中国共産党大会直前に異変、次期外相候補に「大穴」が急浮上

中国共産党大会直前に異変、次期外相候補に「大穴」が急浮上
東アジア「深層取材ノート」(第159回)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72276

 ※ 『劉結一氏』、けっこうなキーパーソンのようだ…。

 ※ 注目しておこう…。

『中国共産党第20次(回)全国代表大会が、10月16日から北京の人民大会堂で始まった。初日は習近平総書記が大演説をぶったが、これから22日まで、一週間にわたって続く。今後5年間を牽引する新たな最高幹部の人事が発表されるのは、23日の予定だ。

 その中で、日本として気になることの一つが、次期外交部長(外相)の人事である。現在の王毅氏は、2013年3月以来、9年7カ月にわたって外交部長を務めており、来年3月の任期切れとともに交代が確実視されている。今回の大会で次期外交部長が指名されることはなく、来年3月まで待たねばならないが、それでも「大枠」は見えてくる。
誰が王毅外相の後任になるのか

 2013年3月に習近平政権が誕生して9年半あまり、外交部門は、楊潔篪-王毅ラインで進めてきた。

 2013年3月、楊氏は外交部長(外相)から国務委員兼中央外事工作領導小組弁公室主任に昇格した。要は、中国の外交トップだ。そして2018年3月、党中央政治局委員(トップ25)兼中央外事工作委員会弁公室主任に昇格して、現在に至っている。

 一方の王毅氏は、上述のように2013年3月に、楊氏の後を継いで外交部長に昇格。2018年3月には、習近平主席の信任が厚いことから、異例の外交部長兼任で、国務委員に昇格し、現在に至っている。

 現在72歳の楊氏は、今回の共産党大会をもって、事実上の引退が見込まれている。そうなると、次なる焦点は、今月69歳になる王氏が昇格するかどうかと、王氏を継ぐ外交部長は誰かということだ。
中国外交部門のトップ、楊潔篪・党中央政治局委員(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)』

『さらなる「出世」が見込まれる王毅外相

 まず王毅国務委員兼外交部長に関しては、外交部の「ジャパンスクール」(日本専門組)に属し、これまで日本を始めとするアジアを担当し、駐日本大使も務めてきた。そのため、「アメリカを知らない」「英語ができない」という弱点を抱えていた。外交部内の最大のライバルで元駐米大使の楊潔篪氏の後塵を拝したのは、主にそのためだった。

 ところが習近平時代に入ると、ロシアのウラジーミル・プーチン政権への重視が鮮明になった。それまでの江沢民時代や胡錦濤時代の時のように、対米外交が絶対的ではなくなったのだ。

 加えて2018年から、ドナルド・トランプ政権との間で米中新冷戦と呼ばれる時代に突入すると、「どのみち対立するのだから」ということで、ますます対米外交が絶対的でなくなった。それどころか、「アメリカを知らない」ことは、「アメリカのスパイでない」とも言えるわけで、むしろ勲章になった。

 かくして、王毅国務委員兼外交部長の昇進を阻む「アメリカ」というハードルはなくなった。かつ王氏には有利な点もある。習近平主席と同い年の同じ北京人だということ、ともに文化大革命で7年前後の「下放」(貧困地域での労働)の辛酸を舐めていること、王氏がこの9年半あまり習主席に絶対忠誠を誓ってきたことなどだ。

 こうしたことから、王氏が今回、現在の楊氏のポストである党中央政治局委員(トップ25)兼中央外事工作委員会弁公室主任に昇格するのはむろん、さらに一段上の副首相にも昇格するのではとの声が、北京で上がっている。』

『これには前例があって、江沢民時代の1993年に、銭其琛氏が副首相兼外交部長となり、1998年から2003年までは副首相を務めている。上海を地盤とした江氏は、上海人の銭氏を重用したのだ。
本命候補の失脚

 次に、2023年3月に新たに外交部長に就く人物だが、長く本命と言われていたのは、楽玉成副部長(59歳)だった。
長く次期外相候補の筆頭とされていた楽玉成・国家広播電視総局副局長(写真:AP/アフロ)
ギャラリーページへ

 実は私は、以前に2日間、楽玉成氏の日本語通訳を務めたことがある。中国外交部の知人の中では、他に例を見ない豪放磊落な傑物で、こんな男が将来、外交部長になれば、中国外交は大きく飛躍するだろうと想像したものだ。

 ところが楽副部長は、今年6月に突然、国家広播電視総局副局長というメディアを統括するポストに「左遷」されてしまった。

 外交部内で、一体何が起こったのか? 聞こえてくるのは、王毅氏の楽氏に対する「嫉妬」(しっと)である。

 楽副部長は「ロシアンスクール」(ロシア専門組)で、習近平主席が最も重視する対ロシア外交を掌握していた。そのため、もしも楽氏が外交部長に昇格すれば、いくら王毅氏が上司であっても、楽氏の方が活躍することが見込まれる。そこで、王毅氏は「最高の能力を持つ部下」をパージしてしまったのである。』

『逆に言えば、こんな大胆な人事が断行できること自体、王毅氏の権力が相当強力になっていることを意味している。そうでなければ、習近平主席が止めるはずだ。つまり習主席は、王氏の意向を汲んで、「楽を捨てる」ことに同意したのだ。
実質的に3人に絞られた候補

 こうして「本命」が消えた後、誰が候補に浮上するのか? ヒントは、7月27日に表れた。この日、中国共産党第20次全国代表大会の機関代表293人が発表されたのだ。

 これは、いま行われている大会の代表2296人のうち、中央官庁から選ばれた幹部たちだ。つまり、この機関代表の中から次期部長(大臣)が選ばれる可能性が大ということだ。

 外交部関係者からは、6人が選ばれた。楊潔篪、王毅の両氏は当然として、あとの4人は、馬朝旭副部長(59歳)、秦剛駐米大使(56歳)、華春瑩部長助理(52歳)、劉結一国務院台湾弁公室主任(64歳)である。

 このうち華部長助理は、外交部の報道官を長く務めたため、日本では「戦狼外交官」として、つとに有名だ。だが、外国へ出て大使を一度も経験していないので、「二つの重要ポスト経験者」という外交部長の条件に当てはまらない。

中国外交部の報道局長、華春瑩・部長助理(写真:AP/アフロ)』

『私はこの時点で、駐米大使の秦剛氏が「本命」、駐国連大使や駐オーストラリア大使などを歴任した馬朝旭氏が「対抗」と見た。そして、駐国連大使を経ているが、外交部を外れて台湾弁公室に「出向中」の年取った劉結一氏が「大穴」である。

 ところが今回の大会で、再び「異変」が起こった。上述のように、この大会の代表として選ばれたのは、計2296人。その中から事前に、243人の主席団が選ばれた。いわば党大会の牽引役だ。この主席団は、大会日程などを決議するため、大会開幕前日の15日午後、人民大会堂で第一次会議を開いた。
ここでも見せつけられた王毅パワー

 同日夜7時のCCTV(中国中央電視台)のメインニュース『新聞聯播』は、この会議が開かれたことと同時に、主席団常務委員会のメンバー46人と、主席団のメンバー243人のメンバーを発表した。一人ひとりの名前を、わざわざアナウンサーが時間をかけて読み上げたのだ。

 なぜそんな大仰なことをやるかと言えば、今後5年間の中国を、彼らが牽引していくからに他ならない。

 私は243人の名前をじっと聞いていたが、外交部関係の機関代表6人のうち、メンバーに入っていたのは、3人だけだった。すなわち、楊潔篪、王毅の両氏と、劉結一氏である。
劉結一・国務院台湾事務弁公室主任(写真:AP/アフロ)
ギャラリーページへ

 上記の3人の候補のうち、劉氏だけがなぜ選ばれたのか。すでに共産党の中央委員だからというのは、理由の一つだろう。

 だが、「大穴」と見られていた劉氏が、ここへ来て急浮上していると見ることもできるのではないか。実際、現在の外交部長の王毅氏も、前職はいまの劉氏のポストである台湾弁公室主任だった。

 もう一つ、王毅氏が自分の後任に劉氏を据えたい理由がある。実は劉氏の夫人・章啓月氏も外交官で、駐ベルギー大使、駐インドネシア大使、駐ギリシャ大使などを歴任した。
『台湾vs中国 謀略の100年史』(近藤大介著、ビジネス社)
ギャラリーページへ

 そして、章啓月氏の父親の章曙氏は、中国外交部の大物なのだ。1985年から1988年まで、駐日大使も務めている。

 王毅氏は、そんな章曙氏によって見出され、異例の出世を後押ししてもらったのだ。つまり王氏は、劉結一一家に、「大きな借り」があるというわけだ。

 もしも10月23日に発表される新たな中央委員のメンバーに劉結一氏の名前があり、秦剛氏と馬朝旭氏の名前がなければ、劉氏が「大本命」に浮上したと見てよいだろう。それにしても、「王毅パワー」恐るべしである。』