一帯一路に邁進の中国、アフリカ17カ国に提示した「債務免除」の狙いは何か

一帯一路に邁進の中国、アフリカ17カ国に提示した「債務免除」の狙いは何か
最貧国に差し伸べた救済の手か?あるいは高次の戦略に基づく懐柔策なのか?
2022.9.22(木)
塚田 俊三
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71917

『(塚田俊三:立命館アジア太平洋大学客員教授)

 中国の一帯一路は、2013年以来、世界のインフラ市場を席巻してきた。それは、あたかも国有企業を先兵として途上国に送り込み、そのコントラクターとしての戦場での戦いを、後方から国営銀行が支援するかのような連携プレーのなせる業であったといえよう。

 当初、一帯一路は多方面から歓迎されたが、プログラムが進むにつれて、綻びが出始めた。特に問題となったのは、債務の返済である。

「支払期限がきた無利子貸し出し、返済は一切無用」

 中国の国有企業は、できるだけ大きく稼ぐためにプロジェクトを膨らませて提示することが多く、これに伴う途上国の借入金も巨額となった。このため、数年もすると債務の返済に窮する国が続出した。

 深刻な債務危機に直面した途上国は、中国に対し、債務の削減を求めたが、中国側はこれには頑として応ぜず、債務の軽減を図るどころか、むしろ、プロジェクト資産の差し押さえ、さらには、債務の返済に代わる地下資源の譲渡を求めた。

 このような経緯があったことから、「中国の債務の取り立ては厳しい」という評判が途上国の間で広まっていった。

 そうした認識が途上国で共有され始めた中、先月8月18日、中国の王毅外相は、突如アフリカの17カ国に対し、「支払期限がきた23件の無利子貸し付けについては、その債務の返済を一切求めない」と切り出したのだ。

 この発表は、ほかでもない中国が行い、しかもその総額が100億ドルにも達するものであったことから、世界の注目を浴びた。

 債務の減免にはこれまで頑なな態度をとってきた中国が、何故にかくも寛大な施策をとることとしたのであろうか? そこには、何か隠された意図があったのであろうか? あるいは、それは単に、今や世界のスーパーパワーとしての地位を確立した中国は、世界のリーダーとしての責任を自覚し、それに相応しい振舞いを取り始めたということであろうか? 本稿においては、これらの問題を、中国の対外政策において中心的な役割を果たす一帯一路の変遷との関係から見ていきたい。』

『一帯一路の「構造」

 一帯一路は、その導入以来すでに10年を経るが、その性格は徐々に変化してきた。

 当初の狙いは、過剰な生産能力を抱えていた中国国営企業にそのはけ口を海外市場で与え、その活性化を図ることであった。これを受けて国営企業は、大挙して途上国のインフラ市場に乗り込み、手当たり次第にプロジェクトを見つけ、形だけは取り繕い(フィージビリティあり、環境問題無しとしとする等)、これを請負事業として途上国に売り込んでいった。

 その手法は、非援助型の対外経済協力とされる“対外経済合作”によるものであり、具体的には、中国企業が、自らプロジェクトを発掘し、これを基本設計から、建設、引き渡しに至るまで一括して引き受け、完成次第これを途上国に引き渡すとするものであり、その契約上の性格は、中国企業が海外からの発注を受けて行う請負事業である。

ケニアの首都ナイロビと第二の人口を擁する港湾都市モンバサを結ぶ長距離鉄道も中国の一帯一路によって建設され、2017年5月末に開業した。プロジェクトは予定より早く3年半で完成したが、そのコストは類似プロジェクトの3倍となった(写真:AP/アフロ)

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 通常、先進国が実施する経済協力であれば、フィージビリティ・スタディー(S/F)、環境影響評価(EIA)、基本設計等は第三者が実施し、その枠組みの下で、別の事業者がこれを施工するという手筈となるが、中国の対外経済合作では、こういった二段階手続きは踏まず、国営企業がそのすべてを一括して実施する。言い換えれば、S/FやEIA、さらには、基本設計はすべて中国企業が自ら行うので、その内容は自分に都合のいいように決められる(例えば、上記写真キャプションで述べたケニアの長距離鉄道は国立公園(Nairobi National Park)内を通過するが*1、このような路線の建設は、通常の環境影響評価では決して認められないにもかかわらず、中国企業が実施したEIAではこれを良しとした)。

*1 New York Times, August 7, 2022 “Jewel in Corruption – The troubles of Kenya’s China-funded rails”

 中国企業は、この利点を活かし、プロジェクトのサイズを必要以上に膨らましたり、時間のかかる環境対策を省いたりすることができるし、さらには、発注者の要望に応じ、完工時期を早めたり(例えば、次期選挙までに完成させるとか)、建設以外の目的に使用する曖昧な資金を浮かせたりすることもできる(例えば、次回の選挙資金向けとか)。

 途上国政権にとっては、中国企業が提案するプロジェクトは、面倒な調達手続きを要せず、工期も短く、すべて丸抱えでやってもらえるので大変ありがたく、また、いろいろ“お土産”も付いてくるので、できることなら中国企業に発注したいと考える。』

『だが、中国企業のプロジェクトはあくまでも請負ベースで行われるので、その資金を準備しなければ何も始まらない。他方、途上国は、インフラ整備に必要な多額の資金は持ち合わせていない。そこでその旨を中国企業側に伝えると、当該国有企業はすぐに動き、現地大使館に話を繋ぐ。現地大使館には商務部担当のアタッシェが駐在しており、そこから話が本国の商務部に上がり、適切な国営銀行が選ばれることになる(我が国の大使館と違うのは*2、中国はこの現地での相互連携が極めてスムースに行われるということである)。

*2 我が国大使館は、特定の企業をサポートしているとみられることを避けるため、すべてに慎重。

 途上国は、そのインフラ整備を一帯一路の枠組みの中で行うと、資金調達に関して中国の銀行を使う以外の選択肢はなく、またそのローンはタイド(ひも付き)であるという難点はある。だが、もしも世銀やアジア開発銀行(ADB)から借りると、詳細で時間のかかる審査を経る必要があり、加えて厄介なコンディショナリティも付いてくるので、こういった点をすべて省いてくれる中国からの融資は魅力があり、結局はこれを使うことになるのである。

2018年9月、北京で開かれた中国・アフリカ協力フォーラムサミットに併せて、中央アフリカ共和国のトゥアデラ大統領と会見した習近平主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
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綻びが出始めた一帯一路

 中国の国有企業と国営銀行の二人三脚で進められる一帯一路は、発足当初は順調な滑り出しを見せたが、数年も経つと問題点がいろいろ出てきた。

 そもそも、一帯一路のプロジェクトは先に述べたように、拙速で準備されたものが多く、実施段階に入るとエンジニアリング上の問題が表面化し、設計の途中変更を余儀なくされ、大幅遅延やコストオーバーランを引き起こすものが増えたのだ。

 また、短期間でのデリバリー(受け渡し)を売り物にして現地政府の受注にこぎつけたこともあり、当該国有企業は、早期完工を目指し、地元対策などには目もくれず、効率優先でことを進める。だから技術者はもちろん、労働者も大量に中国本土から呼び込み、資機材に至ってはほとんど中国本土のものを使用し、現地ではこれを据え付けるだけといった具合で工事を進めた。

 このため、現地には十分な雇用機会をもたらさず、また、資材の現地調達もなかったことから、地域経済界との間で軋轢が生じたり、環境悪化問題等を契機に地域で反対運動が起きたりした事例もあった*3。College of William and Maryの2019年の調べによれば(AidData*4)、一帯一路プロジェクトの35%は、汚職、環境、地域との軋轢等から、実施不能または大幅遅延に陥ったとした。

*3 モンテネグロの高速道路プロジェクトは環境問題を引き起こし、地元の反対にあった。

*4 同大学が中国の165か国、13,427件のプロジェクト融資案件を対象に行った調査結果であり、2021年9月に発表された。』

『一帯一路は、金融面でも問題を起こした。中国の政策銀行からの借入れは必ずしも安くはなく、中国開発銀行から借り入れた場合はその金利は4.5-6%であり、譲渡性が高いといわれる中国輸出入銀行から借りた場合であっても、2-3%である。これら金利は、世銀、ADBや先進国の開発援助機関からの借り入れた場合の1%前後と較べるとかなり高い。

 このように中国からの借り入れ案件は、金額が大きいだけではなく、金利コストも嵩むので、途上国にのしかかる債務負担は重く、数年間の返済猶予期間が終わるや否や、半年毎の均等割賦返済に窮する途上国が多数出始めた。債務の弁済が滞った場合、その取り立ては厳しく、デフォルトに陥ると、中国国営企業はすぐさまプロジェクト資産の接収を開始したり、さらには債務の弁済に代わる地下資源の提供を途上国側に求めたりし、窮地に陥る国が見られた。

 このような厳しい債権回収のやり方をみていて、中国は、“意図的にプロジェクトのサイズを膨らませ、貸せるだけ貸し込んでおいて、途上国を返済不能に追い込み、その上で、途上国の資産や地下資源を取り上げることを最初から目論んでいたのだ”とみる向きすら出てきた(いわゆる“債務の罠”)。

世界中に広がった「債務の罠」に対する警戒感

 このように一帯一路はそれが開始されてから数年も経つと、それが内包していた問題が噴出し始め、これを見ていた現地政府は、プロジェクトの規模の縮小あるいは貸し付け条件の緩和を、さらには債務の棚上げを中国政府に求めた。しかし、中国政府は、最重要の国策機関である国営政策銀行が多額の不良債権を抱えるような事態は何としても避けたいと考え、途上国政府の要請には応じなかった。

 こうした中国の債務救済に対する姿勢は、世銀、IMFが中心となって進めた、Debt Service Suspension Initiative (DSSI)においても表れた。DSSIは、COVID-19の蔓延に伴う債務の増大に直面する最貧途上国に対し、G20諸国が協調してその債務返済義務を一時的に猶予するとするものであり、2020年5月に始まり、その後半年毎に延伸され、2021年12月まで続いた。

 その際に争点となったのは、債務の支払猶予の対象となる公的融資機関の範囲をどこまでとするかという議論であった。中国側は、この範囲を国家国際発展合作署と輸出入銀行に限定し、国営銀行である中国開発銀行は含めないとする立場をとった。世銀、IMFは、中国開発銀行の融資額が国家国際発展合作署や輸出入銀行のそれよりも遥かに大きいことから*5、DSSIの対象機関に中国開発銀行も含めるべきだと主張したが、中国政府は頑としてこれを受け付けなかったのだ。

*5 中国開発銀行の2013年から2018年までの年平均融資額は317億ドルで、輸出入銀行の2013年から2019年の年平均融資額は、217億ドルである。国家国際発展合作署については、それが提供する無利子融資の額は、これら国営銀行の融資額と比較すると遥かに少ない。』

『中国が債務の返済猶予を受け付けなかった理由

 何故に中国がこのような立場をとったのかを理解するためには、これら機関の性格の違いを知る必要がある。国家国際発展合作署は、2018年商務部の海外援助部門から独立して設置された政府機関であるが、それは商務部がそれまで所管してきた無利子融資業務を引き継ぎ、これを継続して実施することを主な業務とした。

 中国輸出入銀行は、途上国に対する中長期資金(15-20年)の提供を主たる業務とするが、その資金には、政府助成が入っていることからその金利は、市場金利よりは低く、2-3%である*6。

*6 輸出入銀行の資金は、次の二つの窓口のいずれかから提供されている。一つは途上国に対する直接融資であり、途上国のsovereign guaranteeの下に提供される。もう一つは、輸出金融の一環として提供されるbuyer creditであり、途上国の国有企業が中国の国営企業から調達する設計施工サービスの支払いに充てられる。

 他方、中国開発銀行は、輸出入銀行と同じく国営の政策銀行とはいえ、その運営は、独立採算制を旨としており、利益を上げることが想定されている。

 その資金はもっぱら内外の資本市場での債券発行により調達しており、このため、高い信用格付けを維持することは極めて重要であり*7、債務の据え置きといった財務状況の悪化につながるような処置を採る余裕は無いのである(ちなみに、中国政府内での中国開発銀行の地位は高く、それは、国務院直轄の機関であり、地位的には大臣レベルであり、他のいかなる大臣の指示も受けない。他方、輸出入銀行は、その業務は国家国際発展合作署の監督の下に行われており、副大臣レベルの機関である)。

*7 S&Pでは“A+ with stable outlook”とされている。

 このように中国開発銀行は、基本的には市場原理に沿って運用されており、業務に対する政府の関与はなく、この点で、他の二つの機関とは大きく異なっており、これが世銀、IMFの要求には応じ得ないとした理由である。』

『なぜ急に債務救済に踏み切ったのか

 ここで冒頭の問いに戻ろう。

 先に述べたとおり、中国の王毅外相は、本年8月18日、中国・アフリカ協力フォーラム閣僚級会議成果実施調整者会議をオンラインベースで開催し、突如、その場において、アフリカの最貧17カ国に対し、無利子融資案件で、2021年末までに弁済期限がきたものについて、債務の弁済をすべて免除すると述べた。

同大臣の発言では、これら17カ国がどこの国か、無利子案件は何かは、明らかにされなかったが、その総額は100億ドルに達すると述べたことから、大きな反響を呼んだ。これは、中国の対外支援政策が大きく変わったことを意味するのであろうか? あるいは、その背後に何か特別な思惑があったからなのであろうか?

 この問いに対する答えは、意外なほど単純である。今回の発表は、一見すると中国の経済支援政策の大きな変更に見えるが、実はそうではなく、従来からの路線を踏襲したに過ぎない。

 中国では、最貧国(low income countries)に対しては無利子融資を提供してきているが、無利子融資については政府機関(以前は商務部、現在は国家国際発展合作署)を通じて提供していることから、従来より、外交上必要とされれば、政府の判断で(二国間協議を通じてではあるが)、特定国に対し、債務の棚上げや帳消しを認めてきた(これが、銀行から提供されている対外経済協力資金である場合は、債務の帳消しは、当該銀行の財務状況の悪化に繋がるので、通常は実施されない。ただ、輸出入銀行の場合、例外的に貸し付け条件の見直し等が行われることはある)。』

『債務免除でも中国の「身銭」は切らず

 このように中国の債務の減免は皆無ではないが*8、今回の発表が、かくも大きな注目を浴びたのは、その債務免除額が大きく、また、かかる措置が各国との事前交渉なしに、しかも、17カ国もの多くの国を対象に一斉に行われたということである。

*8 中国は今回のみならず昨年もアフリカの最貧15カ国に対し、総額1億ドル強の債務救済を行ったが、その金額は今回の発表と較べると極めて小さい。このほか、コンゴ民主共和国に対しても、2021年、0.1億ドルの債務救済を行ったが、それはコンゴ民主共和国との個別交渉を通じて行ったものであった。

 同時にここで注目しておくべきなのは、今回の債務救済措置は、中国側が身銭を一切使うことなく、行われたということである。

 というのは、債務を帳消しにした場合、当然その穴埋めをするためのお金をどこかで見つけなければならないが、中国は、このための資金として、昨年、IMFから“棚ぼた”的に手に入れたSDR(特別引出権)を使うこととしたからである。

 IMFは昨年8月、すべての加盟国を対象に、その持ち分に応じた額のSDRの特別配給を行うことを決定したが、中国のIMFへの出資比率は6.07%であったことから、これに対応する395億ドル相当の特別配分を受けており、それは外為特別会計で眠っていた訳で、今回はそれを使用するというだけのことであるので、特段の痛みは伴わない。

 ただ中国が巧みなのは、上記の債務救済の発表を、日本が、世銀、UNDP、アフリカ連合委員会の協力を得て開催する第8回アフリカ開発会議(本年8月27日、28日の両日)の直前にぶつけてきたことである。』

『我が国としては、今回のアフリカ開発会議を通じて、何とか、援助額では日本をはるかに上回る中国に対して有効な対抗軸を形成したいと考えていた。種々検討した結果、編みだしたのは、中国からの債務漬けで困窮している国に対し、そこからの脱却を手助けするため、もしも、当該途上国が“中国からの融資を再検討”するのであれば、日本のODA資金を提供するという作戦であった。だが、中国は、その機先を制し、同開発会議の直前に外相会議を開催し、その場でアフリカ諸国に対する大幅な債務棚上げを打ち上げた。

 その10日後、我が国は、予定通り、アフリカ開発会議を開催し、法の支配、透明性の確保、国際基準の順守といったいつものきれいごとを並べ立てたが、こういった発言は、実利を重んずるアフリカ諸国にとっては、全く効き目がないだけでなく、むしろ耳障りに聞こえたであろう。

 この点、中国のように、アフリカ諸国に対し、何本の無利子融資を帳消し、その総額は幾らとするといった具体的な提言の方がはるかによく聞いてもらえたであろう。

強権国家陣営vs自由主義陣営、アフリカ諸国は前者に好意的

 実は、中国が今回このような施策を大々的に打ち上げたことの背景にはもう一つ理由がある。

 ご承知の通り、ウクライナ戦争以来、世界は、中国、ロシアを枢軸とする強権国家陣営と、G7諸国を中心とする自由主義陣営とが鋭く対立する構図となったが、世界にはその間で立場を明確にしないグレーゾーン国が多数存在する。ここ2、3カ月の間激しくなってきたのは、このグレーゾーン国に対する2陣営による綱引きであった。今回の中国の債務救済発言は、そのような政治的なコンテクストの中で行われたものであり、それは、明らかにこれらグレーゾーン国を強権国家側に引き寄せることを狙ったものであった。』

『自由主義陣営の目から見れば、同陣営が圧倒的な支持を得ていると考えがちであるが、途上国は我々が思うほど自由主義陣営に傾いていない。

 中国は、アフリカ諸国には、実質的な面で既に圧倒的な食い込みを見せており、それが故、中国のアフリカ諸国における評価は決して悪くはない。アフリカ全域をベースに世論調査を行っている調査機関、アフロバロメーターが、昨年アフリカ34カ国を対象として行った調査によれば、63%が中国を肯定的に評価し、米国のそれ(60%)や国連のそれ(57%)を上回ったとしている。ましてや、アフリカにおいては影の薄い日本は選択肢にも挙がっていない状況であった。

 また、ロシアも、アフリカには、かなりの食い込みを見せており、サハラ砂漠以南の地域では最大の武器供与国であり、また、アフリカの20カ国とは軍事協定を結んでいる*9。このほか、マリ、リビア等の国々に、ロシアの傭兵集団、ワグネル・グループ*10を送り込む等、様々な軍事支援を行っている。

*9 読売新聞8月29日号3面

*10 Wagner Groupは、2014年のクリミア半島侵攻以来その存在が明らかになった傭兵集団であり、プーチン大統領の私的軍事集団であるともいわれている。

より高次の世界戦略として位置づけられる一帯一路

 上記で述べた中国の対応は、一帯一路が新たな段階に入ったことを示している。一帯一路が打ち出されたのは、習近平が国家主席となった第一期(2013-2017年)の期間中であるが、そこでの重点は、国内経済のさらなる発展を促し、これを通じてその権力基盤を強化することにあった。具体的には、先にも述べたとおり、過剰な生産能力を抱える国有企業に対し、そのはけ口を与える、また、外の世界から隔絶した中国北西内陸部に対し中央アジア・欧州につながるland-bridgeを提供することであった。

 習近平政権も第二期(2018-2022年)に入り、その政権基盤が確立すると、同主席は、その思想を、特に歴史観を強く打ち出した*11。同主席は、中国がかつて西欧諸国に踏みにじられたという苦い記憶を踏まえ、“中華民族の偉大なる再興”を国家目標とし、今世紀半ばまでに、経済、政治、軍事のすべての面で世界覇権を確立するとした。

*11 習近平主席は、歴史を好み、また、歴史から学ぶことを重視する。

 勿論、かかる壮大な夢は一夕にして実現するものではなく、まず途上国においてその支配構造を固め、これを踏み台として、世界制覇に向かうとするのが、現実的な方策であろう。この意味で、途上国経済への侵攻を図る一帯一路は、かかる世界戦略を進めるうえで欠かすことのできない重要な布石として位置づけられた。』

『このような戦略の下、一帯一路の援助内容も変化を見せ始め、従来からの“箱もの”インフラ中心から、よりソフトで戦術的な内容のものにかわっていった。具体的には、監視社会実現に必要なデジタル技術の輸出(5G機器や監視カメラ等)、海底ケーブルの敷設等の通信網の整備、スマート・シティの建設、治安当局の能力開発等に重点が移っていった。

54カ国も国連加盟国があるアフリカに積極的に手を差し伸べる中国の意図

 さらに、この段階において明確になったのは、一帯一路が軍事戦略上の重要な手段として用いられるようになったということであり、これと関連したインフラ施設の整備に重点が置かれた。例えば、戦略上重要なシーレーン上にあるジブチ、パキスタン、スリランカ、カンボジア等の港湾への支援が強化され、これら港湾が中国艦隊の寄港可能港として使用できるように整備された*12。さらに、これら港湾に近接する地域に、国際空港の建設が提案され、海空両面からの軍事使用が可能な拠点の整備が目指された。

*12 バースの延伸、水深の増大、岸壁の耐荷重の強化等

 同時に、習近平国家主席は、将来の国際政治は、国連主導型で進められるべきだとの考えを有している。これは一見いかにも公平で民主的なアプローチにみえるが、それは国連加盟国の多くは、途上国であり、これら途上国を中国側に靡かせることは容易であるという打算に基づく提案である。

 だからこそ、中国は54カ国もの国連加盟国があるアフリカ地域に対する支援を強化してきたのであり(勿論、その主な狙いは、地下資源の確保ではあるが)、また、太平洋地域も、そこに15カ国もの主権国家が散在することから、同地域への進出を強化してきている。先に述べた、グレーゾーン国に対する綱引きも、このコンテクストの中でとらえるべきだろう。

 中国の世界制覇への動きは、習近平主席の第3期就任が確定した段階で、さらに加速し、より確固たるものとなり、これを阻もうとする勢力があれば、容赦なく打ちのめそうとするであろう。アジア近隣諸国における地政学的リスクが高まっている現在、我が国は、このような国を隣国に持っているのだということを片時も忘れるべきではなく、反撃力の不断の強化と防衛網の高度化を図ることが必要であろう。小さくとも、俊敏な反撃力を有するが故に、手ごわい相手とみなされるようになることが、我が国が取りうる唯一の有効な牽制策であると言えよう。』