バフェット氏が直面した労働組合の圧力(NY特急便)

バフェット氏が直面した労働組合の圧力(NY特急便)
米州総局 伴百江
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1603J0W2A910C2000000/

『15日の米株式相場は反落し、ダウ工業株30種平均は前日比173ドル安で終わった。景気への影響が懸念されていた鉄道会社労働組合の大規模なストライキはバイデン政権の仲介により、労使が暫定合意に達したことで運行のストップは回避された。このニュースで株式相場はいったん上昇したものの、長くは続かなかった。

ストに突入した場合、原油や農産物、小売業界の商品などの生活必需品の貨物輸送が影響を受け、供給網の寸断による一段の物価上昇と、1日20億ドル(約2800億円)に上る経済的損失が懸念されていた。今週発表された8月の米消費者物価指数(CPI)が予想以上の上昇となり、市場には〝CPIショック〟が広がったが、スト突入による景気への潜在的な打撃を踏まえれば、株式市場にとってはそれ以上の〝鉄道スト・ショック〟になるとの懸念も強まっていた。

それだけにバイデン大統領が労使交渉で合意に至ったとの声明を発表すると市場には安堵感が広がった。もっともユニオン・パシフィック、ノーフォーク・サザン、CSXといった大手鉄道株の値動きはまちまちだ。各社の賃金コスト上昇が業績を圧迫するとの懸念も背景にある。労使交渉では、14%の即時賃上げに加え、2020~24年の5年間に複利で年率24%の賃上げと毎年1000ドルの特別賞与の支給に合意した。

賃上げに加え、今回の労使交渉で注目を浴びたのが鉄道労働者の労働環境の悪化だ。無給の病欠をとることが難しかったり、毎日24時間、緊急勤務のための待機を要請されるなど、車掌や乗務員の過労につながっていると労組側は主張していた。

コロナ禍で360億ドル富を増やしたウォーレン・バフェット氏は、労働者の賃金と待遇改善に動くべきだ――。バーニー・サンダース上院議員は労使交渉が成立する直前、大手鉄道会社BNSFを傘下に抱える投資会社バークシャー・ハザウェイの最高経営責任者(CEO)のバフェット氏が傘下の鉄道会社の労働者待遇を改善しない姿勢を非難した。

今後、BNSFをはじめとした大手鉄道会社は労使交渉成立を受け、賃金引き上げに加え、労働条件の改善を迫られることになる。全米の貨物輸送の30%をカバーしていた大手鉄道会社のスト回避で、供給網寸断による物価上昇のリスクは避けられた。しかし、労働者の賃金上昇によるインフレ圧力は一段と高まることが予想される。

過去1年ほどの間に米国での労働組合組成や労働争議が活発になっている。ミネソタ州では先ごろ看護師約1万5千人がストライキに突入、オハイオ州では教員が新学期開始と同時にストを実施した。

米国野村証券のエコノミスト、雨宮愛知氏は「労働組合の賃金引き上げ圧力は、賃金物価上昇スパイラルを加速させる」として、インフレの先行きに大きな不安要因と指摘する。1970年代に賃金物価上昇スパイラルに陥った状況をほうふつさせるとして、米連邦準備理事会(FRB)は金融政策でさらに試練に陥るとみる。同氏は来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で1%の利上げ実施を予想し、「FRBは市場にタカ派としての強いメッセージを送る必要がある」と指摘する。

全米の労働組合の勢力拡大は、バフェット氏のような経営者にも金融政策当局にも大きな試練を与えつつある。

(ニューヨーク=伴百江)

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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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ひとこと解説

鉄道ストショック懸念について、粗方答えが出てきた。労使交渉の行方は、なんと14%の即時賃上げ。加えて24年までの5年間に複利で年率24%の賃上げと毎年1000ドルの特別賞与の支給。なんたる成果!しかし、余程景気がよくなりトップラインがそれ以上に上がるのでもない限り、相当のコスト増だ。また、バイデン氏の介入で鉄道ストショックは止まった割には株価も冴えず、これでは中間選挙前の得点にはなっていなさそう。労使交渉による賃金妥結上昇率は数か月遅れて物価・インフレに効いてくることも知られており、タカ派にウェイトを置いたFRBの金融政策が継続する理由の一つになったと見てよいのではないか。
2022年9月16日 9:41』