プーチン氏の「私兵」ワグネル、著しい士気低下

プーチン氏の「私兵」ワグネル、著しい士気低下 ロシア失速に伴い
https://news.yahoo.co.jp/articles/de161bf9635fc5106219bd5084ff32300bfbaf68

『ウクライナ・キーウ(CNN) 草むらにウクライナ人の遺体が並び、その横の地面には爆発でえぐられた穴が空いている。ロシアの傭兵(ようへい)に引きずられてきた遺体の腕は、死亡した場所の方を向いている。

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「遺体に手投げ弾を仕掛けよう」。しゃがれたロシア語でそう話す声が聞こえる。どうやら遺体にブービートラップを仕掛ける計画らしい。

「手投げ弾の必要はない。やつらが来たら叩(たた)きのめすだけだ」。別の声の主がそう話すのも聞こえる。遺体の回収に来るウクライナ兵のことを言っているのだ。その後、傭兵たちは弾薬が尽きていることに気付いた――。

CNNが独占入手したこうした戦場の映像や音声、ウクライナで戦うワグネルの兵士への取材、そして欧州で亡命を求めるワグネル元指揮官が率直に語った異例のインタビューを総合すると、ロシア随一の傭兵集団の現状についてこれまでにない見方が浮かび上がってくる。

ロシア正規軍の補給や士気の問題、戦争犯罪疑惑に関してはよく知られているが、同様の危機はプーチン大統領の非公式の突撃部隊と言われるワグネルの傭兵にも存在しており、ロシアのウクライナ戦争に不吉な影を投げかけている。
クレムリンの影で

ワグネルの部隊はここ数年、世界に悪名を轟(とどろ)かせてきた。だが、ウクライナでのプーチン氏の「特別軍事作戦」にほころびが生じ、徴兵を目的とした「部分的動員」の発表で20万人を超えるロシア人が隣国に逃げ出すなか、精鋭とされるワグネルにも亀裂が見え始めている。

2014年の創設以来、ワグネルの任務や国際的な存在感、評判は拡大してきた。専門家の間ではクレムリン(ロシア大統領府)公認の民間軍事会社との見方が多い。ワグネルの戦闘員は14年にロシアが侵攻したウクライナや中東シリアのほか、スーダンやリビア、モザンビーク、マリ、中央アフリカ共和国を含むアフリカ諸国でも活動している。

ワグネルはロシア国内で信頼できる貴重な戦力との評判を得ており、ロシアの世界的な国益を強化したり、アサド政権支援を目的としたシリア介入で既に逼迫(ひっぱく)しているロシアの軍事資源を補強したりする役割を果たしてきた。CNNが以前報じたように、ワグネルの派遣はスーダンの金からシリアの石油に至る収益性の高い資源の支配で鍵となることが多い。

求人動画で現代的な装備を誇示し、重兵器にヘリコプターまで擁するワグネルは、米国の特殊部隊に似た存在だ。

「もしロシアが傭兵集団を大規模投入していなかったら、ロシア軍がこれまでのような成功を収めることはできなかっただろう」。かつてシリアで傭兵95人を率いていたマラット・ガビドゥリン氏はCNNにそう語った。

ウクライナで戦う元同僚と連絡を取っているというガビドゥリン氏によると、クレムリンの戦争遂行に乱れが生じるなか、ロシアによる傭兵の活用は加速している。ウクライナのレズニコウ国防相によると、ワグネルの兵士は「特に難しく重要な任務」に投入され、南部マリウポリやヘルソンにおけるロシアの勝利で重要な役割を果たしたという。

CNNはロシア大統領府にコメントを求めたものの、返答はない。

ワグネルに関する公式情報は限られており、クレムリンがワグネルの存在や国家とのつながりを長年否定してきたことから、ワグネルの悪評や魅力はいや増してきた。一方で、情報不足はワグネルの実力や活動内容に関する分析を曇らせる結果にもつながった。

だが、動画に映るワグネルの傭兵たち自身の証言を見る限り、現実にはワグネルはロシアと同じく苦戦している。』

『経験不足

戦闘開始から7カ月あまりが経過する中、ウクライナにおけるロシア軍の戦いぶりには厳しい光が当たっている。ロシアの戦果は開戦当初のプーチン氏の野心的な目標に比べれば小さなものだが、払った犠牲は大きい。前線の部隊は壊滅し、兵力の多くや極めて重要な経験が失われた。

ワグネルの元指揮官であるガビドゥリン氏は2019年に組織を離れた後、在籍当時を振り返る回想録を出版した。同氏は傭兵とロシア正規軍を区別する要素の一つとして実戦経験、もう一つの要素として報酬を挙げる。

「これらの傭兵組織の中心には常に、何度も戦争をくぐり抜けてきた極めて経験豊富な人材がいた」と同氏は語る。

ガビドゥリン氏はソ連時代末期に空挺(くうてい)部隊の下級将校として従軍した後、ロシアによる2014年のウクライナ東部侵攻を機に軍隊生活に復帰した。ワグネルの中心人物の多くはガビドゥリン氏と同様、ウクライナやシリアで戦った経験をおそらく持ち、大半の正規兵にはない貴重な実戦経験を積んでいるとみられるという。

「彼らは正規軍よりも重みのある重要な経験を積んでいる。正規軍を構成するのは契約書に署名せざるを得なかった若い兵士たちであり、何の経験も持っていない」(ガビドゥリン氏)

ワグネルを始め、ウクライナに展開するこれらの準軍事組織がロシアにとって貴重な存在であるのはそのためだ。

ワグネルを監視するウクライナ国防情報機関の報道官によると、ウクライナでは現在、ワグネルとつながりのある傭兵少なくとも5000人がロシア軍と活動を共にしている。フランス情報機関の情報筋もこの数字を裏付け、ワグネルの戦闘員の一部はウクライナでの作戦を支援するためアフリカを離れたと指摘した。

ウクライナ国防省によると、ロシアは強襲部隊としてワグネルの戦闘員に頼る場面がますます増えているという。ワグネルの要員はロシアの公式の死者数には算入されず、存在すら否定される作戦に投入される。プーチン氏にとって国内で政治的に敏感な死傷者数の問題をワグネルが引き受けているのだ。

米国防当局の高官は9月、「ワグネルはウクライナで多大な損失を出している。特にやはり、若い経験不足の戦闘員の死者が多い」との見方を示した。

ガビドゥリン氏によると、ワグネルの部隊が活用される背景には、「米ドルでロシアの平和を買う」という単純な計算がある。

傭兵の月給は最大で5000ドル(約73万円)に上る。

ウクライナ国防当局高官の話や、ウクライナ当局が開戦以来ワグネルについて収集してきた情報によると、ウクライナの戦車や部隊を壊滅させたワグネルの戦闘員には全額米ドルのボーナスまで支払われているという。

英国防省によると、ワグネルの戦闘員はほぼ通常の部隊として前線の特定の区域に配置されることもあり、ウクライナで別個の限定的な作戦に従事していた以前の状況からは大きな変化が見られる。

ウクライナの当局者はまた、ワグネルがウクライナの前線の穴をふさぐ役割に使われる場面が増えていると指摘。米国防当局高官もこれを確認し、バフムート制圧を目指す攻勢に集中投入されているチェチェン人戦闘員などとは異なり、ワグネルは各地の前線に投入されていると付け加えた。

このため、兵たん面で大きな課題が生じている。ウクライナがロシアの兵たんへの攻撃を強化する中で、長期作戦に必要な弾薬や食料、支援をワグネルの戦闘員に供給しなければならない状況だという。

ウクライナ国防省がCNNに提供したワグネル戦闘員のボディーカメラのものとされる8月の映像には、傭兵たちが防護具やヘルメットの不足について不満を漏らす様子が映っている。別の動画では戦闘員の1人が、弾薬切れにもかかわらずウクライナの陣地への攻撃を命じられたと不満を語っている。』

『補充すべき戦力

戦場での損耗もワグネルの要員の減少に拍車を掛けている。対策として、ワグネルは異例の公開求人に乗り出した。

ロシアにはワグネルの新兵を募集する看板が出現。携帯電話の番号や迷彩服を来た戦闘員の写真が掲載されている。「オーケストラ『W』は君を待っている」とのスローガンは、ワグネルの過去の通称である「オーケストラ」に言及したものだ。

ワグネルによる採用活動の拡大は、過去の秘密主義からの転換と軌を一にしている。プーチン氏に近いエフゲニー・プリゴジン氏も9月下旬、ついにワグネルのトップであることを認めた。プリゴジン氏は長年ワグネルとの関係を否定して距離を置こうと試み、自身を調査するロシアメディアを相手取った訴訟まで起こしていた。

ワグネルの採用活動はSNSやインターネット上にも広がっている。採用担当者の1人はCNNに対し、月給は「少なくとも24万ルーブル(約56万円)」で、「出張」(配備を表す隠語)期間が少なくとも4カ月あると説明。採用担当者のメッセージの多くには、がんやC型肝炎、薬物中毒など、入隊の妨げとなる医学的条件が列挙されていた。

精鋭軍事組織とのイメージとは裏腹に、ワグネルの採用担当者の1人はCNN記者の取材に驚くべき事実を認めた。軍隊経験は不問なのだという。
刑務所での採用

9月には、ロシアの刑務所で受刑者をワグネルに勧誘しているとみられるプリゴジン氏の動画が浮上した。プリゴジン氏が提示した条件は、ウクライナでの6カ月間の戦闘との引き換えに恩赦を与えるというものだった。

一時はロシア有数のプロフェッショナルな部隊と考えられていたワグネルにとって、これは数カ月前には考えられなかった動きだ。

こうした募集方法について、ワグネルの元指揮官ガビドゥリン氏は「苦肉の策」と評する。

プリゴジン氏が刑務所で進めているとみられる採用活動は、受刑者を戦闘に動員しようとするロシアの幅広い取り組みとも重なる。受刑者に提示される月給は数千ドルで、死亡した場合には遺族に数万ドルが支払われる。

ワグネルの同僚にとっても、敵側のウクライナにとっても、これは懸念すべき状況だ。

ウクライナ検察のユーリ・ベロウソフ氏はCNNに対し、「(ワグネルは)誰でもいいからとにかく派遣する構えだ」「プロフェッショナルかどうかという基準はもう存在しない」と指摘した。

ロシアの戦争犯罪を捜査しているベロウソフ氏は、緩い採用基準が戦争犯罪の深刻化につながると懸念を示す。

刑務所からの直接採用は新しい試みだが、ガビドゥリン氏によると、犯罪歴自体は以前からワグネルへの採用の妨げになっていなかった。ガビドゥリン氏自身、殺人罪で3年間服役した経験がある。ワグネルの著名な指揮官の中には、服役後に世界各地で転戦した者もいるという。』

『内なる敵

ウクライナでのワグネルの苦境はより大きな問題を引き起こしている。組織内の不満だ。給与と仕事内容の魅力が売りの組織にとって、これは死活的な問題となる。

ウクライナの情報機関は8月、傍受した携帯電話の通信をもとに、ワグネルの兵士の「士気や心理状態の全般的な低下」を指摘した。ウクライナ国防情報当局の報道官が明らかにした。こうした傾向はロシア軍の中に広く見られるという。

ワグネルの採用条件が緩和されている点からも士気低下がうかがえるほか、「ワグネルでの戦闘に志願しようという真のプロフェッショナルな兵士」の数も減少している。

以前の同僚とほぼ毎日話しているというガビドゥリン氏によると、こうした士気低下の背景には「全般的な戦闘体制への不満、(ロシアの指導層が)適切な判断を下せていない、戦闘体制を整備できていないという不満」がある。

助言を求めてガビドゥリン氏に連絡してきた傭兵の1人は、指導部の無能さに耐えられなくなったと語り、「限界だ。もうあそこには行かない。もう参加しない」と訴えた。

ロシアがウクライナで勝利する見込みが薄れ、前向きな戦果を主張する望みさえ少なくなる中、ロシアの傭兵としての生活には以前ほどの魅力がなくなっているのが実情だ。

ウクライナ検察のベロウソフ氏は、「給料が仕事に見合わなくなったのかもしれない」と指摘した。

ウクライナの前線から相次ぎ届く動画の一つからは、ワグネルの戦争の陰惨な現実が如実に浮かび上がる。CNNに提供されたその映像は、ワグネルの作戦の様子を捉えたものとされる。

映像では、戦死したワグネルの傭兵が安らかと言ってもいい様子で横たわり、左手で黒い土を軽くつかんでいる。周囲の戦場には煙が立ちこめ、遺体や炎上した装甲車の残骸を覆っている。時折、煙を貫いて銃声が響く。

「すまない、兄弟。すまない」。死亡した兵士の同僚はそうつぶやき、激しい戦闘で上半身裸になった遺体の背を軽くたたいた。「ここから離脱しよう。もし彼らが撃ってきたら、今度は我々が彼の隣に倒れることになる」』