減税という議論が、できるだけ羨ましい英国議会 : 机上空間

減税という議論が、できるだけ羨ましい英国議会 : 机上空間
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/29607516.html

『イギリスで、スキャンダル退陣したジョンソン元首相に代わって、リズ・トラス氏が新首相に選ばれました。政権交代はしていないので、首相の退任による保守党党首選挙=イギリス首相の選挙に勝利したのです。思想的に非常にジョンソン首相寄りと言われていて、日本では日英包括的経済連携協定(日英EPA)で、品目別に関税などについて外務大臣として日本と協議した相手としてお馴染みです。

やけにチーズの関税に拘って、日本で食習慣の薄いチーズで、交渉が長引くのは、いかがなものかと、英国内でも少し批判が出ていました。まぁ、おおまかでは、無難な協定をまとめた上、現在はジェット・エンジンの世界的なメーカーになっているロールス・ロイスの日本への部品提供や、時期主力戦闘機の共同開発など、先走った言い方をすると、「新日英同盟」とも言われる単なる経済協力以上の関係を締結した、イギリス側の交渉窓口になった人ですね。実際、最新鋭巡洋艦の「もがみ」の推進力になっているジェットタービンは、ロールス・ロイス製ですし、自衛隊の輸送機のジェットエンジンにも、ロールス・ロイスのエンジンは使用されています。

今まで、航空機関係は、アメリカ一辺倒だったのですが、アメリカから提供される技術やメンテナンス部品が、アメリカの政権や世界情勢で振れ幅が大きいので、全面的に依存していると、自主的なメンテナンスが不可能になる可能性があります。その為、保険として、イギリスと組む事を考えたわけです。

対中・対ロ強硬派として知られているので、政策は殆どジョンソン元首相を踏襲するものと思われます。こんなトラス氏ですが、学生時代までは、両親がバリバリの左翼だった事もあって、自身も「王室制度の廃止」を演説する生粋の左翼活動家でした。何しろ、母親が地元の反原発グループのリーダーだったりします。オックスフォード大学からシェルに就職して、会計士として働くうちに、思想を180度転換しています。本人は、当時の自分について、「間違いは誰でも犯すもの」と、完全に若気の迷いで行った黒歴史という位置づけです。

現在、イギリスは、エネルギー不足によるインフレが絶賛進行中で、アメリカを超える10%のインフレになっています。光熱費は、既にウクライナ侵攻前の3倍に跳ね上がり、そろそろ人が暮らすのが苦しいレベルになっています。イギリスは、北海油田を持っているので、ドイツなんかと比べると、多少マシなはずなんですが、それでもインフレは深刻です。

このインフレ退治の為に、大幅な減税を政策にしているのがトラス氏です。アメリカも、そうですが、海外では、景気対策として、普通に減税が議論の対象になります。なぜか、日本では、増税が予定され、それに先立って、景気刺激策としてウン兆円を先行して投入という、良く判らない方法を取ります。減税という選択肢が無いかのように政策をするのですね。そして、半年分ぐらい景気下支え策として、増税する前にバラ撒きをするという不思議な事をします。

ただ、以前にも説明した通り、景気を下支えする為に減税をするという事が、インフレ抑制になるかと言えば、議論の分かれるところです。負担が軽くなる事で、助かる国民は多いと思いますし、インフレでエネルギー代金として吸われていた消費が戻るのも確かですが、基本的に消費が抑制されないと、インフレというのは収束しないのです。つまり、国民の生活を政策で助けると、インフレが進行する可能性があります。これが、インフレ退治が容易では無い理由です。経済の実態に関係無く、消費を抑制しないと、物価の上昇は抑制できないのです。その為、殆どの国で、ある一定以上のインフレ率を超えると、抑制する事ができず、高止まりするか、ハイパーインフレに移行します。

まあ、それでも、「減税」と言うだけで、政治家の長老連中が「増税するのに、どれだけ苦労したと思っているんだ」と、議論する前に、選択肢として否定する日本よりはマシです。増税も減税も、その時の経済情勢で決める政策だと思うのですが、日本ではなぜか増税は良くて、減税は悪になっています。そして、一度上げた税率は、意地でも下げないという事が正義になっています。

一律税率で取る消費税は、一見すると公平に見えますが、税制としては決して優れている制度ではありません。直接税の場合、景気が良い時は税収が増えて、景気が悪い時は税収が減るというバランサーが自然と働いて、納税する側にかかる負担が調整される仕組みになっています。ところが、消費税は、貧乏人が消費しようが、金持ちが消費しようが、払う税金は同じです。見かけは平等ですが、税負担が収入に占める割合が違うので、貧乏人には厳しく、金持ちには優しい税制度でもあるのです。そして、税率を上げれば、確実に景気を悪くします。これで、消費が縮小すると、結局、税率を上げた分を吸収してしまい、増税した意味が無くなります。ヨーロッパの高福祉国の消費税が、30%とか40%とか、高止まりをしているのを見ても、一度税率を上げると、景気の縮小で、税率を下げる選択肢が無い税制度だという事が判ります。

トラス氏は、敢えてその中で、税率を下げると言っているので、今後、どうなるか見ものです。逆に言うと、失敗してインフレが進行すると、短命政権で終わる可能性が高いです。そして、その可能性は、決して低く無いと思います。国民の税負担を軽くする事は、消費を抑制しない事につながり、それはインフレが高止まり、もしくは進行する事を意味するからです。全ては匙加減次第なので、今の時点で、どちらとも言えないが正しいでしょう。まぁ、成功して欲しいのですが、こればっかりは、判りません。』