英国の混乱、日本に教訓 財制審で異例の他国政策討議

英国の混乱、日本に教訓 財制審で異例の他国政策討議
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『英国のトラス政権の経済対策に端を発した市場の混乱が収まらない。やみくもな大規模減税は財政と経済成長を損ないかねないと市場は警鐘を鳴らした。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が13日の分科会で英国の状況を議論するなど日本の当局も異例の関心を寄せる。大規模の財政出動が慢性化する日本にとって対岸の火事ではない。

「経済対策を撤回するつもりはないのか」。12日、英議会での党首討論。野党労働党のスターマー党首はトラス首相を激しく追及した。トラス氏が「正しく財政資金を使うことで経済成長する」と応じ、見直さない考えを示すと、やじが飛び交い騒然となった。

英政府は9月23日、年450億?(約7.4兆円)の大減税や半年で600億?の家庭・企業向けエネルギー対策を柱とする経済対策を発表。対策の資金は当面借り入れに頼るとし、国債発行計画を大幅に上積みした。

インフレが進む金利上昇局面での財政悪化を政府が制御できなくなり、経済成長の土台も崩壊しかねない。そう見た市場は債券・通貨・株の「トリプル安」で反応した。その後、英政府は高所得者向けの減税を撤回した。ただ、経済対策の大部分は維持されているため市場の警戒は続く。

日本の財政当局も動向を注視している。13日の財制審では急きょ、英国に関する資料を追加。市場や国際機関の反応などを細かく記載した。他国の状況について討議するのは異例だ。財務省幹部は「先進国でも、ふとしたことがきっかけで財政への市場の信認が損なわれれば、通貨や国民経済に大きな影響が出うることを示した」と話す。

終了後に記者会見した増田寛也分科会長代理は「財政運営への信認が低下しないよう対応していく必要がある」と話した。

インフレ率など前提条件は異なるが、英国の危機から引き出せる教訓は小さくない。

インフレ率が10%もの英国で物価高対策などへの一定の財政支出の必要性は否定されるものではない。

市場の不信を招いたのは、目的や対象を絞らず、やみくもだった点だ。減税策では所得税や印紙税の引き下げ、法人増税凍結などあらゆるメニューが並んだ。英国では労働需給は逼迫しており、減税でさらに需要を刺激すればインフレの助長につながりかねない。

国際通貨基金(IMF)は「対象を限定しない大規模の財政パッケージを推奨しない」と批判。高所得者減税や法人増税の凍結は不平等助長の懸念があるとも指摘した。インフレ抑制のために金利引き上げを進めていた金融政策と財政政策の方向のズレも懸念を大きくさせた。

日本政府は新型コロナウイルス禍以降、大規模の経済対策を繰り返し、金融緩和を続ける日銀と今のところ足並みはそろっている。ただ、財政政策が必要な部分に絞られているかという点で英国と同様に問題を抱える。

足元で検討が進む総合経済対策は、電気代の直接支援などが盛り込まれ、巨額の財政支援から抜け出せなくなる恐れがある。一方、コロナ対策である雇用調整助成金の特例の縮小・終了は与党側が慎重で調整が進まない。成長分野への労働移動を妨げるなど中長期で成長率を下げかねないメリハリのない財政出動が慢性化している。

SMBC日興証券の丸山義正氏は「財政拡張策が経済成長の基盤や規律を著しく損なうと市場から判断されたときには日本売りという形で円安が一段と進むリスクがある」と話す。

世界経済の先行きに警戒感が強まる中、各国にとって財政出動の誘惑は大きく、役割も大きい。だが「賢くない」とみなされた政策の代償がどれだけ怖いかも明らかになった。

(税財政エディター 小滝麻理子)』