世銀・西尾副総裁「最貧国に多重危機」 各国の協力訴え

世銀・西尾副総裁「最貧国に多重危機」 各国の協力訴え
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2972V0Z20C22A8000000/

『世界の主要中央銀行が大幅な利上げに動いている。インフレを断固として抑制するためで、各国中銀は9月も大幅な利上げを続ける見通しだ。各国が金融引き締めを加速すれば、重い債務負担を抱えた新興国にとっては打撃になりかねない。世界銀行副総裁で戦略的資金調達を統括する西尾昭彦氏に今後の展望を聞いた。

――欧米が金融引き締めを進めています。新興国経済への影響をどう見ていますか。
世界銀行の西尾昭彦副総裁は欧米の利上げで、低所得国の経済成長が鈍化するリスクが高まっていると指摘した

「欧米の金利上昇はこの数年間で悪化傾向にあった低所得国の債務状況をさらに深刻にしかねない。いくつかの対応が急務だ。1つ目は新興国側が自国の債務管理政策を強化して債務の透明性を向上させ、財務体質を改善すること。世界銀行はこのような自助努力を支援している」

「2つ目は変動金利で短期借り入れを増やす傾向にあった低所得国に対し、低い固定金利での長期貸付やグラント(返済義務を課さない資金)をより多く供与し、優先度の高い開発プロジェクトに振り向けていくことだ。世界銀行グループの国際開発協会(IDA)は2021年末の会合で史上最高の930億ドル(約13兆円)の増資パッケージで合意した。これからの3年間で世界の低所得国74か国に対して低金利の長期貸付やグラントを供与する。東京で12、13日に始動イベントを開く予定だ」

「3つ目は20カ国・地域(G20)財務相会合でつくった『債務処理のための共通枠組み』を強化し加速させることだ。加盟国すべての協力が必要となる」

――アフリカや中近東の最貧国と呼ばれる国の経済状況が心配です。

「多重危機に見舞われ、困難な状況だ。地球温暖化の影響で、畑の作付けができた地域で雨が降らなくなるといった危機が進行し、人々の生活基盤が奪われている。新型コロナウイルス対応も先進国よりはるかに遅れ、ウクライナ危機が重なったことでロシアやウクライナからの小麦の輸入国に大きな打撃を与えている」

――債務返済に問題はないのでしょうか。

「債務返済に支障をきたすリスクがこの数年増え続けている。昔は欧米や日本、カナダといった国が債権者だったが、今はアフリカの多くの国に対し、中国やインド、トルコといった国がお金を貸している。にもかかわらず、先進国、新興国の双方を包括した債務処理のための共通枠組みができていないという問題があった。ただ、G20諸国がつくった債務処理に向けた共通枠組みには日米欧のほかに中国などが参加しており、最近になってある程度前進がみられる」

――開発援助の課題は何でしょうか。

「途上国に流れる援助資金の総額はゆっくりとしか増えていないのに、援助国側で援助資金を使っている事業体の数がこの20年で2.5倍ほどに増えた。世界銀行の調査では途上国の70%以上が60以上の事業体を相手にしているとの結果が出た。援助の細分化傾向にブレーキをかけて効率性を増すべきだ。一つ一つのプロジェクトの平均サイズも小さくなってきている」

――世界銀行を中心とした国際金融はこの先どうなっていくと考えますか。

「世界銀行の持つ意味は今よりもさらに大きくなる。まず国際的な対話と協力の場としての重要性だ。低所得国支援で世界が協力する場としての実績は大きい。2つ目は危機対応能力だ。多重危機が進行する中、コロナや食料問題など様々な分野の専門家を抱えている。通常の銀行とは異なり、政策提言と資金供与の両輪で色々な危機に対応できる」

「3つ目は脆弱国家への対応だ。紛争、貧困、人的資源の不足などで運営が困難になっている国への開発支援は非常に難しいが、こうした国にも駐在事務所を持ち、具体的なプロジェクトを動かしている。脆弱国家への支援活動を継続できるのは世銀の優れて特徴的な側面だ。内戦が続くイエメンでは最近、世界銀行が間に入って民間資金を呼び込み、食料の流通が大幅に改善された。こういった取り組みを広げていく」

――最後に、日本の若者が世界で活躍するには何を意識すればよいでしょうか。

「日本人は他国と比べて教育水準が高いしまじめだ。チームプレーヤーで誠実だという良いイメージが海外にある。一方、国際舞台で戦う上で自分1人で戦うことに慣れていないハンディがある。欧米では若いときから自分を客観的に見つめ、セールスポイント、自説をどう発信するのか常に訓練している」

「日本の若い人も早くから1人で戦うことに慣れることが必要だ。失敗して肩を落とすような局面でもへこたれては前に進めない。開き直って再挑戦するハングリー精神も培ってほしい」

(聞き手は小野沢健一)
西尾昭彦(にしお・あきひこ) 海外経済協力基金(現国際協力銀行)での勤務を経て、1988年に世界銀行に入行。IDA担当局長、南アジア地域担当戦略業務局長、世界銀行研究所業務局長などを経て、19年2月から現職。横浜市出身。』