[FT]中央アジアでも強まる同盟国の「ロシア離れ」

[FT]中央アジアでも強まる同盟国の「ロシア離れ」
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『カザフスタンのトカエフ大統領は徴兵を恐れるロシア人の「絶望的な」窮状に理解を示し、国境に逃れてきた20万人以上の避難民を迎え入れた。

カザフスタンのトカエフ大統領はロシアのウクライナ侵攻を支持せず、親ロ派支配地域の併合も認めていない=ロイター

ロシアのプーチン大統領による部分動員令発令を機に出国者が急増したのを受け、トカエフ氏は9月末、「彼らを支援し、安全を確保しなければならない。これは政治的かつ人道的問題だ」と述べた。

ロシア人避難民に対する手厚い歓迎ぶりはロシア政府に新たな現実を突き付けている。旧ソ連構成国だった中央アジアとコーカサスの国々がウクライナに侵攻したロシアと距離を置こうとしているのだ。

カザフスタンは伝統的にロシアと強力な同盟関係を築いてきた。トカエフ氏は10月7日、プーチン氏の70歳の誕生日パーティーに出席し、13日には首都アスタナで開いたアジア協力信頼醸成措置会議(CICA)でプーチン氏を歓待した。一方、ウクライナ侵攻は支持せず、親ロ派支配地域の併合も認めなかった。

慎重に関係を薄める

米カーネギー国際平和財団のテムール・ウマロフ研究員は、カザフスタンなどの国々にとってウクライナ戦争はロシアへの依存を「徐々に減らしていく」契機になったと指摘する。

アスタナの政府高官や西側外交官、ビジネスリーダーらはカザフによる「対ロ姿勢の修正」について、ロシアに真っ向から反発するのではなく、慎重に関係を薄めようとしていると見る。内陸国カザフとしては国境を接する大国ロシアと良好な関係を維持する以外に選択肢がないからだ。カザフにロシアと西側のどちらを取るか迫るのは「非常に弊害が大きい」うえ、「紛争につながる可能性さえある」とある高官は述べた。

同高官は奇想天外な方法で底なし沼から脱出した「ほら吹き男爵の冒険」の架空の主人公を引き合いに、「私たちはミュンヒハウゼン男爵ではないのだから、自分の髪を引っ張ってこの地域から出て行くことなどできない」と話した。

トカエフ氏は自国の安定性と安全保障を売り物に外国投資を増やそうと外交攻勢に乗り出している。8月には北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコと機密情報共有協定を結んだ。

カーネギー財団のウマロフ氏はカザフスタンが戦争前にこの協定に署名していれば「ロシアはショックを受けただろう」と語る。「だが、もはやロシアにはカザフを止めるすべがない」

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は9月にカザフスタンを訪問し、カザフの「領土保全」を支援すると約束した。ウクライナ侵攻がロシア系住民の「保護」を口実に始まった経緯から、多くのロシア系住民を抱えるこの地域の国々はその再現を危惧する。

薄れるロシアの存在感

9月14日、カザフスタンを訪れた中国の習近平国家主席(左)に最高勲章を授与するトカエフ大統領。習氏はカザフの領土保全を支援すると約束した=ロイター

ロシアに忠実なベラルーシを除き、旧ソ連地域では警察官や陰の実力者としてのロシアの存在感が薄れつつあるようだ。NATOに対抗してロシアが設立した6カ国の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」もここにきて亀裂が生じている。

1月にはトカエフ氏が「クーデター未遂」と主張する大規模抗議デモの制圧を支援するため、CSTO部隊がカザフスタンに派遣されたが、そのひと月後、ロシアがウクライナに侵攻して状況が一変した。

CSTO加盟国のアルメニアが9月、アゼルバイジャンと軍事衝突した際にはCSTOに支援を要請したものの部隊派遣は見送られた。ロシアに代わってフランスと欧州連合(EU)が停戦交渉を仲介した。

CSTO内ではキルギスとタジキスタンも国境で武力衝突している。キルギスは先週、ロシアとタジキスタンも参加予定だった合同軍事演習「不可分の同胞」の受け入れを拒否し、演習が中止に追い込まれた。

キルギスのジャパロフ大統領はプーチン氏の誕生日集会に出席せず、9月には別の集会に遅刻しプーチン氏に待ちぼうけを食わせた。これは他国の要人に対するプーチン氏の常とう手段だ。

カザフスタンは10月、ロシア人殺害を巡る発言をしたウクライナ大使の追放を迫るロシアの要求を退け、自らの主張を押し通した。

カザフのある政府高官は、ロシア側の言い分が「対等な戦略的パートナー」間で用いるべき内容ではなかったと指摘した。

経済関係の多様化模索

12日、カザフの首都アスタナでトルコのエルドアン大統領(左)と卓球に興じるトカエフ大統領。両国は8月に機密情報共有協定を結んだ=ロイター

ロシアが孤立するなかで、各国は経済関係の多様化に動いている。カザフスタンの複数の当局者によると、原油の大半をロシア経由のパイプラインで輸出しているカザフは代替ルートの確立を急ぎ始めた。

7月にはロシアの地方裁判所が同国経由のパイプラインの書類手続きに不備があるとして、操業の一時停止を命じた。問題はすぐに解決したが、この一件でロシアに依存するリスクが露呈した。

カザフスタン戦略研究所のイェルキン・トゥクモフ所長は「経済の多様化はどの国にもマイナスにはならない」と指摘する。カザフスタンの場合も力強い経済成長の実現には多くの相手国が必要で、それが国内政情不安の抑止にもつながるという。

「(この地域の)すべての国がカザフスタンの安定を求めている。ただ、1月の大規模抗議デモを誘発した社会的要因は解消されていない」とトゥクモフ氏はクーデター疑惑がデモを引き起こした点に言及した。

一方、対ロシア制裁の抜け道には決してならないと言明したカザフスタンのように、ロシアと政治的距離を置くほうがビジネスには追い風になるとみる向きもある。

西側のある高官は「カザフスタンが民間投資、特に外国直接投資の誘致を続けるには、ロシアと同一視されないことが極めて重要だ」と語った。「だからこそ彼らは戦争が始まってからロシアをあえて遠ざけようとしてきた」

カザフ政府は選挙の競争率を高め、大統領の任期を制限し、汚職を減らすための改革を進めている。また、長年わたり政界に君臨したナザルバエフ前大統領の支持者が改革を阻止しようと1月の抗議デモを企てた可能性も指摘されるなかで、前大統領の一族を中心に既得権者の経済支配を弱める施策も講じつつある。

カザフの当局者は暴動を鎮圧するために部隊を派遣したロシアに借りがあるとの見方に反発する。ロシアは自国の利益のために行動したのであり、近隣諸国の抗議運動の映像が自国民の不安をかき立てることを恐れたと見るアナリストもいる。

ロシアがウクライナへの攻撃で消耗しているいま、カザフスタンなどの地域諸国は、好戦的な隣国を怒らせないよう引き続き注意しながらも、独自路線に傾きつつある。

カザフスタンの政策に詳しい政治アナリストは「ロシアとの協力は続けていくが、カザフ側の交渉の立場は強まるだろう」と語った。「ゲームのルールは変わった」

By Polina Ivanova

(2022年10月13日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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