【コラム】プーチン氏が核を使用する日、バイデン氏の選択は

【コラム】プーチン氏が核を使用する日、バイデン氏の選択は-クルス
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-09-22/RIK7M0T0AFB801?srnd=cojp-v2
『ロシアのプーチン大統領はウクライナに対する「特別軍事作戦」を続け「たくない」と言ったのと同様、核兵器も使い「たくない」と述べた。だが、戦争はまだ続いている。プーチン氏が勝てないからだ。これは同氏が核兵器を使う可能性があることも意味する。その場合どのような対応をとるのか、米国とその同盟国、プーチン氏に友好的とされる中国やその他の国も、決断を今下すことが必要だ。

  プーチン氏にとって、核戦争へのエスカレートは窮地から勝利をつかむ手段ではない。政治的な生き残りをつかみ取り、生存そのものを図る手段だろう。民主的なリーダーとは異なり、これだけの被害を引き起こしたプーチン氏が体裁良く引退する道は残されていない。同氏の終わりは混乱に満ちたものになり得ることを、自身が承知している。

それもあって、プーチン氏は西側アナリストの言う「エスカレーション抑止」というロシアの古いドクトリンを持ち出してきたのかもしれない。これは意図的に事態をエスカレートさせることで相手に妥協を迫る戦術で、つまり核兵器を使用しない通常戦力での戦争に負けることを防ぐため核に訴えるということだ。そうなれば、プーチン氏は一発かそれ以上の戦術核(戦略核ではない)を使うだろう。戦術核は一つの都市全体を消し去るには「小さ過ぎる」が、ある陣地にいるウクライナ軍を全滅させたり兵たん拠点を破壊したりするには十分だ。

  戦術核を一発落とせば、プーチン氏はさらに使う意思があるというシグナルを送ることになるだろう。狙いは、ウクライナの降伏と西側の関与排除だ。だが、米国の自動的な報復を招かずには済まない。プーチン氏の望みは敵を退かせ、勝利を宣言し、権力の座にとどまることだろう。

  こうした展開は、人類にとって広島と長崎以来の惨劇だ。核爆弾が落ちれば死者が出るばかりではなく膨大な数の罪のない人々が傷つき、生涯にわたる障害を負う。さらに全世界に永続的な脅威を引き起こす。

  核を使用してもプーチン氏に対し特段の対応がとられないようなら、核を保有する他のならず者国家はこれが前例になると思うだろう。またウクライナが1990年代にそうしたように、核不拡散の名の下に核兵器を手放した国々は、軍備増強を強いられる。軍縮は死語になる。意図的であれ偶発的であれ、東アジアを含めた世界各地で核戦争は頻繁に起こるようになる公算が大きい。

  では、バイデン米大統領はどのような対応をとるべきなのか。プーチン氏を抑止しなければならないのは明らかだが、同氏が事態をエスカレートさせる場合にも同時に備える必要がある。

  シンクタンク、大西洋評議会のマシュー・クレーニヒ氏は選択肢のいくつかを要約している。対応の一つは、ロシアの限定的な核攻撃に対して西側が既にロシアに科している全ての措置を2倍、3倍、4倍に強化し、ロシアを西側世界から完全に切り離すことだ。西側はウクライナへの兵器支援を加速するとともに、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の東部国境に核兵器を含め軍備を増強する。

  このような意図的に抑えられた対応は、エスカレーションのスパイラルを止める狙いがある。問題は、プーチン氏に抑制を促すほど強力な対応ではないかもしれないということだ。プーチン氏は既に国際的に孤立し、ロシア国民は制裁の痛みを味わっている。自らの体制の終わり、または死を恐れているのであれば、プーチン氏は引き続き全てを賭けるだろう。

  もう一つの問題は、抑制した対応ではウクライナを含む世界の大半の国々にとっては情けないほど不十分に映るということだ。北朝鮮の金正恩氏ら独裁者は、核兵器を使用して生き残りを図ることは可能だと結論づけるだろう。

  従って、バイデン氏の対応はより強力でなくてはならない。軍事的な選択肢は2つだ。一つは北極海やシベリアの辺境などで、見せしめのため小型の戦術核をロシアに対して同様に使用する。そこで発生するきのこ雲は、プーチン氏に対する「止まれ」のシグナルになることが期待される。ウクライナと世界に対し、米国はエスカレートには相応の報復をすると安心させることにもなる。

  だが、これは世界滅亡に至るような核の応酬へと発展しかねない。ロシアは戦略核で米国とほぼ互角、戦術核では米国の約10倍多い弾頭を保有する。こうしたシナリオでは、特に人的ミスが発生する可能性を考慮すると、不測の事態が起こり得る。人類が滅亡するリスクもあるだろう。

  このため通常戦力によるロシア軍への攻撃という選択肢の方が賢明かもしれない。核ミサイルを発射した基地、あるいはウクライナのロシア軍が標的になる可能性がある。

  これでウクライナと世界に対して、核不使用の原則を破れば報復があると示すことができる。西側は介入する、「エスカレーション抑止」は効果がないとのメッセージをプーチン氏に送ることにもなる。

  この選択肢の欠点は明らかに、ロシアとNATOの直接対決へと至り、第3次世界大戦勃発のリスクを冒すことだ。行き着く先は人類滅亡という可能性も依然ある。プーチン氏は米国が核で報復する用意はないと判断し、さらに核を使用する恐れもある。

  別の可能性もある。プーチン氏は核を使用したいとは考えていないが、自身の生き残りが脅かされていると感じる場合には使う。米国は核戦争へとエスカレートすればプーチン氏とその側近らを排除する体制転換を計画する。その場合、最善なのは曖昧にではなく具体的に、公にではなく秘密裏にプーチン氏に伝えることだろう。

  この暗い時代に一筋の光明があるとすれば、それはウズベキスタンで先週見られた。非同盟のインド、そして通常はプーチン氏の側に立つ中国がいずれもプーチン氏に対し、戦争への「懸念」を表明したのだ。両国は核保有国でもある。

  米中間にどのような憎しみがあっても、他にどのような対立があるとしても、核戦争の脅威に対して世界は団結しなければならず、それは可能だろう。バイデン、習両氏と他の世界の指導者は互いの相違を慎重に脇に置き、プーチン氏に核兵器を使用すれば確実に締め出すとのメッセージを伝えることができるはずだ。

(アンドレアス・クルス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ハンデルスブラット・グローバルの元編集長で著書に「Hannibal and Me(原題)」があります。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:

A Decision Tree for Biden If Putin Goes Nuclear: Andreas Kluth(抜粋)

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