中国「成長第一」限界に

中国「成長第一」限界に 数値目標示せず・GDP公表延期
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM182UN0Y2A011C2000000/

『【この記事のポイント】
・中国は経済成長の数値目標を示さず、GDP公表を延期
・「ゼロコロナ」政策が長引き、足元の景気はさえない
・これまで掲げてきた「成長第一」路線は限界に

【北京=川手伊織】中国の「成長第一」路線が限界にさしかかっている。景気回復がもたつくなか、政府は共産党大会の期間中に国内総生産(GDP)など経済統計の公表を取りやめた。習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)は16日の活動報告で成長の数値目標を示せなかった。民間企業への統制強化などで安定成長が揺らいでいる。

「さすがに異常な事態だ」。国家統計局が17日夕方に突如発表した7~9月の中国のGDP統計の公表延期に、中国の金融関係者も目を疑った。5年前の前回党大会では期間中に7~9月の統計を予定通り発表していた。

5年前と異なり、直近の景気はさえない。日本経済新聞社と日経QUICKニュースが調べた市場予測では、2022年7~9月の実質GDPは前年同期比3.2%増となった。1~9月では3%に届かず、通年では政府目標の「5.5%前後」を大きく下回る公算だ。

新型コロナウイルスの封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策と、不動産向け金融規制に端を発した住宅市場の低迷が主因だ。習氏の3期目入りに批判的な意見もあるなか、GDPの公表で「政策不況」との批判が広がることを警戒したとみられる。

唐突な公表延期は代償も大きい。みずほ証券の上野泰也氏は「中国は政治の都合を優先する国という印象が強まり、中国への投資意欲をそぐ」と指摘する。国際経済研究所の伊藤信悟氏も「市場経済が調整機能を果たすうえでも正確かつ定期的な統計の発表が必要だ」と語る。市場経済を重視する「改革開放」路線に幕が下ろされつつあるとみる外国企業や金融市場関係者もいる。

景気回復の妨げとなる規制は当面続きそうだ。ゼロコロナ政策をめぐり、習氏は16日「ウイルスまん延の防止と経済社会の発展を両立させた」と成果を強調した。活動報告には住宅バブルの抑制策を堅持する方針も明記した。

対照的に、習氏は経済成長に関する長期的な数値目標を盛り込まなかった。胡錦濤(フー・ジンタオ)前総書記は12年の党大会で「20年のGDPを10年比で2倍にする」との目標を掲げた。新型コロナもあり、習氏はこの目標を達成できなかった。

数値目標は達成したかどうかを厳しく問われ、政権批判につながりかねない。代わりに打ち出したのが「35年に1人当たりGDPを中程度の先進国並みにする」という曖昧な目標だ。3万ドル前後のイタリアやスペインが念頭にあるとされる。

中国の1人当たりGDPは21年時点で1万2551ドル(約187万円)だった。3万ドルまで引き上げるには年平均で6.4%増やす必要がある。15~21年の平均増加率は8%だった。国連の推計では中国の総人口は35年まで年0.1%のペースで減るため、名目経済成長率でみると年6%超の伸び率が目標となる。

2年半を超す「ゼロコロナ」政策は、感染が再拡大するたびに移動制限を強めてきた。サービス業などを中心に企業は先行き不透明感を拭えない。そのツケは、若年失業率の高止まりなど雇用回復の遅れという形で家計に及び、所得不安や節約志向を強めている。

中国人民銀行(中央銀行)の預金者向けアンケート調査によると、所得の見通しを示す指数は4~6月に過去最低を記録した。最新の7~9月も小幅な改善にとどまった。お金の使い道について「貯蓄に回すお金を増やす」との回答が58%を占め、比率は高止まりしている。

GDPに占める個人消費の比率は日米欧より低いが、それでも4割近くに達する。ゼロコロナ政策をきっかけに強まった不安が常態化すれば、中長期にわたって消費を下押ししかねない。

不動産規制も開発企業の資金繰り難などを通じて、マンション市場を混乱させた。値上がり期待が薄れており、住宅ローンの引き下げといった刺激策の効果も乏しい。地方財政や金融を含めた不動産依存型経済からの脱却は簡単ではない。

規制の後遺症が残るなか、安定成長を続けるには改革開放路線で民間企業の力を高めるのが筋だ。習氏は16日「引き続き改革開放を深化させていく」と語ったが、額面通りに受け止められるかは読めない。

野村総合研究所の木内登英氏は「IT(情報技術)や教育といった産業への統制強化も続き、経済の逆風が続く」とみる。改革開放からの転換は長期目標の実現への道も険しくする。

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