円安でも日本株が買われない本当の理由

円安でも日本株が買われない本当の理由
編集委員 川崎健
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD073DM0X00C22A9000000/

 ※ それと、「地政学的リスク」も強く意識されるようになってきたんだと、思うよ…。
 
 ※ ウクライナ事態を目の当たりにすれば、台湾海峡問題も、絵空事とは思えなくなってくる…。

 ※ ましてや、実弾使った大演習や、EEZ内にミサイル着弾ともなれば、なおさらだ…。

 ※ 経済の法則だけ見ているのでは、「大局」を見失う…。

 ※ ここいら辺が、「眼力」だ…。

『市場の常識だった「円安=日本株高」の定式が崩れている。7日は約24年ぶりとなる1ドル=144円台まで円安・ドル高が進む中、日経平均株価は上げるどころか一時300円を超える下げを演じた。国内参加者は「日本売りが始まった」とざわつき始めたが、実際にそうなのか。市場を動かす海外投資家に聞くと、本当の理由がみえてきた。

「こちらで暮らしていて輸入最終製品が安く買えるという感覚はあまりない」。シカゴで働く米運用会社、RMBキャピタルの細水政和パートナーはいう。「消費者は物価・人件費高騰とそれに伴う価格転嫁でドル高の恩恵は感じられない。モノが売れなくなっており、ジャクソンホール会議以降、市場で強まった米景気腰折れの懸念はもっともだ」

米富裕層や年金基金などからお金を預かり、日本株を含む国際株を長期運用する細水氏。「米国経済がこんな調子だと、日本の輸出企業は販売数量が増えず、円安の恩恵を受けられないのではないか」。足元の大幅な円安がかつてのような日本株買いにつながらないのは、日本経済ではなく米国経済への先行き不安に起因するとみている。

2008年のリーマン危機以降、ドル円と日本株はほぼ連動して動き、2012年からのアベノミクス相場では円安と株高が同時進行した。

両者の連動性が崩れ始めたのが20年だ。株価は同年3月のコロナショックの急落後に反転上昇したが、為替相場では円高・ドル安が進んだ。そして今年に入ると、両者の連動性は完全に崩壊。足元の8月末以降は一本調子の円安が進む中、日本株は下落基調で推移し、かつての「円安・株高」の関係は「円安・株安」に反転した。

円安でも日本株が買われない理由としては「日本企業の業績の為替感応度が低下しているから」という説明が一般的だ。11年の1ドル=80円を切る超円高に直面した日本の製造業は海外現地生産や部品の現地調達を進め、輸出に依存した経営を転換。業績の為替感応度を意識的に下げてきた。

これは、データからも明らかだ。野村証券が対ドル・ユーロで1円の円安が日本を代表する主要企業の経常利益をどれだけ押し上げるのかを集計したところ、22年度は0.40%になる見通しだ。直近ピークだった12年度(0.87%)の半分以下に為替感応度は下がった。円安による業績押し上げ効果が下がれば、株価も上がらなくなってくる。

しかし、日本企業の業績の為替感応度は縮小したとはいえなおプラス圏であり、マイナスではない。これだけでは、円安で株価が下がる現状を説明できない。今は構造的な別の変化が起きているはずだ。

為替分析にも詳しい野村証券の池田雄之輔チーフ・エクイティ・ストラテジストは、今の円安の理由にその秘密が隠されているとみている。同氏は、円安には①日銀緩和型②景気拡大型③インフレ加速型――の3つの類型があると指摘。①や②のパターンの円安であれば市場心理の改善や企業業績の拡大を通じて株高につながりやすい。

現在は③のインフレ加速型の円安だ。インフレ退治を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)が急ピッチな利上げを進める米国に対し、日本は日銀がゼロ金利政策を継続中だ。日米金利差が拡大し、円が売られる構図だ。

「円安で日本株が下がっているのは、インフレ加速型の円安では米景気の悪化を通じて企業業績が悪化する恐れがあるからだ」。池田氏はいう。インフレによる実質所得の減少で米消費が冷え込めば販売数量が減り、円安による円ベースの海外収益の押し上げなど吹き飛んでしまいかねない。

言い換えると、円安でも日本株が下がっている原因は、米経済にあるということだ。「今の円安下の株安は『日本売り』ではなく『米国売り』と呼んだほうが実態に近い」。池田氏はいう。

日本株安が、国力低下を懸念した海外勢の「日本売り」かどうかを判断する目安となるファンドがある。米ブラックロックが運用する海外最大の日本株ETF(上場投資信託)の「MSCIジャパンETF」だ。

同ファンドは為替ヘッジをつけていないため、円安が進めば円ベースの日本株の下落幅よりもさらに値下がりする。それでも海外勢が日本を見限るのであればこのファンドを損切りするため、円安と株安が同時進行する。

同ファンドの発行口数の推移をみると、4月以降の急速な円安下でもまとまった解約売りが出ていない。今は海外勢の「日本売り」が起きていない有力な傍証といえる。

「米国投資家の今の最大の関心は、米景気悪化が現実になれば、割高な米国株を売った資金をどこに移すのかだ」。RMBキャピタルの細水氏はいう。その受け皿の有力候補だった欧州株は、ウクライナ危機とそれに伴うエネルギー危機で候補から消えつつあるという。

消去法的に候補に残るのが、日本株か、エネルギー危機が深刻な欧州大陸とは少し距離が離れた英国株だという。そう考える投資家が細水氏だけでないことは、両者の現地通貨ベースの株価が、米国株などに比べると底堅く推移していることからもわかる。

「円安がいつ反転するかどうかは分からないが、それまでは割安な日本株はお買い得だ」(細水氏)。日本株もそう捨てたものではない。

(編集委員 川崎健)』