中国に「一帯一路2.0」構想、問題噴出で方針転換

中国に「一帯一路2.0」構想、問題噴出で方針転換
融資慣行は「債務のワナ外交」との批判
https://jp.wsj.com/articles/china-reins-in-its-belt-and-road-program-1-trillion-later-11664238557

 ※ 今日は、こんなところで…。

『 By Lingling Wei
2022 年 9 月 27 日 09:50 JST

 中国が巨大経済圏構想「一帯一路」の見直しに着手した。影響力の拡大を狙い、アジアやアフリカ、中南米諸国に多額の資金を投じてきたが、ここにきて債務国の返済が行き詰まっており、軌道修正を余儀なくされている。政策運営に関与している複数の関係者が明らかにした。

 世界経済の減速や金利上昇、インフレ高騰が足かせとなって、借り手の国家財政は急速に悪化。巨額の融資返済が滞っているほか、多数の開発案件が凍結に追い込まれている。中国の融資慣行を巡ってはかねて「債務のワナ外交」との批判も上がっており、スリランカやザンビアなどの債務危機を助長しているとの指摘は絶えない。

 こうした中、中国当局内では新規プロジェクトへの融資審査を一段と厳格化する「一帯一路2.0」構想が浮上した。またかたくなに拒否していた不良債権の計上や債務再編に対しても、幾分許容する方向へと傾いているという。関係筋が明らかにした。

 習近平国家主席はかつて、一帯一路を「世紀のプロジェクト」と呼んではばからなかった。しかし、見直しを迫られている現状は、世界の秩序を塗り替えるという習氏が描くビジョンの限界を露呈させた。習氏は昨年11月に開いた高官との協議で、一帯一路を取り巻く外部環境は「ますます複雑さを増している」との認識を表明。リスク管理の強化と他国との協力拡大が必要だと強調した。国営メディアが報じた。

2000~12年の年間平均13~17年の年間平均

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 中国の銀行はすでに、低所得国の新規案件に対する融資を大きく減らし、既存融資の対応に注力している。

 中国の対外融資のうち、借り手が返済困難な状況にあるとされる割合は60%に迫っており、2010年の5%から急上昇している。対外債務について数多く執筆しているセバスチャン・ホーン、カーメン・ラインハート、クリストフ・トレベシュ各氏が分析した。

 途上国の債務問題解決のため、中国は先進国で構成する「パリクラブ(主要債権国会議)」といった多国間制度についても、長年の拒否姿勢を撤回する方向にかじを切った。足元では途上国の債務負担軽減に向けて20カ国・地域(G20)と協力している。

 中国はこの過程で、国内銀行に対し、損失の受け入れを強要する可能性がある。中国は長年、債務元本の減免ではなく、返済期限を延長することで融資の焦げ付きに対応してきた。問題を「見て見ぬふり」する戦略だとされ、借り手の債務危機をむしろ長引かせる恐れがあると言われている。

中国電力建設公司などの合弁会社が運営するパキスタン・ポートカシム石炭火力発電所
Photo: Asim Hafeez/Bloomberg News

 中国国営メディアも、一帯一路に対する論調を落としている。かつては中国の融資によって借り手が受ける経済的恩恵を誇示していたが、足元ではリスク管理や国際社会との協力改善といった面を強調している。ジョージ・メイソン大学傘下のシンクタンク「メルカタス・センター」で中国政府のプロパガンダについて研究するウェイフェン・ゾン上級研究員はこう指摘する。「中国は軌道修正を試みている」

 中国国務院(内閣に相当)、国家発展改革委員会(NDRC)、財政省はいずれもコメントの要請に応じていない。中国人民銀行(中銀)、融資に関与する複数の国内銀行も、同じく要請に応じていない。中国外務省は声明文で「一帯一路に関する質の高い協力促進に向けて国際社会と協調していく」とコメントした。

 習氏は12年に実権を握ると、中国の影響力を拡大するとともに、国産品を販売する市場を構築するため、自身の看板政策として一帯一路を推進し始めた。

 15年に中国株急落で内需が低迷すると、中国は一帯一路を使って、鉄鋼や繊維など国内で過剰供給にあった製品の輸出拡大にまい進。中国輸出入銀行や国家開発銀行(CDB)は往々にして、中国サプライヤーからの調達を途上国向け融資の条件としていた。

 中国外務省によると、中国はたった10年で、エクアドルやアンゴラなど約150カ国の開発プロジェクトに融資などを通じて約1兆ドル(約145兆円)を拠出。これにより、中国は初めて、世界最大の債権国に浮上した。

 これに対し、途上国向けの融資や助成金で、米政府や政府系機関が占める割合は中国の半分にも満たない。ウィリアム・アンド・メアリー大学傘下の研究所エイドデータが分析した。2013年までの約10年は、米中はほぼ肩を並べていたという。

 エイドデータの責任者、ブラッド・パークス氏は、対外融資のほぼすべてを支援として実施する米国とは対照的に、中国は「銀行」のように振る舞う傾向があると指摘する。例えば、エイドデータの分析によると、中低所得国対する支援1ドルにつき、中国は9ドルを融資として提供している。米国はそのまさに反対で、少なくとも支援9ドルに対して融資1ドルの割合だという。

 17年頃までには、中国銀行業界の幹部の間で、回収の見込みがない案件への融資を強要されているとして政府への不満が高まっていた。内情を知る業界幹部らが明らかにした。デフォルト(債務不履行)に陥った際に責任を問われないよう、「政策の指示の下で」行われた融資だと規制当局が明言しない限り、一部プロジェクトに対する支援を停止する構えを見せる銀行も出てきたという。

 新型コロナウイルス禍がさらに借り手の圧力となっていた20年11月、中国はG20が支援する債務救済の国際的な取り組みである「共通枠組み」に加わることで合意した。
「一帯一路」に関するシンポジウムで演説する習氏(2021年11月)
Photo: Shen Hong/Zuma Press

 共通枠組みはパリクラブが準拠する原則の下に構築された。中国はパリクラブに参加するよう度重なる働きかけを受けてきたが、かたくなに拒否してきた経緯がある。

 中国の銀行は借り手に対して、パリクラブが行うような他の債権者との債務再編の手続きから、自国の融資を除外するよう強く主張していた。デフォルトになった場合に、返済順位で中国を最優先の扱いにする狙いがあるとみられている。エイド・データのパークス氏によると、中国の融資契約の約75%にこうした「ノー・パリクラブ」条項が含まれている。

 20年夏にはG20、パリクラブ、中国との間で昼夜問わず6週間に及ぶ協議が行われ、中国が共通枠組みに参加することで原則合意に達した。協議に詳しい関係者が明らかにした。習氏が正式に署名するのにさらに数週間を要したという。

 それによると、中国が参加を決めた背景には、他の債権者と連携して取り組むのであれば、中国の銀行が自らの利益を守るよう主張した方が望ましいとの見方があった。また中国の政府内では、共通枠組みに参加することで、面目をつぶすことなく、パリクラブを拒否してきた従来の姿勢から移行できるとの読みも働いているようだ。

 ただ、国家開発銀行など国内大手銀行の株式を保有する財政省は、銀行による損失計上に警戒を解いていない。不動産市況の冷え込みで、銀行が多大な圧力にさらされていることで懸念が深まっているためだ。

 一方、人民銀は新興国が金融危機を回避するために、中国は債務再編協議に一段と柔軟な姿勢で臨む必要があるとの立場を唱えている。関係筋が明らかにした。

 人民銀内からは、米連邦準備制度理事会(FRB)による急ピッチの利上げを理由に、中国は行動すべきだとの指摘が上がっている。背景には、FRBの利上げでドルが独歩高の様相を強め、途上国の債務返済コストが上がっていることがある。

 中国はチャド、エチオピア、ザンビアで債権者との交渉を進めており、一帯一路の新たなアプローチに対する試金石になるとみられている。
2017年5月、北京での「一帯一路」フォーラム開催を控え垂れ幕が並んだ
Photo: wang zhao/Agence France-Presse/Getty Images

 とはいえ、一帯一路が全面的に撤回される可能性は低い。来月の共産党大会で3期目続投を目指す習氏は、国際社会における中国の役割を拡大することが重要だとの考えを堅持している。政策運営に詳しい関係筋への取材や、習氏の最近の演説要旨から分かった。

 問題の多い一帯一路だが、過去10年に多数の国々を中国の勢力圏に引き入れたことも事実だ。国連の採決では、借り手の多くが中国の意向に合わせて票を投じるようになった。中国が融資への消極姿勢を強めれば、一部の国にとっては中国マネーの魅力が薄れ、国際社会の意志決定において中国の影響力が後退することもあり得る。

 米外交評議会(CFR)の上級研究員で、ソブリン債務専門家のブラッド・セッツァー氏は「中国が影響力を拡大する上で、一帯一路が重要な存在であり続けるには、新たな方策を見いだす必要があるかもしれない」と述べる。具体的には融資ではなく、助成金などの支援を拡大するといった措置が挙げられるという。

 内情に詳しい関係筋によると、中国当局者はリスク軽減に向けた官民パートナーシップの構築、市場水準を下回る優遇金利での融資といった手段を通じて、一帯一路を持続可能な軌道に乗せる方策も探っている。さらに中国当局は、新規案件の融資でアフリカ開発銀行のような多国間機関との協力拡大にも、前向きな姿勢をにじませ始めているという。
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