“プーチンの戦争” 終わりは?

“プーチンの戦争” 終わりは? ロシア外交の専門家が分析
https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2022/08/26/24868.html

『2022年8月26日

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって半年。

各国が注目するのはプーチン大統領が「いま何を考え、今後どうするのか」です。

「プーチン大統領は欧米と完全に決別する方向にかじを切った」。
そう言い切るのがロシアを代表する外交評論家のフョードル・ルキヤノフ氏(Fyodor Lukyanov・55歳)です。

ロシアの政治の中枢、クレムリンに近いシンクタンクのトップで、プーチン大統領が議長を務める安全保障会議や外務省にもみずからの分析を伝え、助言もしています。

ロシアの外交政策上、影響力のある専門家の1人でもあるルキヤノフ氏に
軍事侵攻開始から半年を前に、ロシア国内でインタビューしました。
(聞き手・権平恒志 モスクワ支局長)
プーチン大統領の最近の演説から読み解けることは?
外交評論家 フョードル・ルキヤノフ氏

特に西側の支配への完全な否定に重点を置いています。これまでもこうした考えはありましたが、今では、一切の反論を許さない断固としたものになりました。

もともとソビエト崩壊後の目標は、西側が主導する世界のシステムに、ロシアの居場所を見つけることでしたが、一連の理由で失敗しました。いまやその目標は存在しないという決定が下されました。

西側社会とは対立、対決状態にあり、ある意味で冷戦当時よりも激しい対立状態にあるといっていいと思います。

今や中国をはじめアジア全体が世界の出来事の中心になりつつあります。ロシアが『西側中心主義』に戻ることはありません。
軍事侵攻の正当性はどう考えているのか?

プーチン大統領が演説で「歴史的ロシアの復活」という言葉をよく使うようになったことに注目しています。つまり、ロシアは一部の領土を不当に失っていて、取り戻さなければならないという考え方を導入したのです。

プーチン大統領はみずからを帝政ロシア時代のピョートル大帝と重ね合わせ、『ピョートル大帝は何も征服しなかった。彼は領土を取り戻したのだ』と言っています。

そして自分はその継承者として、ソビエト崩壊後にロシアが不当に失った一部の領土を取り戻さなければならないという理屈に立っています。歴史的にロシアの拡張領域に属していた地域であるウクライナはその主要な部分なのです。
半年にわたる侵攻をどうみる?

誰もこのような長期的な軍事作戦を想像していなかったと思います。そもそもプーチン大統領が、どのような計画を作成し、どの程度早く、何を達成しようとしていたのか知りません。

ただ、明らかに比較的、短期間での作戦を見込んでいました。
具体的な軍事目標はもうなくなっているかもしれません。

ロシア軍はウクライナの領土をゆっくりと占領しながら、激しく、血まみれになって前進していますが、到達すべきラインがどこにあるのか、明確な理解はなく、前進できるだけ進んでいる状況です。

どこかのタイミングで、両国が「いまのやり方では何も達成できない」という意識になると思います。そうなれば交渉が始まりますが、いまはまだその段階にまったく達していない状況だといえます。
欧米の経済制裁は効いているの?

短期的な影響は思ったよりも小さいものでした。ロシアはソビエト時代よりもはるかに変化に適応する能力があります。市民生活に必要な基本的なものはすべてあります。

ただ、欧米諸国がいうように制裁は徐々に効き、その効果は蓄積していくと思います。

経済制裁のせいで、天然ガスや原油、金属などの資源価格が急騰し、ロシアは資金を得ています。西側の欧米諸国にかわって中国やインドが購入し、かなりのところを埋め合わせているからです。

ただヨーロッパ諸国も徐々にロシアからの資源がなくなる状況に適応していくでしょう。こうしたことからロシア経済全体でみれば、いずれ大規模な立て直しが求められる深刻な危機を迎えると思います。
中国とはどこまで接近するの?

いまの状況下で中国はナンバーワンの「パートナー」です。

アメリカに感謝しなければいけませんが、アメリカの対中政策が、中国を、ロシアにとってより都合のよい方向に変えています。

海洋進出を進める中国はいま、ロシアを信頼できる安全な『後方』だと高く評価し始めています。ロシアも中国を恐れず、ともにいて心配ないと感じている唯一の隣国です。

もちろん中国に過度に依存する危険性はあります。両国間に存在する不均衡な経済や人口動態の状況を見れば明らかです。

ただ、これが直接的な危険だとは思いません。ロシアと中国はこの先ますます接近していくでしょう。
日本との北方領土問題を含む平和条約交渉はどうなる?

ロシアが領土問題の交渉に戻る可能性はすでに非常に低くなったと思います。

日本はアメリカ側に立ち、制裁を科し関係を制限するなど明確な立場をとりました。われわれが過去35年間やってきたことは事実上終わりました。

かつてゴルバチョフ氏が領土問題の存在を認めましたが、いまロシアではこの外交は間違いだったとみなされています。このテーマでロシア側からこれ以上協議することはないと考えます。
ロシア国内の反応はどうなの?

ロシア国内でプーチン政権の危機が起きうる兆しは見られません。

政権側は国民の総動員を行っていません。いま軍事侵攻に参加しているのは兵士たちです。一般の人たちではありません。だから今回のウクライナへの侵攻を「戦争」ではなく、あえて「作戦」と呼んでいるのです。

政権としては国民を総動員しないかわりにこの「作戦」への支持を得て、国民は総動員されないかわりに、一定程度支持する。政権側も国民側も持ちつ持たれつで、互いに干渉しない状態にあります。
今後どうなる?

見通しはまったく想像できません。出口戦略について話すのは時期尚早でしょう。ロシア側もウクライナ側も武力によって事態を変えることができると考えています。

妥協案が一切ない一方で、ロシア側もウクライナ側も武力による手段が使い果たされたという感じがしません。将来の平和を期待することは全くできません。

1950年代初頭の朝鮮半島有事の時は確か2年から2年半にわたって戦線は変わりませんでした。双方がもうどうしようもないと理解するところまでいきました。

どうにかして、この状態までもっていかなければいけません。ただ残念ながら、将来のロシアとウクライナの共存は、いまのところまだ誰にも想像できない状況です。』