IPEF交渉入り合意 中国念頭、4分野で対抗軸

IPEF交渉入り合意 中国念頭、4分野で対抗軸
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『【ロサンゼルス=金子冴月】米国が主導する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の閣僚会合が9日(日本時間10日未明)に閉幕し、14カ国が正式な交渉入りに合意した。半導体など重要物資の供給網(サプライチェーン)やエネルギー安全保障といった4分野の声明で協議の方向性を示した。インド太平洋地域で影響力を強める中国に対抗する経済圏づくりが具体化へと進む。

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8、9両日に米ロサンゼルスで開いた初の対面による公式閣僚級会合で、各国が交渉入りを確認した。①貿易②供給網③エネルギー安全保障を含むクリーン経済④脱汚職など公正な経済――の4分野で、それぞれ閣僚声明を採択した。今後は声明に基づいて各分野で参加国が交渉を進める。

インドが貿易分野への参加を見送るほかは、すべての国が4分野に加わる。インドは貿易分野にオブザーバーとして関与する。

インドは国をまたぐ自由なデータのやりとりを目指す日米などとの隔たりが埋まらなかったとみられる。ゴヤル商工相は記者会見で「我々はデジタル経済を形成する過程にある」と述べ、データやプライバシーを巡るルールへの参加を求められることに警戒感を示した。「参加国がどのような利益を得られるのかまだ見えていない」とも語った。
閉幕後に記者会見するレモンド米商務長官㊧とUSTRのタイ代表(9日)

レモンド米商務長官は閉幕後の記者会見で、2023年初めに次回の閣僚会合を開くことに意欲を示した。「今後数カ月で米国や他国の経済的な利益を引き出すことに注力する」と語った。

供給網に関する声明では、供給の途絶時や混乱時に政府間で連携する「情報共有と危機対応のメカニズム」の構築を盛り込んだ。具体的には有事の際の情報収集や危機対応にあたる調整役を各国が任命し、半導体や医療品といった重要物資の在庫を融通できるようにすることもめざす。

陸上や航空、水路、海運、港湾などのインフラを含めた物流の強化にも触れた。物流データの収集・利用を促進し、物流の改善に向けた投資や技術協力を進める。

貿易分野の声明では、デジタル経済や農業、貿易円滑化などの交渉事項を示した。農業では食料安全保障を重視しつつ、農産物の不当な輸出制限は避けるよう促す。

クリーン経済の声明では、再生可能エネルギーへの移行に必要なインフラ整備を進める考えを示した。公正な経済の声明では汚職の防止や犯罪収益の把握に取り組むことや、グローバル企業への二重課税を防ぐために協調することを明記した。

西村康稔経済産業相は閉幕後の記者会見で「多様な有志国が連携し、通常の通商協定を超えてサプライチェーンやクリーン経済など新たな課題にも応えていける枠組みに育つ可能性を秘めている」と期待を示した。

IPEFは日本、米国のほか韓国、オーストラリア、インド、インドネシア、シンガポールなど14カ国で構成する。

インド太平洋地域を中心とした経済枠組みにはすでに環太平洋経済連携協定(TPP)や東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)がある。いずれも世界最大の経済大国である米国は参加していなかった。

交渉が順調に進むかは見通せない。IPEFは従来の貿易協定とは異なり、関税の引き下げや撤廃には踏み込まない。米国市場への参入機会の拡大というアジアの新興国にとっての最大の利点が欠けているとの指摘がある。データ流通や人権をめぐってはアジアの一部の地域で取り組みが遅れている。

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