ロシア「裏工作力」侮れず 敵対国の中枢機能に「毒」

ロシア「裏工作力」侮れず 敵対国の中枢機能に「毒」
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD133VT0T10C22A9000000/

 ※ 声が大きい勢力、パリッとしたお揃いの制服をそろえている勢力、キチンと印刷されたプラカードを持っている勢力、多色刷りで、色鮮やかなチラシやパンフを撒いている勢力に出くわした時は、気をつけよう…。

 ※ そういうことが可能になる背後関係として、「一体、どこからその金(カネ)が出ているのだろうか。」を、考えよう…。

『ロシアのプーチン大統領は9月7日、国際会議「東方経済フォーラム」で演説し、ウクライナ侵略について「軍事作戦では何も失っていない」と言い張った。強がりにしか聞こえないが、彼の発言には1つだけ根拠がある。ロシアは軍事作戦で失敗しても、民主主義国をかく乱する「裏工作力」がなお健在であるという点だ。

プーチン政権は政敵を消したいときに、しばしば毒殺を試みる。同じように、気に入らない国家にも偽情報や裏資金といった「毒」を注ぎ、機能を弱めようとする工作を続けている。
ジョージア政府と折り合い

そんな闇の影響力に最も強くさらされている国の1つが、ロシアの隣国で旧ソ連圏のジョージアだ。ふつうなら、ジョージアは世界で最も反ロシア的になってもおかしくはない。2008年にロシアに侵攻され、国内のアブハジア、南オセチアを実効支配されている。面積にして国の約2割だ。

9月上旬、現地を訪れた。南オセチアとの境界線付近の丘からは、ロシア治安部隊が駐留する平原を見渡せる。

案内してくれたジョージア国家保安庁高官によると、付近では深夜に発砲音が響くこともあり、まさに準戦時下だ。南オセチアには約5万人が住み、ロシアは8割に同国パスポートを発給した。

当然ながらジョージア国民はロシアに怒り、ウクライナや欧米への連帯感が濃い。ジョージアからは志願兵二千数百人がウクライナの戦場に向かい、9月初めまでに約20人が命を落とした。ジョージアの世論調査(2~3月実施)によると、欧州連合(EU)加盟を8割が望んでいる。

それだけに、ジョージア政府も極めて強硬な対ロ政策を貫いているのだろうと思ったら、実態は違った。ロシアと敵対せず、折り合う路線をとっているのだ。

ジョージア政府はロシアの侵略を批判はするが、西側諸国の対ロ制裁には加わろうとしない。「これは自分たちの戦争ではない」として、ウクライナへの軍事支援にも後ろ向きだ。

さらにウクライナ側は、ロシアによる制裁逃れのため、ジョージアの企業や銀行が使われていると疑う。ジョージアは真っ向から否定し、両国の関係は険悪だ。
軍事脅迫や「陰の権力者」

なぜ、ジョージア政府はそこまでロシアに配慮するのか。同国はサーカシビリ大統領(当時)の下、04~13年に親欧米・反ロシア路線を突き進んだ。ところが、彼が退任すると、ロシアとの関係改善にかじを切っている。

大きな理由のひとつが、ロシアによる露骨な軍事脅迫だ。14年にウクライナ・クリミアを併合して以来、ロシアはジョージアが次の標的になり得るという情報を流し、脅している。ジョージアには「北大西洋条約機構(NATO)に入れる見通しが立っていない以上、ロシアと過度に敵対せず、うまく共存するしかない」(同国元高官)という心理が働く。

しかし、理由はそれだけではない。地元の政治専門家らにたずねると、ジョージアの対ロ関係のキーパーソンとして「陰の権力者」の名前が浮かび上がる。

同国の国内総生産(GDP)の2割以上に当たる資産を持つとされる大富豪、ビジナ・イワニシビリ氏。ソ連崩壊後のロシアで事業を広げ、莫大な財をなした。

その後、政党「ジョージアの夢」(現与党)を創設し、12年10月の議会選で勝利、首相に就く。翌年秋に首相は退いたが、財力と人脈で「いまに至るまで、政府に絶大な影響力を持っている」(元ジョージア政府高官)という。

興味深いのは、イワニシビリ氏とロシアのつながりの深さだ。非政府組織(NGO)トランスペアレンシー・インターナショナルによると、12~19年、オフショア事業体を通じ、彼は少なくとも10社のロシア企業を所有していた。ロシアからみれば、対ジョージア工作上、願ってもない人脈だ。

イワニシビリ氏とプーチン政権に具体的な連携があるのかどうか、実態は闇の中だ。ただ、英オックスフォード大のニール・マクファーレン教授は「彼の承認がなければ、ジョージア政府はここ数年、親欧米から対ロシア中立に近い路線にまで、転換することはなかっただろう」と分析する。
米欧にも当てはまる警告

ロシアが影響力を振るう手段は、軍事脅迫や独自の人脈以外にもある。専門家によれば、プーチン政権は「欧米にはジョージアを助ける意志はない」といった偽情報を拡散し、世論のロシア離れを食い止めようとしている。

ジョージアの駐米大使、外相を歴任したテド・ジャパリゼ氏は語る。「ロシアという国家はジョージアを含む周辺国の安定を損ない、その独立性と主権を弱め、ロシアの言いなりにさせようとする。これを防ぐためには、ジョージアのあらゆる与党、野党が少なくとも重要戦略で協力し、国の安定を維持しなければならない」

この警告は、格差や人種間の分断が深まる米欧にも当てはまる。米紙報道によると、ロシアは14年以降、自国の意に沿いそうな20カ国以上の政党や選挙候補者に対し、3億ドル(約430億円)以上の資金をひそかに渡した。「ロシアは欧州だけでなく、米国の極右・極左集団も支援している形跡がある」(米情報関係者)

各国から重い制裁を浴び、ロシアの国力は衰えていくだろう。だが、旧ソ連仕込みの対外裏工作力の危険は、決して侮れない。そのことをジョージアは教えている。

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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貴重な体験談

ロシアが2016年の大統領選挙に介入した事実が明らかになり、今年、ウクライナに侵攻した今となれば、ロシアの他国への影響力工作は明白な事実として共有されていますが、かつては米国でもそうではありませんでした。2008年のオバマ対マケインの大統領選挙の頃から、ロシアの問題を認識していたマケイン候補は「好戦的すぎる」としてリベラル派から批判されていました。マケイン氏はジョージアのサーカシビリ大統領を支援しており、彼の外交アドバイザーのランディ・シェナメン氏はジョージアのロービイストとして批判されました。シュナメン氏は私の友人で日米同盟も支持する立派な専門家なのですが、米世論はロシアに甘かったのです。
2022年9月16日 12:08
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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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別の視点

ジョージアの国旗は、白地に赤い十字架を5つ配した「ファイブ・クロス・フラッグ」。記事にある通り、欧州に親近感を抱く国民が多い。だが、6月23日に開かれたEU首脳会議は、加盟申請があった国のうち、ウクライナとモルドバについては候補国として認める一方、ジョージアは却下。ジョージア国内では数万人規模でデモが発生し、この決定への不満が示された。「ウクライナとその隣国モルドバは、欧米傾斜を強める中、ロシアの侵攻と軍事的脅威にさらされている」が、「ジョージアは2008年にロシアの軍事介入を受けたものの、14年以降のウクライナほど決定的な反ロシア路線を歩まなかったという違いがある」と時事通信は解説していた。
2022年9月16日 11:10 』