ウクライナ、東部の要衝奪還 ロシアの補給路を分断

ウクライナ、東部の要衝奪還 ロシアの補給路を分断
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『ウクライナ軍が東部を中心に侵攻ロシア軍の制圧地域を奪還する動きを加速させている。米シンクタンクの戦争研究所は11日、急速な反攻で東部ハリコフ州で制圧されていた地域の「ほぼ全域を奪還した」との戦況分析を示した。米欧から供与された兵器でロシア軍の補給拠点をたたき、同軍の継戦能力が大幅に低下したタイミングで一気に攻勢をかけた。

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ウクライナ軍にとっては、2月から3月にかけて首都キーウ(キエフ)を守り抜いて以来の大きな戦果となる。自壊ぶりを隠しようがないロシア軍が、局面打開へ大量破壊兵器の使用などに踏み切る懸念もある。

ウクライナ軍はここ数日間、東部ハリコフ州で攻勢を維持し、10日にロシア軍の鉄道による補給拠点だったクピャンスクを奪還したのに続き、11日にはゼレンスキー大統領が、ロシア軍が同州内で重要拠点としてきたイジュームを奪還したと宣言した。ロシア国防省も10日に「作戦強化を目的とした部隊の再配置を決めた」との表現で、イジュームからの撤退を事実上認めた。

ウクライナ軍のザルジニー総司令官は11日「今月に入ってから3000平方キロメートル以上の領土を奪還した」とSNS(交流サイト)に投稿した。これは東京都の1.4倍に匹敵する広さだ。ロシアとの国境まで50キロメートルに迫ったとしている。

ロシア国境に近いハリコフ州の町で記念撮影するウクライナ兵(11日)=ウクライナ国防省提供・ロイター

戦争研究所は11日、イジュームを失ったことで、東部ドネツク州全域の制圧というロシアの目標は達成困難になったと指摘した。10日には、ロシア軍が無統制な状態でイジュームを放棄しているとの見方を示していた。

東部におけるウクライナ軍反攻の思わぬピッチの速さは、そのままロシア軍の自壊ぶりの裏返しといってよい。ロシア軍側では、侵攻当初から不十分だった補給物資の集積拠点が、米欧諸国からの軍事支援を受けたウクライナ軍に精密攻撃されたことで兵器が枯渇。兵士の士気低下も収まっていない。

ウクライナ軍参謀本部によると、ロシア兵の中には軍服を脱ぎ捨てて戦線を離脱する者が続出しているという。戦時国際法上の「軍人」の要件は、①組織として行動②武器を携行③軍服を着用ーーの3つで、ロシア兵が軍服を脱ぐことは「ウクライナ軍の攻撃対象から外れたい」との意思表示となる。

ウクライナ軍の作戦面でのうまさも際立っている。同軍は8月以降、南部での攻勢を強め、それによってロシア軍は東部に展開していた部隊の一部を引き抜いて南部に移動せざるを得なくなった。米軍の助言も効いているもようだ。

この結果、ロシア軍が手薄になった東部に対し、今回ウクライナ軍は大きな抵抗も受けずに部隊を進めることができた。軍事的に言えば、包囲された側(ウクライナ軍)が、戦力の振り向け先を効果的に切り替え、包囲する側(ロシア軍)を翻弄する非常に巧みな「内線作戦」と言える。

日本では戦国時代、甲斐の武田軍が、相模の北条の「首都」だった小田原を奇襲的に包囲し、これに驚いた北条軍が実効支配していた旧今川領の駿河東部を放棄し、小田原防衛を強化。これをみた武田軍が駿河東部を大きな抵抗も受けずに制圧した故事がある。

武田軍の小田原奇襲がウクライナ軍の南部反攻、武田軍の東部駿河制圧が今回のウクライナ軍の東部奪還に相当する。北条軍が小田原防衛を強化したように、ウクライナ東部に展開するロシア軍は今後、2月24日の侵攻開始以前から実効支配していた東部2州の一部地域を最終防衛ラインとして戦力を立て直そうとする見通しだ。

ただ、武田軍の小田原包囲が相手をおびき出す陽動作戦だったのに対し、ウクライナ軍の南部反攻は陽動作戦にとどまらない見通しだ。ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が制圧したすべての地域を取り戻すまで戦闘を継続する、と繰り返し強調している。ウクライナ軍は、東部奪還作戦と並行して南部でも攻勢を続けそうだ。

強まる懸念は、ロシア軍が目下の劣勢をはね返すため、大量破壊兵器の使用も含めた「別次元の戦い」に踏み切る事態だ。東部や南部のウクライナ軍の兵力や物資の集積地帯に、爆発力の比較的小さな超小型核弾頭や、化学弾頭を装塡した弾道ミサイルを打ち込んだり、黒海洋上の無人空域で威嚇を目的とした核攻撃演習をしたりする恐れがある。

(編集委員 高坂哲郎)

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