[FT]北朝鮮、ロシアに急接近 中国の思惑から離反

[FT]北朝鮮、ロシアに急接近 中国の思惑から離反
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB120DR0S2A910C2000000/

『北朝鮮がロシアとの関係強化を目指している。ロシアがプーチン大統領の指導によるウクライナ侵攻で米欧の制裁を受けている機会を利用している。国連安全保障理事会の決議に違反して核兵器開発を進める北朝鮮政府に対する制裁を強めようとする国際社会の結束が脅かされている。

北朝鮮の金正恩総書記(左)とロシアのプーチン大統領は互いを必要としている(2019年、ロシア極東ウラジオストク)=ロイター

米当局は6日、ロシアが北朝鮮から「数百万発のロケット弾や砲弾」を購入したと明らかにした。米欧の制裁を受けるロシアが兵器や弾薬の補給に支障を来しているためだ。

これは北朝鮮とロシアの接近を示す新たな事実だ。北朝鮮は7月、中国の姿勢と異なり、ロシア軍の支援でウクライナ東部ドンバス地域の一部を実効支配する親ロシア派武装勢力の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を国家承認した。

「包括的で建設的な関係を拡大」と表明

8月には北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記とプーチン氏が「共通の努力で双方の包括的で建設的な関係を拡大する」と表明する文書を取り交わした。

複数のアナリストや米欧の外交官によると、北朝鮮は今後、朝鮮半島の緊張が高まった場合、ロシアの支援を確実に得るため、ロシアを支えている。

中朝関係のシンクタンク、Sino-N Kで北朝鮮とロシアの関係に詳しいアンソニー・リンナ氏は「北朝鮮は、ロシアが米欧からの孤立を深めているいまこそ、ロシアの弱みにつけ込めると考えている」と指摘する。「金正恩氏からみれば、ロシア側に明確につくいまの好機を逃せば、そのような機会がいつまた訪れるか分からないからだ」

北朝鮮は、ロシアが2月にウクライナ侵攻を始めた際、米国の「覇権主義」や「横暴な振る舞い」が原因だと批判し、ロシア支持をすばやく表明した。国連総会の緊急特別会合でウクライナ侵攻を非難する決議が採択された際、反対票を投じたのはロシアを除けば北朝鮮を含む4カ国だけだった。

ロシアは北朝鮮の秋波に応じる形で、米国と韓国の両国軍が8月に実施した合同軍事演習に猛反発した北朝鮮に同調した。

ロシアの駐北朝鮮大使は最近のロシアメディアのインタビューで、北朝鮮で22年に新型コロナウイルスの感染拡大が起きたのは韓国から飛んできたウイルス付きの風船が原因だとする北朝鮮の説得力のない主張を肯定するような発言もした。

ルガンスクとドネツクの2つの「人民共和国」の代表は北朝鮮当局と、ロシアが占領するウクライナの諸都市を再建するため北朝鮮の労働者を受け入れる案を協議している。
ロシアによる大砲購入は北朝鮮制裁の違反

米政府や対北朝鮮制裁違反を監視する国連機関で勤務した経験を持つ核拡散防止の専門家、アーロン・アーノルド氏は、ロシアによる北朝鮮の大砲の購入や労働者の活用は北朝鮮制裁の「重大な違反」だと言い切る。だが、ロシアが(北朝鮮に)制裁を科すときちんと約束したことは一度もないと説明する。

アーノルド氏は「ロシアは何年も前から北朝鮮への制裁に違反してきた」と述べる。だが「重大な違反行為の詳細は記録され、広く知られている」とも話す。

アナリストらは、ロシアの経済面での孤立は、同国と北朝鮮の犯罪ネットワーク同士の連携を強める可能性があると警告する。

カーネギー財団モスクワセンターの上級研究員アレクサンドル・ガブエフ氏は「ロシア経済における密輸の重要度が高まっている。密輸は北朝鮮経済には欠かせない要素だ。特に双方の当局者が様々なことを自由にできる環境のロシア極東部では、密輸を通じて協力関係の構築を目指す動きが浮上してもおかしくない」と語り、具体的な対象として武器、麻薬、暗号資産(仮想通貨)をあげた。

西側の高位外交官は、(ロシアを含む)国連安保理の常任理事国同士の関係がすでに「破綻」していると認めながらも、北朝鮮が核実験に踏み切れば「一定の結束」が復活することを期待する。

Sino-N Kのリンナ氏は「ロシアが『西側』と呼ぶ各国からの疎外を強く感じ、正真正銘の極悪非道な行動を始めるかどうかがカギだ」と主張する。「ロシアがもはや後に引けない状況になれば、北朝鮮との協力はあらゆる分野に広がる」
中国は北朝鮮のロシア接近を望まない

ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターの中国外交専門家、ユン・スン氏は「北朝鮮とロシアの連携が強まれば、ウクライナ東部の2つの人民共和国を国家承認していない中国にとって厄介な事態になる可能性はある」と解説する。

「中国は、朝鮮半島で同国と北朝鮮、ロシアによる『北のトライアングル』と韓国、日本、米国が加わる『南のトライアングル』が対立する事態を懸念する」と話す。

スン氏は「北朝鮮が核実験を実行した場合、ロシアと中国が国連安保理の(非難)決議で拒否権を発動するとは考えられない」との見方を示した後、次のように分析した。

「北朝鮮はロシアと中国が躊躇(ちゅうちょ)なく強力な支援を提供してくれることを期待して『北のトライアングル』の再建を望む。しかし、中国の思惑は異なる。韓国と日本の対米接近を阻止したいからだ」

By Christian Davies

(2022年9月8日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

竹内舞子のアバター
竹内舞子
経済産業研究所(RIETI) コンサルティングフェロー
コメントメニュー

分析・考察

現地時間7日の米国務省副報道官会見では、ロシアが北朝鮮から大量のロケット砲や砲弾を調達する動きが進行中 (in the process of purchasing) と述べている。https://www.state.gov/briefings/department-press-briefing-september-7-2022/#post-374659-RussiaNorthKorea2 
    
実際に調達すれば、安保理北朝鮮制裁の核心である北朝鮮からの武器調達禁止に安保理理事国が違反することとなる。砲弾などが回収されれば製造国が分析できるし、今後米国が明確な情報を公表することもあり得る。
しかし決議違反に対して国連が取れる措置は極めて限定的だ。また5月には中露の拒否権行使で残りの全13ヶ国が賛成した北朝鮮制裁決議が否決された。安保理機能不全の中で平和のための役割を有志国がどう補えるかが課題だ。
2022年9月12日 14:19

上野泰也のアバター
上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
コメントメニュー

ひとこと解説

「敵の敵は味方」。権謀術数うずまく外交の世界における一種の鉄則である。ウクライナに侵攻したことで、ロシアは明確に米国の敵になった。また、北朝鮮にはロシアと陸続きで短い国境線があり、豆満江に鉄道橋がかかっている。国連による経済制裁を受けている身だが、北朝鮮としてはロシアから必要な物資を手に入れる可能性も当然視野に入れているだろう。記事にある通り、中国は北朝鮮のロシア接近を快く思わないとみられる。だが、北朝鮮からすればそれも計算のうちではないか。対ロシア関係でどこまで踏み込むかを、今度は中国から支援を引き出すカードに使えるかもしれない。この独裁国家の外交方針はしたたかで、対処は一筋縄ではいかない。
2022年9月12日 13:03 (2022年9月12日 16:05更新)

峯岸博のアバター
峯岸博
日本経済新聞社 編集委員・論説委員
コメントメニュー

ひとこと解説

中国とロシアの二股をかけるのは、極東の小国である北朝鮮のお家芸です。建国の父、故金日成主席も冷戦期にソ連と中国に確執が生じたのをみて、それぞれに接近と離反を繰り返す等距離外交を展開し、両国から食料や兵器の支援を引き出すことに成功しました。「振り子外交」は核兵器の増強とともに米国や日韓から身を守る戦術ですが、現在の北朝鮮に中国の機嫌を損ねることはできません。細心の注意を払いながら中朝蜜月とロシアとの関係強化を続けていくのでしょう。ロシア接近の背景と北朝鮮の抱えるジレンマは、6月3日の電子版「朝鮮半島ファイル」でも解説しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK011JT0R00C22A6000000
2022年9月12日 18:56 (2022年9月12日 19:28更新) 』