変化は業界に合理化を促し、淘汰や経営統合が進んだ。国防総省が2月にまとめた報告書によると、同省が取引する主な航空宇宙・防衛産業はロッキード・マーチン、レイセオン、ゼネラル・ダイナミクス、ノースロップ・グラマン、ボーイングの5社で、51社あった90年の1割以下に減った。

米国は足元のウクライナや欧州だけでなく、潜在的な脅威である中国、北朝鮮、イランに対峙するための抑止力強化にも目を配る必要がある。「欧州危機」に焦点を当てすぎれば、米国の力が分散して世界の安全保障に影を落とすことになる。

(ワシントン=坂口幸裕)

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