“プーチンの隠密部隊”ワグネル 元隊員が語る内幕

“プーチンの隠密部隊”ワグネル 元隊員が語る内幕
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221013/k10013856331000.html

『私たちにその一報がもたらされたのは、9月上旬。世界各地の紛争地で活動し、ロシア政府との結びつきがたびたび指摘されてきた民間軍事会社「ワグネル」の元隊員が顔を出して取材に応じるというのだ。“プーチンの隠密部隊“との呼び名もあるが、公式にはその存在すら否定されている。元隊員が語った闇に包まれた“よう兵部隊”の実態とは。(クローズアップ現代取材班 岡本直史・石川俊樹)』

『派遣された場所で戦うだけの“便利な道具”

ワグネル元隊員 マラット・ガビドゥリン氏

インタビューの場に現れたがっちりとした体格の男性。マラット・ガビドゥリン氏だ。所在を明らかにしないことを条件に私たちの取材に応じた。
ガビドゥリン氏はロシアの軍事学校を卒業後、職業軍人として空てい部隊で任務にあたり、退役後、2015年に「ワグネル」と契約。ウクライナやシリアなどで活動していたという。

ワグネルとはいったいどんな組織なのか問うと、ガビドゥリン氏はその役割について語りだした。

ガビドゥリン氏

「民間軍事会社の目的は戦闘任務を遂行すること。しかも大規模で複合的な戦闘を展開するという任務です。この組織は戦争のためだけに存在しています。そして、戦闘能力という点においてはある意味、小国の軍隊を凌駕(りょうが)していますが、軍ではないのです。派遣された場所で戦うだけの“便利な道具”なのです」

“プーチンの隠密部隊” ワグネルとは

ロシアが軍事侵攻するウクライナにも送り込まれていると指摘されるワグネル。実際に戦闘行為に参加することから民間軍事会社(Private Military Company:PMC)と呼ばれ、金銭で男たちを雇い、戦地に派遣していると見られている。

ワグネルの部隊とみられる画像

これまでにウクライナやシリア、リビア、中央アフリカ共和国など、いずれも激しい戦闘が行われていた地域ばかりで活動してきたことから、国際社会から警戒されてきた。

ロシア政府は、「よう兵」は犯罪にあたるとしており、ワグネルの存在も公的に認めていない。各国からの指摘やジャーナリストたちの追及に対しても、ロシア大統領府はそのつながりを繰り返し否定してきた。

ワグネルが含まれるとみられる部隊(マリ)

しかし、イギリス国防省は、ロシアによるウクライナ侵攻で「ワグネルの武装メンバー1000人以上がウクライナに送り込まれたとの情報がある」と発表。

私たちがいちばん問いたかったのはワグネルの活動の背後にロシア政府の関与があるのかどうかだ。ガビドゥリン氏はこれまでの自身の経験を踏まえながら、強固な結びつきがあると明言した。

シリアに派遣されていた当時のガビドゥリン氏

ガビドゥリン氏

「(ワグネルは)実質、ロシア政府が作ったよう兵部隊です。シリアでは、戦闘計画を実行するために、ロシア軍の司令部からの指示を遂行していました。ロシア軍の一部として、完全にロシア軍による統制のもとで活動していました。軍隊の一部ですから、自分たちがどう動くかは、当然、軍の合意のもとなのです」

“存在しない”軍事組織が、堂々と…

プリゴジン氏(左端)中央がプーチン大統領

時を同じくして、ワグネルに関する大きな動きも起きていた。9月中旬、プーチン大統領と近い関係にあるとされ、ワグネルの創始者と目されてきた実業家プリゴジン氏とみられる人物がロシアの刑務所で受刑者たちを勧誘する映像が、ネット上で大きな注目を集めたのだ。

受刑者を勧誘するプリゴジン氏とみられる画像

プリゴジン氏とみられる人物の発言

「私は民間軍事会社の代表だ。聞いたことがあると思うが、ワグネルだ。航空機もあるし、戦車もある。効果的に攻撃するために必要なものはすべてそろっている。大胆に前進していく者ほど生き延びる。敵に背を見せ、何をやるべきかわからないでいる者は倒される。私はあなたたちを生きてここ(刑務所)から出す。だが、必ずしも生きて戻れるとは限らない。さあみんな、どうだ?質問はあるか?」

長年、ワグネルとの関係が取り沙汰されてきたプリゴジン氏。

この映像が掲載された直後、自身がワグネルの創設者であることを初めて認めた。

ガビドゥリン氏

「私たちは契約書にサインし、義務とゲームのルールを受け入れました。『私たちはどこにもいない』『私たちは存在しない』ということを受け入れました。お金さえ払ってくれればよかったのです。この会社は法律の外にある、違法な軍事組織です。しかし、堂々と存在し、宣伝すらしています。無限の権力を手にしたプリゴジン氏が刑務所の門を勝手に開け、建物内に入って行き、警備や事務の職員たちを脇に立たせ、堂々と服役中の者たちに対してワグネルへの勧誘を行い、現地に送り込むのです。こんなことがロシア国内では実際にあるのです。つまり、すでにこの国は、法のもとにいることをやめ、もう何もかも完全に狂ってしまっているとさえ思います」

「法律や軍の規定には縛られない」民間人の犠牲も

ウクライナの捜査当局は「首都キーウ近郊での住民の拷問や殺害に、ワグネルの兵士が関与していた」と発表するなど、国際社会ではワグネルの人権侵害への懸念の声も高まっている。

市民の虐殺などの人権侵害を行った場合、その兵士だけでなく上官、兵士を派遣した国の政府の責任が厳しく問われるのが通常だ。

ところが、民間軍事会社ならば、「あくまで民間会社のやったこと」として、政府の責任はあいまいになる。政府の目的達成のために手段を選ばないワグネルが民間人に危害を加える行為に関与する可能性はあるのか、ガビドゥリン氏に問うた。

ガビドゥリン氏

「ええ、あると思います。法規定は何もありません、あるのは命令を遂行するというルールだけ。もし遂行しなければ解雇されるだけです。兵役に就いているわけではないので、法律や軍の規定には縛られません。どんな行為も捜査されたり、犯罪として罰せられることはありません。ただ、すべては、そのよう兵自身がどれだけ自制がきくかにかかっています」

犠牲をいとわないワグネルがアフリカで暗躍

こうしたワグネルの特性は強権的な国家の指導者たちにも好まれやすいとガビドゥリン氏は指摘する。

その一例が、西アフリカの国、マリだ。マリでは政府軍と勢力を拡大するイスラム過激派との間で激しい戦闘が続いている。かつてフランスの植民地だったため、マリ政府はフランスに軍の派遣を求めたが、過激派を排除することはできず、40万人が家を追われる事態となっている。

このマリで、ワグネルがロシアによる軍事支援の要として活動しているとみられているのだ。

マリの国旗とともにロシア国旗がはためく市街地

ガビドゥリン氏

「(フランス軍などは)犠牲を出すことを非常に恐れているのでしょう、仲間のことが大事ですから。そして動かない方がいいという結論に至るでしょう。しかし、ワグネルは、隊員の命をまったく惜しむことはありません。犠牲もいとわず前進して全てを押しつぶし、たたきつぶし、また前進して全てを踏みつぶすだけです。(アフリカの人から見れば)ロシア人が全部やってくれて、自分たちは誰も犠牲になることなく、武器を手にとって戦わなくて済んだ、となれば、ある種の好感が芽生えるのは当然のことです。アフリカのリーダーは軍事クーデターで権力の座についた人たちが少なくありません。困難な問題でも手段を選ばず解決するワグネルのやり方に共感しているのです」

ロシアの“病”をみて ワグネルを辞めた

ガビドゥリン氏が戦闘に参加していた期間はおよそ4年間。シリアでの戦闘で大けがを負い、のちに組織を離れた。

自分の命をリスクにさらしながら、戦地に身を置いた期間に何を感じたのか。ガビドゥリン氏はかつて戦場で感じた思いを振り返り、ワグネルを辞めた理由を話し始めた。

ワグネルとみられる部隊(マリ)

ガビドゥリン氏

「ウクライナ東部のルハンシク州に派遣された時、はじめは現地にナチスやファシストがいて、ロシア的世界を守らなければならないと信じ込んでいました。しかし現地で見たのは、親ロシア派勢力がまるでロシア革命での赤軍兵士のように、権力を奪取しコントロールしている現実でした。実質、軍事クーデターのようでした。そこで経験した、感情的な揺れによって『知性の眠り』から覚めることができました。それまでは私も大半のロシア国民と同じで、上から『信じること』を命じられる状況の中で生きていました。2018年が終わる頃(ワグネルを辞めたころ)には、これは異常な状況であり、社会にはびこっている非常に重い病気、ロシア社会の病の結果、こうなっているのだと考えるに至りました。そして、これ以上、関わりたくないと思い辞職しました」

なぜ取材に応じたのか

1時間を超すインタビューを通して、私たちの質問に答え続けたガビドゥリン氏。しかし、これまでにアフリカではワグネルに迫ろうとしたジャーナリストが何者かに殺害される事件も起きている。

自身の危険もある中で、なぜ顔出しで取材に応じるのか、最後に問いかけた。

ワグネル元隊員 マラット・ガビドゥリン氏

ガビドゥリン氏

「ワグネルでは『人命に対する責任感の欠如』が当たり前になっていて、司令官たちの間には、その感覚がはびこっています。国民の潜在力を浪費しています。よう兵だって本来は悪い人たちではなく、国民の中でも最も生命力がある人たち、健康で元気な男たちです。家族や子どもをもって育てていくことができるはずです。こうした人々をいかすことでロシアを国家として強くして、経済の発展を後押しすべきです。なのにただ、こうした人たちの命を浪費しているのです。シリアでは一つの作戦のために、100人の隊員が犠牲になりましたが、誰もその責任は取りませんでした。まるで何も起きなかったようなふりをしていました。私が語ることで、ロシアの人々に目を覚ましてほしいのです。『みなさん。いま、よう兵たちや民間軍事会社が、神話化され、英雄化されようとしていますよ』と。そんなことは決して許してはなりません」

クローズアップ現代「ロシアが“友好国”を拡大?知られざる国際戦略の実態」

詳しくはこちらの記事でも

社会番組部ディレクター

岡本直史
2012年入局
ウクライナ侵攻のサイバー戦やロシアのハッカー集団などを取材
ちなみに「ワグネル」という名称の元となったとされるドイツの作曲家ワーグナーとは同じ誕生日
ヨーロッパ総局プロデューサー

石川俊樹
1997年入局
2013年から3年間、モスクワ支局の特派員
ロシアによるウクライナ領クリミアの併合や親ロシア派の動きを現地で取材
ことしからヨーロッパ総局(パリ)で勤務 』