欧州 インフレが試す民主主義

欧州 インフレが試す民主主義
欧州総局長 赤川省吾
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR082Y60Y2A900C2000000/

『インフレ抑制のため、欧州中央銀行(ECB)は8日の理事会で大幅利上げを決めた。物価高は通貨ユーロの信認を傷つけ、政治不信を膨らませる。近く行われるイタリア議会選は極右政党が第1党の勢い。ロシアのウクライナ侵攻という第2次大戦後最大の危機に直面するなか、記録的な物価上昇が欧州統合と民主主義を揺さぶりつつある。

足元のインフレ率が8%を超えるイタリア。9月25日の議会選を目前に控え、野党の極右政党・イタリアの同胞(FDI)が支持率25%でトップを走る。新型コロナウイルス対策の行動制限への不満が膨らんでいたところに物価高が重なり、政権批判票の受け皿となった。

子育て支援や年金増額、減税――。FDIを軸とする右派連合は、財政の大盤振る舞いで物価高を相殺すると公約する。実現すれば財政規律を守らせたい欧州連合(EU)とのあつれきは避けられない。南欧危機の再燃を懸念する金融市場では、イタリア国債の利回りが上昇(価格が下落)している。

インフレでダメージを被るのは年金で暮らす人や、不動産などの資産を持たぬ人だ。2022年4月の仏大統領選でも物価対策を訴えた極右ルペン氏が現職マクロン氏にあと一歩まで迫った。

欧州には苦い経験がある。超インフレに見舞われた1920年代のドイツで中産階級が没落。広がった社会不安を背景に勢力を伸ばしたナチスが欧州、そして世界を戦火に巻き込んだ。

100年前の再来はあるのか。「物価高を口実に極右勢力が反政府デモを動員しやすくなった」。ドイツのフェーザー内相は独メディアで警鐘を鳴らした。ショルツ独首相はインフレを社会の分断につながる「爆弾」と表現した。

気になるのは欧州の足並みの乱れだ。物価高の元凶であるエネルギー不安の解消に奔走するあまり、自国第一主義がちらつく。

ドイツは財政力にものをいわせて代替エネルギーを確保するが、資金力で劣る東欧諸国は取り残された。そのなかで親ロシアのハンガリーはロシア産ガスの輸入を増やす。

「(欧州の民主主義はロシアという)外からの脅威だけでなく、内なる脅威にもさらされている」。ウルフ元独大統領は日本経済新聞に語った。乗り切るには欧州各国が内向き志向を捨て、結束するしかない。

例えばスペインとフランスを結ぶパイプラインの建設などガスや電力を域内で融通できる体制づくりが急務となる。財政に余裕のある北部欧州が南欧や東欧を支えることも必要になるかもしれない。

過激主義が力を増せば欧州は民主主義陣営の「弱い輪」となりかねない。危機をばねに統合を深められるのか。戦争が欧州に選択を迫る。(欧州総局長 赤川省吾)』