米政権、広報チームを立て直し 大統領報道官は「2人」

米政権、広報チームを立て直し 大統領報道官は「2人」
ワシントン支局 中村亮
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN113410R10C22A9000000/

『米国のバイデン政権が広報チームの立て直しを急いでいる。大黒柱の大統領報道官は役割を内政と外交に分けて事実上の2人体制を敷く。バイデン大統領は民主主義の再生を訴えて報道の自由を重視しており、試行錯誤が続く。

2021年1月に発足したバイデン政権では当初、ジェン・サキ氏が大統領報道官を務めた。オバマ政権で国務省報道官やホワイトハウス広報部長を担った経験があり、議会対策や社会問題、外交政策に関する質問に幅広く答えた。もともと1年程度の期限つきだったとされ、今年5月に米ケーブルテレビ局MSNBCのキャスターに転身すると発表した。

後任にはカリーヌ・ジャンピエール氏が大統領副報道官から昇格した。ジャンピエール氏はハイチ人の両親の間に生まれ、幼少期にニューヨークへ移住した。黒人としても、同性愛者を公言している点でも初めての大統領報道官だ。バイデン氏が大切にする米国の多様性を体現している。

オバマ政権下のホワイトハウスで政治担当の要職に就き、20年の大統領選ではバイデン陣営の幹部を務めた。

一方で定例記者会見では、想定問答がびっちりと書かれた分厚いバインダーを見ながら慎重な言い回しをする場面が多い。とくに経験の乏しい外交・安全保障政策をめぐり、事前に準備したとみられるポイントから外れる発言はめったにない。

安保政策は主にカービー氏がカバー

カービー氏は安全保障政策の情報発信でバイデン大統領を支える

外交の手腕を売りにするバイデン氏はチーム強化に動く。5月に国防総省報道官を務めたジョン・カービー氏をホワイトハウスにある米国家安全保障会議(NSC)の要職に起用した。カービー氏はオバマ政権下の国防総省と国務省でそれぞれ報道官を務めたベテランだ。退役海軍少将でもあり、安保政策に精通している。

カービー氏は戦略広報調整官としてジャンピエール氏とともに記者会見へ参加するだけでなく、単独で記者からオンラインで質問を受ける機会を週2~3回つくることもある。毎日午後に予定するジャンピエール氏の定例記者会見よりも先に質問を受けることが多い。結果的にジャンピエール氏に安保政策の質問が集中しにくくなっている。

米政治専門サイトのポリティコは「ジャンピエール氏とカービー氏は共同大統領報道官として働いているようだ」と評した。

国防総省報道官に就いたライダー氏は8月末に定例記者会見を始めた

国防総省で報道チームを仕切ったカービー氏の転身は国防総省にとってサプライズだったとみられる。後任のパット・ライダー空軍准将が初めての定例記者会見を開いたのは8月末で、約3カ月間の空白が生まれた。

制服組の異動は8月ごろが多く、前倒しできなかったようだ。国防総省高官によるウクライナの戦況に関する説明も頻度が下がった。中国が8月上旬に台湾周辺で大規模な軍事演習を実施すると、カービー氏がホワイトハウスから米国の対応について情報発信した。

バイデン氏の会見数、歴代大統領に見劣り

国務省も6月に新たな副報道官にベダント・パテル氏が就いた。ホワイトハウスでの勤務に加え、民主党リベラル派の代表格であるプラミラ・ジャヤパル下院議員の側近を務めた経験がある。夏からネッド・プライス報道官とは別に対面形式の定例記者会見を単独で開いている。前任のジャリナ・ポーター副報道官は電話会見が大半だった。

バイデン氏は21年2月の演説で「自由な報道は我々の敵ではないと信じている」と強調した。トランプ前大統領が主要メディアについて「フェイクニュース」や「人々の敵」と批判し、ツイッターによる情報発信を重視した。バイデン氏はトランプ政権下で民主主義の根幹である報道の自由が揺らいだとの危機感を持つ。記者とのやり取りを増やすことはメディアとの関係改善に向けた具体策だ。

カービー氏は21年4月、日本経済新聞などの取材で、ツイッターについて「素晴らしい情報発信の手段だ」としつつも「政策のニュアンスや背景を説明する最善の手段ではないだろう」と語った。「情報を発信した際に(受け手の)誤解を完全に避けることができたと確信しない謙虚さが重要だ」と述べた。「何度も繰り返し強調する必要がある」と、定例会見の意義を唱えた。

一方でバイデン氏本人が質問を受ける機会は少ない。米サイトの「米大統領プロジェクト」によると、バイデン氏の記者会見の回数(外国首脳との共同会見などを含む)は21年に9回だった。新型コロナウイルスの影響があり単純比較は難しいが、トランプ氏は就任1年目の17年に21回実施していた。歴代大統領と比べてもクリントン氏が38回、ブッシュ氏(第41代)が31回で、バイデン氏を大きく上回っている。

バイデン氏は失言癖があり、側近がバイデン氏の記者会見に慎重だとの見方が根強い。真の民主主義の再生に向けて、バイデン氏もメディアの前に立つ場面を増やす必要がある。

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