ウクライナが〝完全勝利〟できない戦争終結の難しさ

ウクライナが〝完全勝利〟できない戦争終結の難しさ
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/28193

『ジョンズホプキンス大学SAIS教授のブランズが、ワシントン・ポスト紙に9月14日付で掲載された論説‘Ukraine May Become More Successful Than Biden Wants’で、バイデンが望む以上にウクライナが勝利する場合バイデンはゼレンスキーの要求を抑えるかもしれない、ウクライナが自由世界のために闘っていることはウクライナが獲得して然るべき全てを手に入れることを意味しないと指摘している。主要点は次の通り。

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(1)米国とウクライナは敵を共有するが、ウクライナが勝利に近づけば近づく程、米国とウクライナの力や国益の相違が問題となりうる。

(2)ゼレンスキー政権は、クリミアを含め全てのウクライナ領土の解放、賠償、戦争犯罪者の訴追を目標とする。米国はこれらの目標の受け入れに躊躇しているかもしれない。

(3)米国は、ウクライナが戦線を拡大し過ぎるとコストの高い膠着状態に陥り、中国との衝突の危険が高まるなかで米国のリソース(資源)を費消することになることを懸念するかもしれない。プーチンが極端なエスカレーションに走り、戦術核の使用を考えている可能性さえある。敵を負かしたと見えても、戦争は急速に醜いことになり得る(朝鮮戦争での中国軍参戦の例)。

(4)バイデン政権は、ウクライナ戦争の目的が望ましいものかどうか、本当に不可欠なのかにつき検討しているに違いない。ウクライナが政治的に独立し、経済的に存立可能で国土防衛の力を持つこと、プーチンがこの侵略で得をしたと明白に言えないようにしておくことも不可欠だ。それは2月24日の線まで押し戻すことを意味する。しかしクリミアの奪還やプーチン等の訴追はそれには入らないかもしれない。ロシアとの和平取引でバイデンが賢明と考える線を越えてゼレンスキーが要求する場合それを抑えるかどうかが問題となる。

(5)米国の代理者が失望する事例は初めてではない(韓国の李承晩に朝鮮半島分断のままの終戦を受け入れさせた例、1990年ニカラグアのコントラに和平を受け入れさせた例)。
(6)今日ウクライナは自由世界のためにロシアと闘っている、しかし、それはウクライナが獲得して然るべき全てを手に入れることを必ずしも意味しない。

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 この論説は、ウクライナによる東部攻勢が大きな成功を収めていた9月中旬に書かれたものである。戦争終結の微妙さ、難しさを議論する、極めて興味深く、深刻な議論だ。

 戦争の終わり方はそういうものだろう。なおブランズは、ウクライナや台湾など大きな問題につきシャープな議論を提起している新進気鋭の学者(現実主義者)のようだ。昨年には中国ピーク論と台湾等の危険を指摘する本を出版、話題になっている。』

『大きな賭けに出ているプーチン

 しかし、ウクライナの事態は、9月21日の怒りに満ちた挑戦的なプーチン演説で一変する。

9月21日、プーチンは国民向けに演説をし、

①部分的な動員令に署名したことを明らかにし、
②占領地域でロシアへの編入の是非を問う住民投票を実施すると述べるとともに、
③「わが領土の一体性が脅威にさらされる場合」には「われわれが保持するすべての手段を利用する」と述べ核使用を示唆した。

 そして29日にはウクライナ南部のザポリージャ州とヘルソン州を独立国家として一方的に承認する大統領令に署名した(ドネツク州とルガンスク州は既に独立国家として一方的に承認済み)。プーチンは、これら2州を含むウクライナ東部・南部4州の「併合」に関する「条約」に調印した。

 10月4日には、ロシア議会上院が同「条約」を承認し、4州を正式に併合した。言葉が見つからない程あからさまな、国際規範に反する行為である。この独裁者の無謀さと攻撃性を国際社会は認めてはならない。

 これら4州で23~27日に実施された住民投票は、拙速で、短期間に親露勢力によって一方的に実施された茶番だ(87~99%が併合に賛成したと主張している)。核の恫喝も余りに無責任だ。なお、プーチンへの国内の反対は増大しているようであり、注目される。

 ウクライナの事態は目下プーチンが大きな賭けに出ている。

クリミアとロシア本土とを結ぶ橋が爆破されたことを口実に、10月10日にはキーウを含むウクライナ各地に大規模なミサイル攻撃を加えるなどしている。しかし、上記のブランズの議論が意味を失うことはない。

 ブランズは、戦争終結のジレンマ、難しさを端的に議論する。西側は、安定(力)と正義のジレンマに直面する。正義の視点を忘れることはできない。プーチンの横暴を考えると戦争犯罪の追及も重要なことである。』