台湾有事を招きかねない米議会「台湾政策法案」

台湾有事を招きかねない米議会「台湾政策法案」、日本の最悪シナリオとは
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 ※ 今日は、こんなところで…。

『● ペロシ議長訪台に猛反発の中国が 本当に脅威に感じているもの

 ナンシー・ペロシ米下院議長(民主党)は米国政府の諫言を無視して8月2日に台湾を訪問。3日に蔡英文台湾総統と会談した後、5日には訪日し岸田文雄首相と朝食を共にした。

 対中強硬派であるペロシ議長は台北での記者会見で、台湾への友情と団結を強調したが、台湾の独立を支持する発言はなく、米国の「一つの中国」政策を評価する発言もあった。

 だが中国は議長の訪中に合わせて台湾周囲6海域でかつてない大規模の軍事演習を行い、短距離弾道ミサイルを計11発発射し、うち5発は沖縄・波照間島南西の日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。

 EEZは、領海ではないから演習を行うのは自由であり中国は事前に日本にも通告をしていた。とはいえ非友好的な行為であることは間違いなく、米国に従う日本に対しても威圧をしたとも取れる。

 米国下院議長は過去25年に台湾を訪れた最高位の米国公人だから中国は猛反発したといわれるが、中国が本当に脅威に感じていたのは、6月17日に米議会に提出された「2022年台湾政策法案」だと考えられる。

● 台湾を「同盟国」と位置付け 450億ドルの資金や兵器を提供

 法案は、民主党のロバート・メネンデス上院外交委員長と共和党の重鎮・リンゼー・グラム上院予算委員が提案したもので、台湾を独立国として認め、軍事面での同盟国として位置付けるものだ。

 米国と中国は正式に国交を樹立した1979年1月、カーター米大統領と鄧小平中国副主席(当時)の合意で、米国は台湾の中華民国と国交を断絶した。

 だが米議会では「台湾を見捨てた」との反感が高まり、「台湾関係法」が制定された。

 この法律は大統領が台湾防衛のための軍事行動の選択肢を持つとし、米国は台湾防衛の能力を維持すると定めたが、台湾防衛の義務を定めたわけではない。また台湾にあくまで防衛的な兵器を提供できるとしている。

 今回、提出された2022年台湾政策法案は、台湾関係法の根本的改定を目指すものだ。

 台湾の「中華民国」政府を台湾人の政府であると認め、外交特権を与え、同盟国として攻撃兵器を供与、作戦計画、訓練も調整、4年間に45億ドル(約6000億円)の軍事資金を提供する、などとしている。

 法案が成立することになれば、従来、米国が「中国の一部」としてきた台湾を分離独立させ、それを同盟国化する道を開くことになる。

 仮に米国が台湾の独立支援で武力行使をすることになれば、ロシアがウクライナ東部2州の独立を承認して勢力圏に入れようとしているのと同様の「侵略」に当たるだろう。

 グラム上院議員は米空軍の法務将校を務めた予備役大佐で、前回の大統領選挙で「不正があった」と主張して敗北を認めなかったトランプ前大統領支持のトランプ信者で、議事堂襲撃事件の弾劾裁判でもトランプ氏の無罪に投票した。

 一方でウクライナの戦争では「プーチン暗殺」を期待する発言をしている。

 法案提出の直前の今年6月には超党派の国会議員を率いて台湾を訪問していた。

 米国の議員には保守派に限らず、親台湾派が少なくなく、与党・民主党にも台湾政策法案の支持者は少なくないようだ。

 バイデン政権は中国との衝突を避けるため、民主党議員に法案に反対するよう求めているが、米国では日本と違い党議拘束は緩い。

 国民にも反中感情が広がっているため、11月の議会中間選挙を前に、強硬論を唱えて人気を得ようとする候補者が続出する可能性もありそうだ。』

『● 法案成立すれば日本は厳しい立場 米台日で中国と戦う事態も

 仮に台湾政策法が成立することになれば、日本への影響も大きい。

 日本では9月29日に「日中国交正常化50周年の慶典」が催される予定だが、もし慶典の前後に法案が成立すれば日本は極めて苦しい立場になる。

 1972年に田中角栄首相と周恩来中国国務院首相らが署名した「日中共同声明」は、

 (1)日本国と中華人民共和国との間のこれまでの不正常な状態はこの共同声明が発出される日に終了する。
(2)日本国政府は中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
(3)中華人民共和国政府は台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本政府は、中華人民共和国の立場を十分理解し尊重しポツダム宣言第8項(満州、台湾、澎湖諸島などの中国への返還を定めた「カイロ」宣言の履行)に基づく立場を堅持する。

 ことなどが約束されている。

 その後、78年8月に園田直外相らが署名した「日中平和友好条約」は、日中共同声明に示された諸原則が厳格に遵守されるべきであることを再確認し、国会の承認を得て批准された。

 そして憲法98条第2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規はこれを誠実に遵守することを必要とする」と定めている。

 これらの声明や条約によれば、日本は、台湾が中華人民共和国の領土であることを認めている。

 もし中国が「台湾統一」に動いて、台湾政府軍と武力衝突の事態になれば内乱であり、中国軍にとっては、戦闘は反政府との戦いということになる。

 ウクライナでは、2014年に東部のドネツク、ルハンシク(ルガンスク)2州のロシア住民が暴動を起こして州都を占拠、「独立宣言」をしたのに対し、政府軍が鎮定に向かったが、結局、8年間も内戦が続いた末、今年2月にロシアが独立派を支援して侵攻した。

 これは明白な侵略だが、もし米国が台湾の独立を支援するということで出兵すれば、ウクライナ侵攻と同じ形になる。

 さらに自衛隊が米軍に協力すれば、ウクライナ侵攻でロシアに協力しているベラルーシの役割を日本が演じることになる。これは憲法98条に対する重大な違反となる。

 日中平和友好条約は、日米安保条約と同様に期間は10年でその後は1年前に予告して破棄できる。

 だが米国を含め世界の180カ国が中華人民共和国政府を正統政権と認めて国交を樹立し、台湾の中華民国政府を認めているのは14カ国にすぎない。日本政府が国際社会に背いて日中平和友好協約を破棄する突飛な行動に出るとは考えにくい。

 また国連憲章51条は、国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には個別的・集団的自衛権の行使を認めている。だが台湾は国連加盟国ではないし、日本の同盟国でもないから、中国軍と台湾軍の戦闘が起きても、現状では日米が集団的自衛権を行使する対象にはならない。

 だが台湾政策法が現実のものになれば状況は変わってくる。』

『他国の内戦の際、反政府軍を支援、介入するのは主権の侵害であり、侵略に当たるとするのが、これまでは一般的だったが、近年、内戦で大規模な殺害や多数の難民が発生することが増えると「人道上の問題」として国連が介入を認めた例もまれではなくなり、介入の是非の判断が難しくなった。

 米国で台湾政策法が成立すれば、米国は台湾を同法で言う「主要な非NATO同盟国」に指定し、同盟国支援ということで台湾有事に軍事介入する可能性が高まる。

 また日本に対しても、「人道上の問題」ということで出兵を迫ったり、あるいは日米同盟での対応を求めたりする可能性がある。

 そうなれば、日米台の3国が中国と戦うということになりかねない。

● 「反撃能力」でミサイル迎撃は至難 貿易停止や邦人保護など難問

 そうした事態になれば、日本は軍事、経済の両面から大きな打撃を覚悟せざるを得ない。

 米中が戦うことになれば、沖縄の嘉手納空軍基地や那覇港をはじめ、佐世保港、岩国海兵隊航空基地、横田空軍基地、横須賀港、厚木海軍航空基地、三沢空軍基地などは米国の出撃拠点や司令部になるから、中国が弾道ミサイルや巡航ミサイルで攻撃をしてくるのは間違いないだろう。

 日本人の戦意を失わせようとして、主要都市も標的になる可能性も十分ある。

 中国が保有する中距離弾道ミサイルと巡航ミサイルは計約300発と推定される。短距離弾道ミサイルも190発あるようだが、それは台湾に向けて、日本には中距離ミサイルが使用される可能性がある。

 第2次世界大戦末期にドイツが量産した弾道ミサイル「V2号」(射程320キロ、弾頭1トン)はオランダから発射され、計517発がロンドンに落下し2700人の死者が出た。

 1発当たり5.2人だ。意外に少ないようだが、ウクライナでもロシアのミサイルによる死者は1発で数人が普通のようだ。

 もし日本に300発の火薬弾頭ミサイルが落下すると、死者は約1500人、負傷者は普通死者の2倍程度だから3000人に達すると思われる。

 中国は核弾頭も積める中距離ミサイルも保有するが、核を使えば米国は核で反撃し核戦争に発展するのはほぼ必定だから、絶望的状況で自暴自棄の心情になるまで核は使われないだろう。

 かつて「日米安保条約で日本は米国の戦争に巻き込まれる」との説は野党が主張したが、今では政府の方が「台湾有事は日本有事になる」という状態になった。

 こうした状況で政府や自民党内では「敵のミサイルを迎撃するミサイル防衛は困難だから、日本はミサイル攻撃に対し反撃能力を持つべき」という論が強まる。』

『だがミサイルは目標の精密な緯度・経度が分からないと発射できない。

 偵察衛星は秒速7.9キロで地球を南北方向に周回し、1日1回各地上空を通過する。固定目標は撮影できても自走発射機で移動するミサイルの位置はつかめない。

 「静止衛星はどうか」と言う人もいるが、これは赤道上空約3万6000キロで周回すると地球の自転に同調して止まっているように見えるものだ。

 通信の中継には役立つが、この距離から相手のミサイル発射や準備などの動きは発見できない。無人偵察機を上空に旋回させておけば撮影はできるが対空ミサイルで簡単に撃墜される。

 「ミサイルの位置が分からないなら、敵の司令部や政府の中枢を攻撃すればよい」との説もあるが、要人は地下の指揮所に入っているのが普通だ。

 深さ数十メートルの地中に届くような電柱型の貫通爆弾も造られてはいるが地下のトンネルがどちらに延びているかは秘密だからあまり役立ちそうにない。

 軍人や政治家も戦争を考える際には、軍事衝突の第1幕と短期戦を考えがちだが、中長期のことや国民生活や経済のことは後ろに置かれることが多い。

 だが戦争という事態になれば日中間の貿易は停止になる。

 2020年の日本の輸出の27.7%は香港を含む中国向けで、米国の18.4%をはるかに上回る。対中輸出が停まれば日本の工場の多くが閉鎖や縮小を免れないだろう。輸入でも中国からは全体の25.8%が来ているから部品や商品の供給が止まるなどで、連鎖倒産や失業が広がりそうだ。

 中国に進出している日本企業は1万6500社もあり、戦争になれば、工場や店舗などは敵性資産として凍結、接収されることになり、経済や産業への打撃は甚大なものになるだろう。

 中国に住む日本人は約11万人だが、仮に戦争に巻き込まれるとなったら、旅客機約300機分の人々を緊急に無事にどう帰国させるのか、逆に日本にいる中国人約78万人をどこに収容して保護、監視するのかも大変な難問だ。

● 台湾の世論は「現状維持」 「統一」も「独立」も戦火招く

 日中国交正常化50周年を前に、日経連などが12日に共催したシンポジウムで、林芳正外相は、双方の先人の努力をたたえ「建設的で安定的な関係を構築するのは我々の使命、責務だ」と語った。

 中国が望む「台湾統一」も、米国議員らが支持する「台湾独立」も、結局は戦争を招くことを意味する。

 幸い台湾人は現実的、合理的だから、台湾行政府の昨年11月の世論調査でも84.9%が「現状維持」を望み「すみやかに独立」は6.8%、「すみやかに統一」は1.6%にすぎない。

 安全保障の要諦はできる限り戦争を避けることであり、日本としては、もし2022年台湾政策法が制定されることになれば、米国との距離を置いて、曖昧だが中庸を得た現状維持に努めるしかないだろう。

 (軍事ジャーナリスト 田岡俊次)』