ロシア石油が裏流通、英発表「輸入ゼロ」実態とズレ

ロシア石油が裏流通、英発表「輸入ゼロ」実態とズレ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE257CS0V20C22A8000000/

 ※ 世の中、何でも「裏の話し」がある…。

 ※ 「大本営発表」を、鵜呑みにしてはいかん…。

 ※ 特に、自分の身にかかわるような策を、考えようとする場合は、なおさらだ…。

『ロシアからの石油輸入が6月にゼロになったとする英国政府の発表が実際の取引の流れを映していない公算が大きくなった。日本経済新聞はロシア発の石油がギリシャ沖で別の船を移し替えられて欧州に流入するケースが急増していることを検証し、その中の1隻から英国企業が6月に石油を陸揚げしていたことを確認した。輸送量は30万バレルで、ウクライナ侵攻前のロシアからの月間輸入量の6%にあたる。産地が不確かな石油を当局が把握しきれず、統計に算入されていない疑いがある。

日経は米プラネット・ラブズの衛星画像、英リフィニティブの船舶自動識別システム(AIS)と積み荷重量を表す喫水の情報、欧州エネルギー調査会社ケプラーの取引記録を使って分析。ロシア産の石油がタンカーでギリシャ沖に運ばれ、洋上で移し替える「瀬取り」を行った後、受け取った船が6月4日に英東部イミンガム港に入り、同6日までに荷降ろししたことを突き止めた。

ロシアの港を出た「マリナー3」(写真右)が英国に向かう「マリノウラ」に石油を「瀬取り」で移し替えた(5月11日、ギリシャ沖)=米プラネット・ラブズ提供

出発地点は黒海に面したロシア南部のトゥアプセ港。国際標準時間の4月30日、石油を積んだマーシャル諸島籍タンカー「ブルートレーダー」が出港した。5月6日にはパナマ籍タンカー「マリナー3」がトゥアプセ港を離れた。2隻はギリシャ沖で停泊し、11日までにマルタ籍タンカー「マリノウラ」に移し替えた。

船の喫水変化から瀬取りの有無を検証

瀬取りの有無は喫水の変化で調べた。喫水は船底から水面までの距離で、荷物が重いほど値が大きくなる。ロシアを出た2隻のタンカーの喫水は地中海上で11.2メートルから7メートル、9.5メートルから8メートルに減少。一方、マリノウラの喫水は7.6メートルから12メートルに増え、イミンガム港で7.6メートルに戻った。

ケプラーの記録によると、取引された石油はロシア国営石油会社ロスネフチが生産した計約30万バレルの「高硫黄常圧残油」だった。精製すれば重油として使え、アスファルトの原料にもなる。国際エネルギー機関の統計ではウクライナ侵攻以前の英国のロシアからの石油輸入量は月間約500万バレル(2021年11月)で、30万バレルは6%にあたる。

この石油をまず購入したのは、ロスネフチと深い取引関係を持つ資源商社大手トラフィギュラ。スイスに本拠を置く同社は石油を英国に運び、英石油元売り中堅のプラックスグループに売却した。世界12拠点に展開するプラックスはイミンガム港に隣接するリンジー製油所を、21年3月までに仏トタルエナジーズから買収した。

陸揚げされた石油の流通経路を調べるため、取材陣はイミンガム港近郊を訪れた。イミンガム港とリンジー製油所はパイプラインでつながり、精製された石油は鉄道やタンクローリーで英国全土に運ばれている。ロシアの石油の取り扱いをイミンガム港に確認すると「英国政府の方針に従って対応している」とコメントした。保守派が多いことで知られる地元の住民は「噂には聞いていたが、残念だ」と口々に語った。

難度が高い輸入品の「原産地」検証

ロシア制裁に積極的な英国は3月8日に年内の石油禁輸を決めた。その後、英国企業にロシアとの取引を縮小するように奨励。英政府統計局は8月24日、石油も含めた燃料のロシアからの輸入が6月にゼロになったと発表し「政府の大きな目標の下で、他国からの輸入が増え、ロシアとの取引がなくなった」と強調した。

だが、この発表は実際のモノの流れを映していない懸念がある。英国では「瀬取りで原産国情報は変更されない」(英歳入関税庁)ため、洋上で移し替えた今回のようなケースはロシアからの輸入となる。

申告には貨物の到着から90日の猶予期間があり、プラックスが今後、7月以降分として届け出る余地はある。ただ、瀬取りを介した取引はもとの出荷地が見えにくくなる。米国は制裁下にあるイラン石油の産地偽装に瀬取りが使われていると指摘。国連安全保障理事会の報告書も、北朝鮮が瀬取りを使った違法取引を繰り返していることに警鐘を鳴らしている。

「英国当局は確認を書類上の手続きに頼っており、実際の貨物の流れを追えていない。国際海運には規制の穴がたくさんある」と英ロイズ保険組合系の海事アナリスト、ミシェル・ボックマン氏は話す。ロシア石油の調査を進めてきた非政府組織(NGO)グローバル・ウィットネスのルイ・ゴダード氏は「一部の石油業者は合法的に制裁をかいくぐることにたけている」と指摘する。

「6月輸入ゼロ」で浮かぶ食い違いは、単なる手続きの遅れではない可能性もある。

(長尾里穂、朝田賢治、関優子、北本匠、三浦日向、横沢太郎)

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