中国には「大きなうそがある」 検閲システム元開発者の告白

中国には「大きなうそがある」 検閲システム元開発者の告白
https://news.yahoo.co.jp/articles/00aa15d20cd284e93fb3b829abbf2ce4acd33e1d

『【AFP=時事】米カリフォルニア州シリコンバレー(Silicon Valley)在住のチェン・ジャジュンさん(29)は中国の地方都市で暮らしていた10代の頃、インターネットの知識を駆使し、国内で発禁処分を受けたドキュメンタリー作品を見た。この作品は、民主化運動が武力で弾圧された天安門(Tiananmen)事件がテーマだった。

【写真】カリフォルニア州で写真撮影に応じるチェンさん

 それから10年後。チェンさんは、中国のサイバースペースを取り締まる政府の検閲マシンの一部となり、中国共産党が国民から隠したがる事柄の拡散阻止を担うようになっていた。

「働き始めた当初は仕事は仕事と捉えて、深く考えてはいませんでした」と話す。

「でも心の奥底では、自分の倫理観に反しているのは分かっていました。それに、こういう仕事をずっと続けていると(中略)葛藤がどんどん強くなってくるんです」

 チェンさんのように、中国のプロパガンダ機関で働いていた経験を公表する人は極めて少ない。

■天安門事件のドキュメンタリーに衝撃

 チェンさんは1993年、広東(Guangdong)省南部で生まれた。パソコンに初めて触ったのは小学生の頃、父親が自宅に一台のパソコンを持ち帰った時だった。

 インターネットを通じて「全く新しい世界が広がっている気がしました」と当時を振り返る。

 中国政府の初期のネット検閲は徹底しておらず、仮想プライベートネットワーク(VPN)を使えば、表立って話題に上ることのないテーマや情報にもアクセスできた。

 そうした禁断の果実の中に、1989年6月に天安門広場で起きた学生たちの抗議運動を題材にした約3時間のドキュメンタリー映画『天安門(The Gate of Heavenly Peace)』があった。

 チェンさんが目にしたのは衝撃的な弾圧だった。

「極めて大きな意味を持つ歴史的な出来事なのに、私たちは誰からも教わっていませんでした。中国のインターネットでは検索することもできません。(天安門事件に関する)コンテンツはすべて削除されているのです」』

『「とても大きなうそがあるように思いました。さまざまな歴史が隠蔽(いんぺい)されていると」
■ティックトックの運営会社に就職

 チェンさんは、同世代の優秀な中国人の例にもれず留学し、エストニアで経営学の学位を取得して帰国。ITの知識を買われ、動画投稿アプリ「ティックトック(TikTok)」や同アプリの中国版「抖音(Douyin)」を運営している中国のIT大手バイトダンス(ByteDance、字節跳動)に職を得た。

「最初はわくわくしました」とチェンさん。「バイトダンスは、国外で事業を成功させている中国唯一の企業ですから」

 知的好奇心を刺激される仕事で、月給も北京の平均を大幅に上回る4000ドル(約59万円)だった。

■検閲システムの開発に従事

 チェンさんは、バイトダンスが不適切と考えるコンテンツを自動的にフィルターにかけて削除するシステムの開発チームに所属していた。

 人工知能(AI)で画像や音声、書き込みをチェックし、規制対象となっている表現を削除する仕組みで、システムで問題が検出されると、大勢いるオペレーターの一人が確認し、問題の動画を削除するかライブ配信を停止するようになっていたとチェンさんは説明した。

 対象となるコンテンツの大半は、どのソーシャルメディア企業でも不適切とみなされるような内容で、自傷行為やポルノ、無許可の広告などだったが、中には政治的にデリケートなものもあった。

 チェンさんは、常に規制対象となっていたのは、戦車や黄色い傘、ろうそくなど、香港の民主化運動を象徴する画像、あるいは習近平(Xi Jinping)国家主席や中国共産党の指導部を批判する内容だと説明した。

 チェンさんによれば、バイトダンスは中国のサイバースペース管理局から指導を受けていたが、あえて明確には示されていない規則を破らないように慎重を期し、自主規制していた。

「中国では、境界線が曖昧なんです。何が政府の怒りを買うかはっきり分からないので、こちらから厳しめに検閲することもあります」とチェンさん。バイトダンスには「石橋をたたいて渡っているようなところがあった」と評した。』

『■新型コロナと武漢の医師の死

 2020年初め、武漢(Wuhan)市で新型コロナウイルスの流行についてソーシャルメディアで早期に警鐘を鳴らした医師がいた。李文亮(Li Wenliang)氏だ。だが、李医師は「デマ」を流布したとして当局に処分された。

「李文亮博士が投稿した情報は検閲され、テレビのプロパガンディストたちは、この医師が誤った情報を流していると騒ぎ立てました」とチェンさん。

 しかし、李医師自身が新型ウイルスに感染して死去すると、中国のネットユーザーの間に怒りが広がった。

「誰もがツイッター(Twitter)や微博(ウェイボー、Weibo)で最新ニュースをチェック」しながら、うわさと当局の否定の間で真実を追い求めていたとチェンさんは説明した。

「多くのツイートや微博の投稿が削除」され、チェンさんも「『私たちが求めているのはニュースの自由。検閲はもう要らない』と投稿したところ、微博アカウントを凍結されました」と言う。

「その時に思ったのです。私も、この検閲機構の一部だったんだと」

「李医師が亡くなった夜、もうこれ以上やっていけないと思いました」と続けた。

 チェンさんは仕事をやめ、米ノースイースタン大学(Northeastern University)シリコンバレー校の大学院課程に入学を申し込んだ。

■勇気ある理想主義者

 チェンさんはカリフォルニアにいれば安全だと感じているが、中国にいる両親からは発言に気を付けるように言われている。「でも、この問題に関しては親の言うことを聞くつもりはありません」

「少なくとも10年は中国には帰れないと思っています」

 だが、検閲との闘いは「民衆の闘い」であり、代償を払う価値はあるとチェンさんは言う。

「私たちは、中国で何が起きているのか、認識を高めるべきなのです」

 習主席の3期目続投は確実視され、チェンさんの心は重い。

「短期的に見れば、誰もが悲観しています。でも、中国の未来を長い目で見れば、みんな楽観しているのではないでしょうか」

「歴史を振り返ると、いざというときに改革を起こす勇気ある理想主義者が必ずいます」 【翻訳編集】 AFPBB News 』