「我々は米国の裏庭ではない」 中南米に左派政権相次ぐ

「我々は米国の裏庭ではない」 中南米に左派政権相次ぐ
きしむ世界、揺れる新興国(1)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN04DVZ0U2A001C2000000/

『中米エルサルバドルの首都サンサルバドル。中心地の国立宮殿のすぐそばに「中国援助」と書かれた壁で囲まれた建設現場がある。

旅行会社で働くフェルナンド・エルナンデスが「完成が楽しみ」と指さす看板には、近代的なデザインの建物が描かれている。中国政府が2019年に資金支援を決めた国立図書館の完成予想図だ。

中南米は「米国の裏庭」と呼ばれ、米国の影響を強く受けてきた。だが世界に踏み出した中国の影響は中南米にも確実に広がる。「我々は誰の裏庭でも前庭でもない」。エルサルバドル大統領のナジブ・ブケレは米国を挑発する。

中米エルサルバドルのブケレ大統領は米国を挑発し中国に近づく=ロイター

中南米では米国と距離を置く左派政権の発足が相次ぐ。メキシコ大統領のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドールは6月、バイデン米政権がロサンゼルスで主催した米州首脳会議への出席を拒否した。8カ国の首脳が会議をボイコットし、米国のメンツは丸つぶれとなった。

米国がインフレ退治を目的に急ピッチで利上げを続ける結果、新興国の現地通貨は対ドルで大幅に下落した。米国が自国の物価安定を優先し、世界にインフレを「輸出」する構図だ。物価高で市民の不満が高まり、新興国は不満の目をそらそうと米国に責任を向ける。
30日に決選投票を迎える中南米最大国ブラジルの大統領選でも、左派の元大統領、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバの当選が有力視される。ルラは米国と距離を置き、中国やインドなどほかの新興国との枠組み強化を掲げる。

中南米諸国が米国に背を向ける一方、アジアでは過度な対中依存からの揺り戻しが始まっている。アジア各国が中国の広域経済圏構想「一帯一路」の負の側面を認識したためだ。
中国からの投資を成長のけん引役としたスリランカ。債務返済に行き詰まり、17年に南部ハンバントタ港の99年間の運営権を中国に引き渡した。援助と引き換えに権益を失う「債務のワナ」の典型例といわれる。5月にデフォルト(債務不履行)に陥り国内で混乱が広がったうえ、8月には中国の「スパイ船」とみられる調査船の入港許可を余儀なくされた。

「米国の存在なしにフィリピンの将来は見えない」。9月、フィリピン大統領のフェルディナンド・マルコスはニューヨーク証券取引所で演説し、米国との関係強化を宣言した。
中国との融和姿勢を貫き、米国と距離をとったドゥテルテ前政権の外交方針を大きく修正。14日までの2週間、中国と領有権を争う南シナ海沿いで、米国との合同軍事演習を実施した。米軍が駐留できるフィリピン国内の基地を増やす検討に入り、中国の海洋進出に厳しい姿勢を鮮明にする。

大国が覇を競う「グレートゲーム」の舞台となってきた中央アジア。「一帯一路」の主要ルートとして中国が近年に影響力を広げてきたこの地域でも、対中依存の見直しが進む。
タジキスタンの外相、シロジッディン・ムフリディンは9月末に米国を訪問し、米国務長官のアントニー・ブリンケンと会談した。経済や安全保障を含めて「あらゆる分野で米国と緊密に協力していきたい」と語りかけた。

タジクは中国マネーへの過度な依存から、金鉱山の権益譲渡を迫られた。隣接するアフガニスタンからのテロリスト流入を防ぐためにも、米国との協力に目が向かう。

米ボストン大学の集計では、28年までに返済期限を迎える新興国55カ国の債務残高は4358億ドル(約65兆円)に上る。ドル高で新興国の外貨建て債務の負担は膨らむ一方だ。

24年には返済総額が689億ドルとピークを迎え、デフォルトが増える懸念がある。米中からの財政支援もにらみ、どちらの陣営につくか。新興各国の瀬戸際の選択が山場を迎えつつある。(敬称略)

   ◇

米中の覇権争いや終わりの見えないインフレ――。きしむ世界情勢の影響を受けやすいのが、脆弱な立場の新興国だ。進む道を誤れば、経済や安全保障上の危機に直結する。新興国の今に迫る。

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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分析・考察

アジアにおいては中国と距離を置く動きがあり、中南米においては米国と距離を置く動きという構図が指摘されていますが、実際には複雑です。例えば、6月に米国が左派政権のキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを米州首脳会議から排除したことに反発して、メキシコのオブラドール大統領は出席を見送る決定をしましたが、彼は翌月にはホワイトハウスでバイデン大統領と会談して二国間の関係強化を訴えてます。東南アジアは中国、米国、どちらかの影響力が強くなりすぎないように、かつ自国の利益を確保できるように、各国が微妙なバランス感覚で動いています。どの国もしたたかです。
2022年10月17日 7:54』