経済安保、食料さえも武器に 友好国と調達再構築

経済安保、食料さえも武器に 友好国と調達再構築
分断・供給網(下)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC059NL0V01C22A0000000/

『カイロ市民から今夏、「パンの色がくすんだ」との声が上がり始めた。エジプト政府が小麦の製粉時に取り除く外皮の比率を減らしたのが原因とみられている。低所得者向けのパンには国が補助金を出し20枚で約7円に抑えている。同国は輸入小麦の8割をロシアとウクライナに頼る。小麦の国際価格はこの1年で4割上がった。食用部分を多く確保する苦肉の策だ。

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食料は武器

世界で食料の価格が上がっている。国連食糧農業機関の指数は9月に136と歴史的な高水準にある。「食料は武器。静かだが強力だ」。ロシアのメドベージェフ前大統領は言う。

日本も多くの食料を輸入に頼る。農林水産省によると日本の食品消費額は約15兆円。輸入品が3割を占め、中国(約5000億円)が米国に次ぐ輸入先だ。国連貿易開発会議によれば2021年に日本が輸入した野菜の53%、加工魚の52%が中国産だ。中国産食品は安全問題が注目されたが輸入が途絶すれば食卓は一変する。

全量中国依存の肥料も

深刻なのが農業に欠かせない肥料だ。肥料の輸出量はロシアと中国が首位と2位で全体の3割を占める。9月の国際価格は中ロが輸出を絞った影響で前年同月比7割上昇した。日本ではコメなどに使う化学肥料のリン酸アンモニウムのほぼ全量を中国に依存する。

中国にとって食料や肥料は他国をけん制する戦略カードだ。だが自国の食料の供給網も盤石ではない。

中国の21年の食品輸入額(飲料除く)は5年前の2.5倍の約18兆円まで増えた。特に米国産が輸入の3割を占める大豆は食用だけでなく家畜の飼料にも使われ、輸入できなくなった場合の影響は計り知れない。

中国は自給率を高めるため自国内での穀物の大幅増産を打ち出す。アフリカに対しても農業への投資を拡大。10カ国超の関税をゼロにするなど対中輸出を増やす動きを強めている。
偏在リスクも

日本の脱中国の動きは鈍い。政府は6月の報告書で食料供給網の混乱のリスクを取り上げた。企業もニチレイが冷凍食品の一部の生産を中国などから国内に移すことを決めた。だがこうした動きは一部に限られる。価格の安い中国産を減らすのは容易ではない。

供給網のブロック化が進む新たな経済秩序では重要物資の偏在リスク、特に中国の影響を世界は注視する必要がある。

液化天然ガス(LNG)は欧州で冬期の供給不安が懸念されたが、経済減速で1~8月の中国の輸入量が前年同期比2割減るととたんに在庫が増えた。価格も下がり、欧州の10月の天然ガス価格は100万BTU(英国熱量単位)あたり40ドル台と8月に比べて6割ほど割安になっている。食料も中国次第で世界の需給が大きく左右される。

解の一つが友好国と供給網を再構築する「フレンドショアリング」だ。米国主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」では食料の供給網整備が主要議題の一つとなった。食料を安定的に確保する体制をつくるには数年以上の時間がかかる。分断の損失を埋める新たな枠組み作りが急務になる。

「分断・供給網」は京塚環、江口良輔、赤間建哉、川上梓、田辺静、湯沢維久、カイロ=久門武史が担当しました。

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田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
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ひとこと解説

もっと暑くなる(気候変動問題)×もっと足りなくなる(資源問題)でもっと深刻になるのが食料問題。食料問題に対峙する有力な手段が農業DX。農機メーカーだった米ディア社はDXを駆使してテクノロジー企業に変貌、ビルゲイツ氏も主要株主となっています。日本でもクボタが顧客である農家とデジタルでつながり、農業におけるプラットフォーム構造を構築して農業の生産性を高めています。食料輸入国である日本ができることはテクノロジーで食料問題に対峙すること。そして、食料がもっと足りなくなるからこそ求められているのが国家間のつながりを強めていくこと。分断の最大の代償は食料問題。人と人のつながりが鍵になると信じたいものです。
2022年10月20日 7:05 (2022年10月20日 7:36更新)

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福井健策
骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
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分析・考察

脱依存ということを、何度か書いて来ました。もちろん、個人も企業も国家も、私たちは他者とのつながり無しには生存することはできません。ただ、つながりと依存の違いは、依存とは特定の他者に存在のいずれかの要件を頼り切ってしまい、それを失った時の代替策がないことを言います。対義語は、自立でしょう。
混迷の時代に流されないために、食糧であれエネルギーであれ他の安全保障であれ、自助できる部分と協力先を増やし、各要素の一国への依存を出来るだけ減らすこと。(例えば20%以下に。)
それは私たちにある程度の我慢と覚悟を強いるでしょうが、自立した本当のパートナーシップのためにも、その努力が必要な時だと感じます。
2022年10月20日 7:45

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

以前、工場を見学したことがある。スペイン沖で取れたアジは中国に運ばれ、中国の工場で開いてから日本に輸出されている。そして、焼き鳥は、タイの飼料メーカーは中国の工場で人海戦術で串さしてからコールドチェーンで大連まで運んで日本に輸出。まさにグローバルなサプライチェーンである。中国自身は食糧を輸出するほど食糧が余っていない。どちらかというと、中国は世界から集まった材料を加工する基地である。新たなサプライチェーンと食糧安全保障を計画するならば、新たな加工基地と物流システムを整備する必要がある
2022年10月20日 7:37』