英新政権にいばらの道 財政危機・物価高騰・党勢低迷

英新政権にいばらの道 財政危機・物価高騰・党勢低迷
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『【ロンドン=中島裕介】就任からわずか44日で退陣を表明した英国のトラス首相の後任にスナク元財務相が就くことが決まった。まずはトラス政権が傷つけた経済・財政政策の国内外での信頼を回復するのが喫緊の課題となる。1ケタ台まで落ち込んだ政権支持率の回復には、財政規律を守りながら物価高騰に苦しむ生活者を支えるという難題が待ち受ける。

「私には危機的な困難を解決した実績や確かな計画がある」。スナク氏は23日、党首選への立候補表明でこう決意を語った。財務相時代に自身の評判を上げた新型コロナウイルス危機下での経済対策の成果を念頭に置いた発言だ。

だが現時点で大規模な財政出動は許されない。スナク氏はまず、トラス政権が大規模減税策で混乱させた金融市場を安定させることが急務となる。

トラス政権が首相辞任の前に年450億ポンド(約7兆5000億円)の減税のうち約7割を撤回したため、市場の大きな動揺はひとまず収まっている。ただ英長期金利(10年物英国債)の利回りは3.8~4%ほどと減税発表前より高い水準が続く。金利上昇に伴う住宅市場の冷え込みや年金基金の資金繰りの懸念は消えない。

英メディアは中期的に英国の債務残高を引き下げるには、年換算で400億ポンドほどの財政収支の改善が必要と報じる。政府内では金融機関への減税凍結や老齢年金の上げ幅の縮小などの財政再建策が浮上する。スナク氏は就任早々、国民や企業に痛みを強いる判断を迫られる。

難しいのは前年比上昇率で10%を超えるインフレにあえぐ市民への支援も欠かせない点だ。英調査会社ユーガブの調査では、8割の国民が日常の支出を切り詰め、6%は食事や暖房を「我慢することがある」と答えている。

財政規律の堅持が優先課題となり、大規模な政府支援の継続は難しい。スナク氏は前回の党首選から「困窮者への経済的支援は続ける」と発言している。10月から半年間で約600億ポンドを投じて企業や家計の光熱費を抑える対策は、来春以降、縮小される公算が大きい。

新政権はインフレ抑制の観点で、離脱した欧州連合(EU)との経済関係を見直す可能性もある。米ピーターソン国際経済研究所は「EU離脱が英国のインフレ率を余計に押し上げている」と分析する。

EUとの間で人が自由に移動できなくなって英国の労働力不足に拍車がかかり、対EU貿易では通関手続きが生じた。いずれもコスト増を通じて物価を押し上げる。スナク氏は前任のトラス氏ほどの対EU強硬派ではなく、EUからの移民受け入れ緩和やEUとの通関上の規制擦り合わせに動く可能性もある。

外交ではロシアへの強硬姿勢は維持される見通しだ。一方でスナク氏は、トラス政権が掲げた2030年までの国防費の国内総生産(GDP)比3%への引き上げには慎重だ。これまで23億ポンドを投じたウクライナへの軍事支援も、支援額の積み増しは難しくなる。

対中外交に関してスナク氏は財務相時代、19年を最後に開いていなかった英中の閣僚らが参加する「経済財政金融対話」の再開を模索していたとされる。人権問題や覇権主義的な動きは批判しつつ、一定の経済関係は維持する方向へと軟化しそうだ。

最大野党・労働党などは相次ぐ首相交代を批判し、早期の解散総選挙を求める。ただ足元で保守党の支持率は20%台と低迷。30ポイント以上労働党を下回っており、政権側は早期解散には応じないとみられる。24年末までの議会の任期中に記録的なインフレを沈静化して経済・財政を再生できるか。それが12年間続く保守党政権維持のカギになる。

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