北朝鮮が法令で定めた核兵器使用で高まる戦争の可能性

北朝鮮が法令で定めた核兵器使用で高まる戦争の可能性
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/28196

『9月22日付の英Economist 誌が「金正恩が彼の核兵器への権限を委譲することを考えている。この政策は抑止力を強化するが、事故のリスクを高める」と論じている。
estherpoon / iStock / Getty Images Plus

 尹錫悦韓国現大統領は、繰り返し自国の「kill chain」計画(攻撃が差し迫ったと考えられたら、北朝鮮のミサイル施設とその指導部を先制打撃するシステム)について言及した。

 金正恩は9月8日の演説で「核兵器が地上にある限り、かつ帝国主義が残る限り、決して核を手放さない」と述べた。彼は北朝鮮がいつ核を使うかを明らかにする法令を公布した。核兵器は指導部と核司令部が「危険に晒された」ときに、「自動的かつ即時に」発射されうることになった。

 この動きは北朝鮮の抑止力が相当成熟したことを示す。以前は金が核を使う唯一の権威であった。新法は金が核兵器に関する唯一の指揮を持つとするが、彼がその権限を委譲する可能性を開いている。法令は、金の命や彼の政権を支えている兵器へのいかなる攻撃も核戦争になり得るとした。

 核のボタンに指を置いている人は、兵器が常に必要な時に使えると同時に、適切な許可なしには決して使われないことを欲するが、核についての権限移譲は、無許可使用と事故による使用のリスクを高めることになる。

 金王朝は70年間続き、軍がクーデターをできないようにしてきた。部下に核コードを引き渡すと、彼らに金正恩を不安にする力を与えることになりかねない。核攻撃を始める権限を前もって与えることは技術的、人間的エラーの可能性を増やす。間違った攻撃探知システムからの情報に基づいて司令官が攻撃を命じることはありうる。

 このようなリスクは韓国と米国に注意深く行動する動機を与えるかもしれない。金が新兵器を開発するのを止めるものはほとんどない。金政権には脅しや制裁は効かない。

 尹大統領の非核化への「実質的進展」と引き換えに北朝鮮経済への協力をするとの提案は全くの軽蔑で迎えられた。金の妹は尹を「ナイーブな子供」と呼んだ。

 核の脅威は金政権の存続を助けている。しかし彼の許可なしに核兵器が発射されれば、彼は究極的な敗者になろう。米国と韓国は核使用は彼の政権の破滅になると明言してきた。


 北朝鮮の最高人民会議は9月8日、核兵器の使用の原則や条件を盛り込んだ法令を採択した。この法令は11項目からなる。

 金正恩国務委員長が核兵器に関するすべての決定権を持つとしつつ、「指揮統制システムが敵の攻撃の危機に瀕した場合、自動的かつ即時に敵への核攻撃を断行する」としている。具体的には「核兵器や大量殺りく兵器による攻撃のほか、国家指導部と核兵器の指揮機関、国の重要戦略対象に対する攻撃が、行われたり差し迫ったりしたと判断した場合、核兵器を先制攻撃に利用する」としている。』

『この法令が金正恩から部下に核兵器に関する権限を委譲するものかどうかは明確ではないが、「自動的かつ即時に敵への核攻撃を断行する」ためには、このエコノミスト誌の解説記事が指摘するように核兵器に関する権限の委譲が必要なように思われる。そしてそれは人間的、技術的エラーによる核戦争の開始の可能性も高めるだろう。

日本を取り巻く国際戦略環境は悪化するばかり

 金正恩は「核兵器政策の法制化により、(北朝鮮の)核保有国としての地位が不可逆的になった」と演説で述べた。松野博一官房長官は「北朝鮮の完全な非核化に向け、日米や日米韓で緊密に連携していく」と述べたが、完全な非核化は当面達成できない目標であると思われる。願望の表明は政策にはならないことを踏まえ、対北朝鮮政策を今一度日米韓3カ国でレビューする必要があるのではないか。

 特に北朝鮮の首脳を標的にする「kill chain」計画を声高に話すことにはあまりメリットがないと思われる。核兵器の使用については、米国は permissive action link というものを開発してきた。これは要するに大統領が特定の暗号を特定の器具に入力しないと米国の核兵器は起爆しないというものである。

 北朝鮮も類似の技術を開発し、持っていると思うが、その詳細は分からない。今度の法令についても、慎重に対応すべきであり、より詳細かつ正確な情報を日本として確保、分析し、対処の方針、政策を立てる必要がある。

 最近、特に本年(2022年)の北朝鮮のミサイル発射の頻度と、その性能向上の現実に鑑みると、核保有国としての北朝鮮の動向は、相当危険な方向にあり、日本を取り巻く国際戦略環境は、悪化するばかりであり、改善していない。日本政府の対北朝鮮政策の方針は、「核、ミサイル、拉致」問題の包括的解決であるが、北朝鮮からのミサイル発射の状況を見るだけでも、包括的解決が遠のいているように感じられる。

 日本政府が凍結させたイージス・アショアの代替案を、日本政府から米国に提案することも含め、日本自ら日米同盟を強化し、独自の防衛を強化する具体策を実行して行かなければ、現在の国際戦略状況が改善することは難しいだろう。』