トラス政権、異例の「Uターン」減税撤回も続く退任圧力

トラス政権、異例の「Uターン」減税撤回も続く退任圧力
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR176NT0X11C22A0000000/

『英国のハント財務相は17日、トラス政権が打ち出した年450億ポンド(約7.5兆円)の「大規模減税策のほぼ全てを撤回する」と表明した。減税の財源が不透明だとして国債が売られるなど、金融市場混乱の原因となっていた。政権の肝煎り政策が1カ月たらずで撤回される異例の「Uターン」で、トラス首相の退任を求める圧力も強まっている。

ハント氏は動画による声明で「英国にとって今もっとも重要な目標は安定性だ」と述べた。財務省は同日、中期財政計画の一部を前倒しで公表することも発表した。

同日、議会下院で説明に臨んだハント氏は「政府は信頼を取り戻すために不可欠な困難な決断を下す」と述べた。質問に立った最大野党・労働党議員は「政府の決定によって危機が発生し、国民が代償を払うことになった」と厳しく批判した。

9月23日に発表された大規模減税策をめぐっては、財政悪化が意識されて市場に売りの連鎖が広がり、年金基金などの損失が膨らんでいた。トラス政権は9月に発足したばかりだが、今月14日には首相の右腕だったクワーテング財務相を解任、法人減税の撤回に追い込まれていた。

ハント氏によると、来年4月から所得税の基本税率を19%に引き下げるとしていた計画を見直し20%に据え置く。国民保険料の引き下げを中心に年150億ポンド程度とされる減税策は継続する方針だ。

大規模減税策とともに経済対策の柱となっていた半年で600億ポンドにのぼる家庭・企業向けエネルギー対策についても「来年4月までは継続するが、それ以降は見直す」とした。

大規模減税策の見直しを市場は好感し、英通貨ポンドや英国債が買われた。

17日のロンドン為替市場ではポンドが上昇し、一時1ポンド=1.14ドル台前半を付けた。14日には1ポンド=1.11ドル台まで下落していた。国債市場でも30年物の利回りが一時約4.3%と、14日の4.8%台から下落(価格は上昇)している。

イングランド銀行(中央銀行)は17日、一部の年金基金の破綻を避けるために実施した国債買い入れについて、予定通り14日に終えたと発表した。

トラス氏は続投への意欲を示しているが、挽回できるかは不透明だ。説明不足で市場から売りを浴び、政策をたびたび修正した末の撤回で、後手に回っている感は否めない。

14日の首相記者会見は説明を尽くす姿勢は示さず、8分ほどで打ち切った。こうした姿勢に保守党内外から批判が噴出し、「トラス降ろし」の動きも広がる。

「トラス氏がクリスマスまで首相でいる可能性は低い」。キャメロン政権で財務相を務めたオズボーン氏は16日のテレビ出演で、政権が短命で終わるとの見方を示した。英メディアによると、同日には議員3人がトラス氏に宛てた書簡で辞任を求めた。

保守党内の有力組織「1922年委員会」に下院議員の15%の要請が集まると首相に不信任を突きつけることができるが、党首選出から1年は実施できない決まりになっている。一部議員はこのルール変更を模索している。

トラス氏が早期に退任すれば保守党のダメージは大きい。新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)中の宴会など不祥事で辞任したジョンソン前首相に続いてトラス氏も辞任となれば、支持者離れで2010年以来続く政権与党の座は一段と揺らぐことになる。

英調査会社ユーガブの直近の世論調査では保守党の支持率は23%にとどまり、労働党の51%を大きく下回っている。

(ロンドン=佐竹実、大西康平)』