ポーランド、世界の新鋭戦車の集積地に

ポーランド、世界の新鋭戦車の集積地に
グローバルウオッチ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR070EZ0X00C22A9000000/

『「これは最新戦車なのだ。歴史上、最も大切な契約といえる」。ポーランドのブワシュチャク国防相は4月、ツイッターで喜びを爆発させた。手に入れたのは米国の主力戦車M1A2エイブラムス250両。いまは対ロシア防衛の切り札として納入を待つ。

政府は7月にエイブラムスを100両以上、追加で購入することも決めた。さらにはドイツのレオパルト、韓国のK2。世界中から戦車をかき集める同国はいま「最新鋭戦車の集積地」といわれる。

今年2月、ロシアがウクライナに侵攻し、同国へも脅威がつのるなかで、西側からの兵器調達を強化している。ポーランドは冷戦期、東側軍事同盟のワルシャワ条約機構に属したが、1991年には同機構がソ連の崩壊を受けて解散、99年に北大西洋条約機構(NATO)に加盟した。

兵員も増強中だ。破格の給与で志願兵を募り、若い兵士でも手取りで月給4500ズロチ(14万円)。衣食住は無料で、ポーランドでは大学教授などと同じ所得水準になる。

国防費は国内総生産(GDP)の3%を見込みNATOの目標(2%)をはるかに上回る。実質的な臨戦態勢だ。

首都ワルシャワからロシア領カリーニングラードまで300キロメートルしか離れていない。ロシアと気脈を通じるベラルーシと国境を接する。いつロシアの機甲師団が国境を越えてもおかしくない。

ポーランドは、23年に総選挙を控えている。与党「法と正義」の支持基盤は保守層で、愛国心に訴える政策は受けもいい。

ロシアの攻撃に備え東側防衛強化

国土の東部でロシア軍を迎え撃つための体制づくりも急いでいる。NATOを仮想敵としていた冷戦時代は、西ドイツ方面から攻めてくる戦車を食い止めるため、主力部隊はドイツ寄り(西部)に配置された。兄弟国家のソ連(現ロシア)からの攻撃は想定されず、東部は手薄だった。

いま敵味方は逆転した。ドイツは歴史問題で感情的なしこりが残るものの、安全保障では信頼できるパートナー。一方、ロシアの脅威は日増しに膨らむ。

ポーランドで開催された国際防衛産業展の会場の外で、米軍の主力戦車M1A2エイブラムスの近くにポーランドとアメリカの国旗を持って立つ米兵=ロイター

そこでポーランド東部に部隊を手厚く再配置。さらに東部が戦場になった場合に備え、病院などのインフラも整える。「NATO軍が応援にくるまでポーランド軍だけでロシア軍を食い止める」とワルシャワにある国防大学のピオトル・グロホマルスキ教授は語る。

少し前までポーランド軍高官にはモスクワ留学組が多かったが、その世代が引退した。冷戦時代から使ってきた東側陣営の武器はウクライナに譲り、代わりに西側の兵器を導入している。これはポーランドが冷戦の残滓(ざんし)を一掃し、名実ともに西側陣営になろうとしている過程といえる。
消えゆく「負の遺産」

ロシアのウクライナ侵略から半年あまりが過ぎた。軍事大国ロシアの脅威がよみがえり、欧州はプーチン独裁との関係を断ち切ろうとしている。ところが脱ロシアは一朝一夕には実現しない。91年までソ連の同盟国だった東欧諸国は、負の遺産を消そうと四苦八苦する。ポーランドの隣国ドイツも脱ロシアで奔走中だ。

ドイツ東部シュベートに巨大な化学プラントがある。首都ベルリンのガソリンなどの需要を一手に担い、地元には欠かせないインフラだ。

設備は冷戦期に東独が国家プロジェクトとして建設したもの。東側陣営の経済協力の枠組み「経済相互援助会議(コメコン)」に基づき、ソ連から原油の供給を受けることを前提に設計されたため、いまでも原油はロシアからのパイプライン供給に頼る。

事態は一変した。欧州連合(EU)と主要7カ国(G7)はロシア産原油の禁輸を決めた。このままだと首都ベルリンのガソリン供給に支障が出る。ほかのパイプラインからの供給で原油を代替できるのか。プラント関係者によると、各国政府と協議に入ったという。

ロシアはいずれ民主化して、欧州の一部になる――。長年にわたって欧州で信じられてきた幻想はついえ、ロシアへの幻滅と失望が広がる。「今日の視点から見れば過ちだった」。プーチン大統領らと交流を重ね、エネルギーをロシアに頼ったことをドイツのウルフ元大統領は悔いる。

欧州統合は理想主義のうえに成り立ち、人権や民主主義といった理念を大切にする。自らが苦しくなったからといってロシアに屈するわけにいかない。

翻って日本はどうか。なおもロシア産エネルギーの輸入にしがみつき、代替策をどう確保するかの議論は乏しい。勢力圏とみなす地域を力ずくで従わせる「プーチン・ドクトリン」を許してはならない。(欧州総局長 赤川省吾)

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赤川省吾
日本経済新聞社 欧州総局長
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ひとこと解説

欧州では急速に「脱ロシア」が進んでいます。歴史や文化を共有するにもかかわらず、関係を断ち切る覚悟。今後は東欧にあるロシア製原子力発電所も米国やフランス製に置き換わると私はみています。

日本で「脅威」というと中国や北朝鮮ばかりが意識され、ロシアへの危機感は薄いのではないでしょうか。

以下参考記事です
半世紀ぶりの脱ロシア ドイツ経済のジレンマ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR011JD0R00C22A4000000/
2022年9月14日 19:20 』