金融政策は死んだのか 「大いなる不安定」に向かう世界

金融政策は死んだのか 「大いなる不安定」に向かう世界
金融PLUS 金融部長 河浪武史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1817S0Y2A910C2000000/

 ※ 「金融政策」とは、「金利を操作して」「国内景気をコントロールする」策のことだろう…。

 ※ そういう「策」が、「世界的なパンデミック」による「経済停滞」、「戦争勃発によるエネルギー資源流通の停滞、食料資源流通の停滞による経済停滞」に、効果があろうハズも無い…。
 ※ 別に、「死んだ」わけじゃない…。

 ※ そもそも、構造的に「効果を発揮しようもない」事がら、というだけの話しだ…。

『日米欧で金融政策への信頼が揺らいでいる。日本は9年半の「異次元緩和」が思うように機能せず、米国も当局の誤算で40年ぶりの高インフレに陥った。根本原因である人口減少や地政学リスク、資源高には中央銀行だけで対処できない。1990年代以降の大安定時代(グレートモデレーション)から大不安定時代に変化したことが、金融政策の機能をますます弱めている。

FRBも日銀も物価を制御できず

「新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻が、マクロ経済の安定の転機になるのか。つまり、大いなる安定(Great Moderation)から大いなる不安定(Great Volatility)に移行するのか」。中銀関係者が今、最も話題にするのは、欧州中央銀行(ECB)のシュナーベル専務理事による「金融政策と大いなる不安定」と題したジャクソンホール(米ワイオミング州)での講演だ。

息の長い景気拡張となった90年代以降の「大いなる安定」は、80年代の高インフレの抑え込みがその理由と信じられている。大安定期は経済の先行きが読みやすく、中銀にとっては金融政策で市場と景気を自在に調整できた「黄金の時代」でもあった。その中銀関係者がこぞって「大不安定」を口にするのは、米欧で高インフレの発生を許し、日本では逆に大規模緩和が効果を上げないもどかしさがあるからだろう。

確かに経済・市場は「大いなる不安定期」にある。例えば米国では、コロナ危機で2020年春に失業率が14%台と戦後最悪の水準に悪化。その後の経済再開で今度は国内総生産(GDP)が戦後最大の伸び率となり、21年以降は資源高でインフレが止まらなくなった。日本も24年ぶりの円安となり、消費が弱含むなかで30年ぶりのインフレ水準にある。シュナーベル氏は「ユーロ圏もこの2年の生産量の変動率が09年の大不況期の5倍」と指摘する。

ジャクソンホール会議では、マクロ経済政策としての金融政策の限界論も議題となった(米ワイオミング州)=ロイター

「大いなる不安定」に移りつつある理由は3つ考えられる。まずはグローバル化の反転だ。1990年代以降の「大いなる安定」は、東西冷戦の終結で市場経済が世界大に広がった影響が大きい。足元はウクライナ危機や米中貿易戦争などで逆に世界経済が分断し、物価と景気を左右する資源と労働の供給も世界的に大混乱している。

もう一つは気候変動だろう。欧州が過去500年で最悪の干ばつに見舞われるなど、気候の変化は一段と予見しにくくなっている。短期的にみても、脱炭素社会への移行は石油価格の変動を大きくし、電気自動車などに使うレアアースの価格をさらに高騰させる。

大不安定を招く3つ目の要因は、金融政策そのものだといえる。米連邦準備理事会(FRB)やECBは、1回で0.5~0.75%という通常の2倍、3倍のペースでの利上げを進めている。緩和縮小の出遅れが最大の理由だが、急激な金融引き締めを断行せざるをえないのは、小幅な利上げでは政策効果を発揮できなくなっていることもある。

例えば巨大IT企業の設備投資はその巨体ほどは大きくない。製造業からサービス業、知識産業へと経済構造が変化するにつれ、産業全体の借入ニーズは小さくなり、金利で総需要をコントロールする金融政策の効果もしぼむ。効き目を持たせようと利上げや利下げの幅を大きくすれば、実体経済よりも金融市場での振幅が一段と大きくなる。日銀の異次元緩和も同じ文脈で、日本経済は円安という副作用ばかりが目立つ。

大いなる安定を支えた金融政策は、長くマクロ経済政策の王道だった。次なる「大いなる不安定」を避けるには、サプライチェーン(供給網)の安定など個別政策の組み合わせが重要になる。単純な金融政策頼みでは立ちゆかない。

「大いなる安定」は幸運が生んだ

「大いなる安定」は単なる幸運だったとみることもできる。内閣府の分析によると、80~90年代の世界的な物価低下の最大の要因は、省エネルギーと原油増産による1次産品の価格下落にあったという。当時の商品価格相場は70年代のピークから3割強も下落。とりわけ米国では物価低下の要因の8割が原油価格の下落にあり、マネー収縮の効果は1割程度にすぎなかった。

中央銀行は景気と市場の「最後の砦(とりで)」でもある。2008年のリーマン・ショックや20年のコロナ危機下では、大量の資金供給で市場の崩壊を食い止めた。足元のインフレを金融政策だけで制御するのは難しいとはいえ、中銀への信認が崩れれば市場の不安はさらに増す。静かに進む「金融政策の死」を食い止めるには、地政学リスクや公衆衛生リスクが早期に収まる強運も期待しなくてはならない。

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